2024年4月22日、「ポイント大国」と呼ばれる日本において大きな転換期を迎える出来事が起こった。それは日本におけるポイントサービスの先駆者的存在で、共通ポイントの代名詞であった「Tポイント」が、三井住友銀行と三井住友カードで貯まるSMBCグループ共通のポイント「Vポイント」に統合され、「新生Vポイント」としてサービスを開始したことに他ならない。「Tポイント」はTSUTAYAや蔦屋書店などを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)グループの共通ポイントとして長らくポイント市場の覇権を握っていただけに、この統合に時代の変化を感じた方も多いだろう。
現代は三菱商事のPonta(ポンタ)、楽天グループの楽天ポイント、NTTドコモのdポイントというVポイントを含めた共通ポイントの4強に、QRコード決済サービスのPayPayが加わった5強が鎬を削る群雄割拠の「ポイント戦国時代」の真っただ中だ。ではなぜBtoCにおいてポイントサービスはここまで重要視されているのだろうか。また、BtoBにおいてポイントサービスの根幹の考え方である顧客ロイヤルティはどう捉えるべきなのだろうか。LTV視点を軸にBtoBの顧客ロイヤルティの在り方を検証する。
2027年度の日本国内のポイントサービス市場は約3.4兆円規模に
日本は世界でも有数の「ポイント大国」だと言われています。国内のBtoCにおいてポイントが重視されていることは市場規模の大きさからも明白です。株式会社矢野経済研究所が2023年10月に発表した2022年度の国内ポイントサービス市場規模(ポイント発行額ベース)は、2兆4,816億円。2023年度は前年度比106.1%の2兆6,328億円になる見込みであり、2027年度には約3兆4,000億円の市場規模にまで成長すると考えられています。
※株式会社矢野経済研究所(https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3374)より引用
共通ポイントサービスは、前述した5強を中心に大規模加盟店を含めた共通ポイント加盟店獲得を進めています。近年では幅広い業種での共通ポイントの導入、一店舗で複数のポイント発行を行えるマルチポイント化、QRコード決済の普及に伴うポイント発行の増加などもあり、市場はまだまだ右肩上がりで伸びる予測です。
消費者側からすれば、商品やサービスを購入することで共通ポイントが付与され、一定数貯まることで商品と交換できたり、1ポイント=1円などの交換比率で現金のように使えたりするポイントサービスを利用しない手はありません。また、企業側としても物価高が進む時代において商品やサービスの値下げに踏み込むのは、なかなかハードルの高い決断だと言えます。値下げの代わりにポイントを付与することで、顧客ロイヤルティを高める施策を行っている企業は少なくないでしょう。
顧客ロイヤルティとは、顧客が商品やサービスに対して抱く信頼や愛着の度合いを示す指標です。ロイヤルティ(Loyalty)は「忠誠心」という意味であり、長期的に商品やサービスを利活用してくれるかどうかえでロイヤルティが高いか、もしくは低いかを判断します。ポイントサービスが日本でここまで普及している背景には、企業が顧客ロイヤルティを高める手法として効果的だと考えている点が大きいと言えるでしょう。そして、各社が覇権を争うべく、さまざまな施策を講じているのがポイントサービス市場の情勢です。
「1:5の法則」の考え方からOTVよりLTVを重視
顧客ロイヤルティを高める施策として、各社がポイントサービスを展開する流れは今後もしばらく続きそうですが、そもそも顧客ロイヤルティを多くの企業が重視しているのにはどんな背景があるのでしょうか?その答えは明白であり、新規顧客を獲得するには、既存顧客が再び商品やサービスを購入してもらうよりも5倍のコストがかかると考えられているからです。これはマーケティングにおける「1:5の法則」の考え方であり、利益率を踏まえても、新規顧客の獲得以上に既存顧客の維持が重点課題だと考えられています。
いわゆる自社の商品やサービスをご贔屓にしてくれる「お得意様」がなぜ大事になるのか。それは商品やサービスを一度でも利活用した経験があることで、そのメリットを(デメリットも含めて)すでに認知してもらっている可能性が高いからです。消費者心理を考えても、まったく馴染みのない新規の商品やサービスを試すよりも、すでに見知っていて勝手が分かるほうを手に取りやすいでしょう。このように既存顧客はリピーターとなる可能性が高く、中長期的に商品やサービスを利活用してくれることが期待されます。
どの企業も事業を末永く継続させることを目指すのが一般的であり、持続可能な経営を望んでいるでしょう。そうなると、1回の取引で得られる利益であるOTV(One Time Value/ワンタイムバリュー)よりも、生涯にわたり顧客が企業にもたらす価値であるLTV(Life Time Value/ライフタイムバリュー)を重視するのは必然と言えます。LTVは日本語では「顧客生涯価値」と訳されており、新規開拓よりも既存を囲い込むことで価値あるお付き合いを継続することを目指した取り組みと言えます。
もちろん、常に新規顧客が舞い込んでくるビジネスモデルであれば、OTVでも事業成長を果たすことはできるでしょう。しかし、人口減少、記録的な円安など日本社会が困難に陥っている状況の中で、常に新たな顧客を獲得できる商品やサービスは非常に画期的かつ稀有な存在だと言えます。市場の縮小と飽和が進む中で、新規顧客に対して競合他社との差別化を常に発信し続けることが簡単ではなくなってきている時代背景を踏まえても、LTV視点を重視する傾向は今後も続くことでしょう。
BtoBこそお得意様の顧客ロイヤルティを高めるLTV視点が重要
ポイントサービスに代表されるように、時代は新規顧客を次々に獲得しようとするOTVの考え方から、既存顧客と生涯にわたるお付き合いを目指すLTVの考え方にシフトしつつあります。顧客ロイヤルティを理解するするうえでは、ポイントサービスなどのBtoCの施策がイメージしやすいですが、BtoBにおいてもLTV視点を重視すべきなのでしょうか。その答えはもちろん、Yesです。その理由としては「ABMの浸透」「CRMの定着」「サブスクリプションの普及」の3つが挙げられます。
その1:ABMの浸透
ABMとは、Account Based Marketing(アカウントベースドマーケティング)の略であり、ターゲットに設定した企業(アカウント)からの売上を最大化するための戦略的なアプローチを展開するマーケティング手法です。広く浅くさまざまな顧客にアプローチするのではなく、狭く深く顧客に関わる戦略によってLTV視点でのお得意様を増やすことを目指します。BtoBマーケティングにおいても、ABMは主流となりつつあります。
その2:CRMの定着
顧客に合わせた対応やコミュニケーションが大切なことはもちろんですが、それを網羅的に実施するのは非常に煩雑なタスクでした。近年ではCRM(Customer Relationship Management/顧客関係管理)のツールが定着しつつあり、デジタルによってより効率的な顧客管理が可能になりました。顧客データの管理・分析・活用をCRMで一元管理することで、BtoBにおいても顧客との関係性の見える化が実現しています。
その3:サブスクリプションの普及
SaaSを取り扱うBtoB企業においても、サブスクリプションサービスの展開が急増しています。サブスクリプションサービスは契約している顧客数が自社のストック売上となるため、解約を防止することが収益性確保における1つの鍵となります。そのため、カスタマーサクセス部門を設立するなど、顧客との関係性を築いて継続的なお付き合いをミッションとする体制が構築されるようになりました。長期的なサービス提供と長期契約は、BtoBの事業においても間違いなく基盤となります。
LTV視点でのBtoCの常連さん・BtoBのお得意様の重要性
BtoCにしても、BtoBにしても事業を継続させるうえでは、顧客からの売上を確保し続ける必要があります。そのため、新規顧客の獲得に加えて、すでに定着している既存顧客のロイヤルティ向上に努めることは、今の時代において業種問わず不可欠な企業戦略と言えます。
日本のビジネスシーンにおいては、昔から「常連さん」「お得意様」という言葉が使われていることは誰もがご存じでしょう。商売においてはBtoCもBtoBも関係なく、LTV視点で顧客と向き合い、良い関係性を継続することが大切です。だからこそ、日本語には「贔屓にする」という言葉があり、特定の顧客に対して目を懸けてきた歴史があります。
そうした日本のこれまでの商慣習を踏まえたうえで、便利なデジタルツールを上手に活用してLTV視点で顧客ロイヤルティを高めることが、2020年代におけるビジネスの処世術と言えるかもしれません。元来日本人の中には既存顧客を大切にする習慣が根付いているだけに、その関わり方をより効果的に効率的に考えることが、ビジネスシーンにおいては1つの成功の秘訣となるでしょう。
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