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ビジネスチャンスになる未常識とは? 「共通の感覚」から司るイノベーション

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「宇宙の中心は地球であり、太陽や月などのすべての天体は地球の周りを回っている」。2世紀のギリシアの天文学者クラウディオス・プトレマイオスが提唱した「天動説」は、長きにわたり常識だと考えられてきました。しかし、16世紀にニコラウス・コペルニクスが「地動説」を唱えると、17世紀にガリレオ・ガリレイが望遠鏡で宇宙を観測することで地球が太陽の周りを回っていることを裏づけました。そして、アイザック・ニュートンが万有引力の法則を発見して地動説に基づく宇宙観を証明しています。

コスモロジーにおける地動説が確立したのはわずか500年ほど前のことであり、人類の長い歴史においては「天動説=常識」だった期間のほうが圧倒的に長いことが分かります。このようにその時代の常識が次の時代においても常識であり続けるとは限りません。新たな発見やテクノロジーの進歩によってかつての常識が覆されることは、人類の歩みにおいてはく自然なことです。次の時代を占ううえでは、今後の常識になりそうなトピックを先取りすることが求められます。つまり、「未常識」を捉える力が、今後のビジネスチャンスをつかむうえでも重要と言えるでしょう。

新たな常識を生むのは人や社会の共通の感覚(common sense)

古今東西、時代を動かしてきたパイオニアやイノベーターたちが共通して唱えてきた「合言葉」があります。それは「常識を疑え」というフレーズです。現状をより良くするためには既成概念にとらわれて保守的になるのではなく、当たり前の考え・環境に疑念を持って改革を実行することが求められてきました。それは人類史において常に繰り返されてきた出来事であり、時代ごとに技術的・学術的なパラダイムシフトが起こることで文明が発展し続けてきました。つまり、常識が覆されることは、今後も例外なく繰り返されることでしょう。

現状の常識が未来永劫、常識であり続けるとは限らない――。その考えを念頭に置きつつ、ではどんな状況下で常識が変わるのかを意識する必要があります。1つは冒頭の地動説を筆頭とした世紀の大発見があった場合です。たとえば、新種の物質や生物が発見されたとしたら、それまでの常識の範囲が大きく変わることは想像に難くないでしょう。その他に常識が覆される場面として挙げられるのが、人や社会において新たな「共通の感覚」が醸成される瞬間です。

日本語での常識という言葉は、社会で人々の間に広く認知され、当然持っているはずの基本的な知識や判断力のことを意味します。「彼は常識のない人だ」という使い方に代表されるように、「学識がない」「学ぶべきことを学んでいない」というニュアンスも含まれています。一方、常識は英語では「common sense」と訳されますが、直訳すると「共通の感覚」という言葉になることにお気づきでしょうか。社会通念・共通認識といった意味合いであり、知識や学識といった観点よりも、より倫理観に近いニュアンスが含まれていることが分かります。

ある事象において共通の感覚がコミュニティ内で醸成されると、人々の中で徐々にその感覚が当たり前となり、最終的には常識として定着します。たとえば、内閣府が発表した「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」によるとコロナ禍前の国内のリモートワークの実施率は、2019年12月時点で10.3%と非常に低い水準でした。しかし、ステイホーム期間に全世界的にリモートワークの推奨が行われると、一気に「家でも仕事ってできるものだね」という共通の感覚が芽生えました。それはまさしく、リモートワークが人々の常識として定着した瞬間です。

また、別の例を挙げてみると、フードデリバリーサービスにおいても人々の共通の感覚が変わったと言えるでしょう。デリバリー市場はコロナ禍前においても存在していましたが、従来まではピザや寿司、中華料理を電話で注文することが一般的でした。しかし、アプリで手軽に注文できるデリバリーサービスの出現により、食品類だけでなく日用品なども外出要らずで購入できるようになりました。さらに、委託配達員という新たなジャンルの雇用を定着させるきっかけにもなっています。

このように新たな常識は、知識や学識的な考えの普及も重要ですが、より人々の生活に根ざした共通の感覚が醸成されることによって風向きが変わると考えられます。そのため、現状では当たり前ではないものの、今後は共通の感覚として定着するであろうトピックスや考えにも意識して目を向けることが大切です。いわゆる先見の明を持つこととも言い換えられますが、まだ定着していない「未常識」をキャッチアップすることが時代の先取りにもつながるでしょう。

未常識(uncommon sense)と非常識(no common sense)との明確な違い


「未常識」という造語を見聞きしたことがない方もいるでしょう。未常識とは、現状では一般的ではないものの、今後、普遍的な考え方になるポテンシャルを持った考え方のことです。未だに常識になっていない「未来の常識」として捉えるとイメージしやすいでしょう。

たとえば、年功序列が一般的だった日本社会では、成果主義の考え方は「欧米的である」と捉えられ、取り入れていたのは外資企業中心でした。しかし、日本型の終身雇用がほぼ崩壊している現代では、年功序列を取り入れない企業が増え、少数派だった成果主義が時代のスタンダードになりつつあります。効率化や生産性向上という言葉が日常的に飛び交うなど、日本社会においても成果主義の考え方が今や常識となりました。このように、未来の常識は意外と身近に存在するかもしれません。

一方で、常識の対義語として「非常識」という言葉もあります。非常識は、常識を外れていることや、常識を持ち合わせていないことを意味します。言い換えれば、共通の感覚を持ち合わせていないこととも同義です。つまり、当然従うべき社会規範に外れている非模範的な状態を意味するので、非常識な振る舞いは人としては避けるべきでしょう。

未常識という造語が広く一般的に浸透していない現代では、非常識と混同されることもあるかもしれません。明確に区別するうえでは、英訳して考えると良いでしょう。未常識は「uncommon sense」と訳されるのに対して、非常識は「no common sense」です。uncommonは珍しい、異常な、非凡なという意味合いがあります。共通の感覚ではないものの、その感覚自体が否定されるべきものではありません。一方でno commonは明確に「共通ではない」という否定語になります。

常識が醸成される過程として、新たな大発見と共通の感覚の形成を挙げました。天文学のスタンダードが天動説から地動説になるなど、世紀の新事実発覚で非常識が常識になることはこれまでもありました。しかし、常識が形成される過程はどちらかと言えば、徐々に人々の中に根づいていくこと――つまり、未常識が常識として浸透・普及していくことのほうが多いのではないでしょうか。だからこそ、未常識を「常識の種」と捉え、世の中を先取りする意味でも常日頃から情報をキャッチアップすることが大切です。

未常識をビジネスチャンスに変えるカギは複眼的思考

未常識が新常識へとなり替わる流れをビジネスの分野に当てはめるならば、共通の感覚により生まれた未常識を先読みして新たな市場を作ることではないでしょうか。もうすでに常識的に知り尽くされたレッドオーシャンで勝負するのではなく、未常識のフィールドであるブルーオーシャンで知恵を働かせたほうが活路を見出しやすいでしょう。ではどのようにして未常識の領域をビジネスへと活かせばいいのでしょうか。それには常日頃から複眼的な思考を意識することが良いトレーニングとなるはずです。

複眼的思考とはステレオタイプにとらわれずに、ものごとを複数の視点で自由に行き来することで、1つの視点にとらわれない思考です。誰にとっても疑いようがない基本的な認知として常識を考えると、思考が絶対化されてしまい、物事を多面的に捉えることができません。そのため、少し物の見方や角度を変えてみるなど、相対化して考える癖を身につけると良いでしょう。

イノベーションにおいては「常識にとらわれず現状を疑う」という姿勢が重要です。ある人にとっては絶対的なものだと捉えられている常識や認識に「なぜ?」を問いかける――物事や認識を批判的でも別の視点から考えることによって、そのコンテキストを理解し論理の筋道を追えます。問いを展開し、多面的に思考することで新たな価値に気づくきっかけになるのです。詰まるところ、ビジネスにおけるイノベーションは、そうした現状を疑うことを常に出発点としていると言えます。

未常識という造語を無為に捉えると、どこか常識から外れたアウトローな考え方かと誤認しがちですが、未来の常識となる考えやビジネスのアイデアは常に身近に転がっているはずです。そうした今後のチャンスのきっかけをつかむのは簡単ではないですが、常日頃から施行のトレーニングをしていないと、チャンスや変革のタイミングをキャッチアップすることは難しいでしょう。

未常識は詰まるところ、将来的にどうなるか分からないからこそ、未開のまま枯れることもあれば、大輪の花を咲かせることもあるのです。そうした、常識の種の可能性を信じて頭を働かせ続けることが、唯一の未常識をビジネスチャンスに変える方法なのかもしれません。

 

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