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脱炭素社会を目指すうえでの「デコ活」 カーボンニュートラル実現への第一歩

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昨今、地球温暖化に伴う世界規模での対策が求められています。1988年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)によって設立された政府間組織「国連気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change/ IPCC)」では、5~6年ごとに気候変動に関する最新の科学研究結果を評価したレポートを公表しています。そのIPCCが2021~2023年にかけて公表した最新の気候変動に関する評価報告書が「IPCC第6次評価報告書(AR6)」です。

AR6によると、地球温暖化が深刻化している自然科学的根拠が紹介されています。具体的には世界平均気温(2011~2020年)は、工業化前と比べて約1.09℃、世界の平均海面水位は1901~2018年の間に約0.20m上昇などの事象が起きており、将来予測としてはその上昇傾向はさらに顕著という見解が示されています。温暖化によって地球環境はどうなってしまうのでしょうか。そうした危機的な状況における取り組みの1つが、環境省提唱の脱炭素な暮らしをめざす国民運動「デコ活」です。

「デコ活」は2050年カーボンニュートラル実現への取り組み

近年、「カーボンニュートラル」という言葉をよく見聞きするようになりました。その意味合いは、「炭素(carbon)を、中立(neutral)にすること」です。2020年10月に当時の菅義偉首相の所信表明演説において、日本は国として2050年にカーボンニュートラル(二酸化炭素/CO2を筆頭とした温室効果ガスの排出量と吸収量をプラスマイナスゼロすること)を目指す宣言をしました。約4半世紀後の目標に向けて国、地方自治体、企業などが精力的に脱炭素を標榜するようになりました。

では実際に温室効果ガスの排出量は、吸収量をどのくらい上回っているのでしょうか。環境省と国立環境研究所が2023年4月に共同で発表した「2021年度温室効果ガス排出・吸収量(確報値)概要」によると、日本国内における温室効果ガスの排出量が約11億7000万トンに対して、吸収量は約4760万トン。現状としては圧倒的に「排出量>吸収量」の構図であり、「排出量=吸収量」を目指したカーボンニュートラルとは程遠い現状にあります。

そうした状況において、国、自治体、企業に加え、国民や消費者といった個人レベルでの行動変容やライフスタイル変革を強力に後押しするための新しい国民運動として「デコ活」が注目されています。デコ活とは、「脱炭素(Decarbonization)社会を目指すうえで、二酸化炭素(CO2)排出を減らすことを心がけたエコな生活・活動」という意味合いのもと作られた造語です。

2050年のカーボンニュートラルの実現はもちろんのこと、中期目標として定められた2030年度に2013年度比の46%削減(2013年度の温室効果ガスの排出・吸収量が14億800万トンであることに対して、2030年度には7億6000万トンまで削減)をデコ活による意識改革で実現することを目指しています。2030年度の中期目標の中でも家庭部門における目標はもっとも高く、2013年度の排出・吸収量2億800万トンに対して、7000万トンまで減らす66%削減が設定されています。

この高い目標は国、自治体、企業という組織・団体が主体となって取り組むだけでなく、国民1人ひとりが主体的に脱炭素を考えていかなければ到底成し遂げられない水準と言えるでしょう。デコ活は脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動と位置付けられているだけに、国民が一枚岩となって環境に向き合う姿勢が求められています。

認知は9割も具体的行動は3割というのがデコ活の現状

地球環境を踏まえたエコな施策として、注目されるデコ活。崇高なビジョンのもと、地球規模での平和な暮らしや幸せを求める動きは理想的な取り組みと言えるでしょう。しかし、デコ活の必要性を認知しつつも、実際に日々の行動に移せているかというと、そうとは言い切れないというのが現状のようです。2022年に博報堂が発表した「第三回 生活者の脱炭素意識&アクション調査」によると、エコ活動や言葉の認知は9割に達しているものの、具体的な行動に実践できているのは3割に留まるという調査結果が出ています。

出典:博報堂「第三回 生活者の脱炭素意識&アクション調査」~2022年9月調査結果~

エコ活を実践するうえで基本となる脱炭素やカーボンニュートラルという言葉は、9割弱の人が認知しているようです。同調査の用語に関する質問では、脱炭素の認知度は89.6%(第2回90.8%)、カーボンニュートラルは86.4%(第2回85.6%)と高水準を推移しています。このように興味関心、必要性の理解の部分においては国民の意識としてほぼ問題ないとも言えますが、これが生活においてどう実践するかという側面においては大きく数値も異なります。

出典:博報堂「第三回 生活者の脱炭素意識&アクション調査」~2022年9月調査結果~

同調査の「どの程度脱炭素社会に向けた行動をしているか」の質問に対して、行動している(非常に意識して行動+ある程度意識して行動)と回答した人は30.8%でした。つまり、デコ活を中心とした脱炭素社会に向けた行動の実践層は3割ほどしかおらず、この数値をより高めていくことが2030年の中期目標、さらには2050年のカーボンニュートラルの実現に向けての試金石となっていくでしょう。

企業のエコに関する草の根活動が国民全体に波及する

デコ活の名のもとに国民が脱炭素社会に向けたエコな活動を実践することは非常に理想的ですが、現実問題としてそれを個々に委ねるだけでは抜本的な改革は難しいのが現状です。そうなると国や自治体などの行政が主導していくのは当然ですが、企業としても官民一体の姿勢で環境問題に目を向けることが求められます。

近年はDX(デジタルトランスフォーメーション/digital transformation)が企業改革における合言葉のように用いられていますが、同様にGX(グリーントランスフォーメーション/green transformation)にも目を向けていくべきでしょう。GXとは、二酸化炭素を多く排出する化石エネルギーを中心とした産業構造・社会構造を、クリーンエネルギー中心へ転換する取り組みを指します。

もちろん、GXの取り組みは自動車やメーカーを中心とした化石燃料やエネルギー消費に深い関わりがある企業が主体となっているのは間違いありません。しかし、「環境関連の事業ではないから」と言って、GXの潮流に関心を持たなかったり、協力しなかったりするのは企業のスタンスとして社会から評価をされにくくなっていくでしょう。つまり、地球規模の出来事という「他人事」として捉えるのではなく、自社の取り組み、あるいは自社の社員の取り組みという「自分事」として企業も捉えていく姿勢が求められます。

一方で、世の中の時流に乗って上辺だけ環境に配慮した姿勢を見せる企業も増えているという由々しき事態も発生しています。そうした実態が伴っていない企業の環境活動のことを指す「グリーンウォッシュ」という造語も登場しているほどです。そうしたポーズを取るだけの見せかけはまさしく「他人事」の象徴とも言えます。壮大な理想を掲げることはもちろん重要なことですが、日々の企業活動において「ペーパーレスに移行する」「照明やエアコンなどの節電を心がける」などの小さな取り組みからまずは実践することが大切です。

デコ活という言葉の浸透度もまだまだこれからという中で、2030年、さらには2050年に向けた大目標の達成は非常に果てしない道のりに思えるでしょう。脱炭素社会への取り組みに関して、認知9割、実践3割という他人事のマインドを変えていかなければ、目標の実現は夢のまた夢です。国民1人ひとりのマインドを醸成していくためには、個人への呼びかけに加えて企業レベルでの自分事の取り組みがキーになってくるでしょう。

高度経済成長期の日本企業の躍進は、日本国民の勤勉さに支えられてきた一面があります。そういう意味ではデコ活における浸透も、企業と国民がいかに一枚岩となって団結して取り組みに賛同できるかにかかってくるかもしれません。真に環境問題を自分事と捉える企業が増えることで、日本社会全体もエコへの関心度が格段に向上することが期待されます。企業のエコに関する草の根活動が国民全体に波及することを期待しつつ、日々の企業活動に環境配慮をいかに落とし込めるかが今後はより重要になるでしょう。

 

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