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大手企業でも「複業」が当たり前に? 1億総パラレルワーカー時代となる可能性

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年功序列型賃金制度や新卒一括制度とともに、高度経済成長期以降長らく日本の雇用慣行として根づいていた終身雇用制度。しかし、年号が令和となった昨今では、就職して定年退職するまで1つの企業で働き続けることが当たり前の時代はもはや終焉を迎えています。多様な働き方への理解が社会全体に浸透しつつあり、ビジネスパーソンが自身に合う働き方を個人の判断で選ぶ時代にシフトしつつあります。個々のワークスタイルを許容するという意味では、副業を支援する大企業も増えているのが現状です。

そうした働き方が多様化した時代においては、1つの職に留まらない働き方として「パラレルキャリア」が注目されています。本業がありつつも別の業態で働く副業ともまた違う、本業との区別のない複数の仕事に取り組む「複業」を選ぶパラレルワーカーが増えています。複数の仕事を並行してこなすワークスタイルである複業がなぜ注目されているのでしょうか。パラレルキャリアの実態に迫るとともに、これからの時代の働き方を占います。

転機となった2018年の日本政府よる副業推奨

本業と副業は、英語ではそれぞれ「Main job」「Side job」と表現されます。文字通りに主軸の仕事と、その片手間で実施する仕事という意味合いで考えられています。世間一般からすると副業はお小遣い稼ぎと捉えられることも多く、本業に従事しつつも副業の仕事を受けることを認めない企業が社会的には大半でした。しかし、冒頭でも触れた日本企業の雇用慣行や社会全体の働き方の変化もあり、本業以外で副収入を得るスタイルが社会にも徐々に認知・浸透していきました。

そして、2018年に厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表したことによって、いわゆる“副業解禁”の流れが加速します。同ガイドラインでは、従来までは「モデル就業規則」に記載があった「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」の規定を削除。そして、「第67条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。」という条文を追記し、国としての副業容認を明文化しました。

以前から本業以外で副収入を得ている層は一定数いましたが、“副業解禁”の大号令として国からのお墨付きを得られたことで、社会全体として副業のハードルが一気に下がるきっかけとなったことは間違いありません。そうした副業に関する意識の変化はビジネスパーソンのみならず、使用者側である企業にも見られました。副業を認めないことで従業員満足度(ES/Employee Satisfaction)の低下を招いたり、フレキシブルな働き方が浸透していない企業として見られたりするなど企業イメージやブランディングへの影響から、副業に対する考え方を見つめ直すきっかけとなりました。


出典:一般社団法人 日本経済団体連合会「副業・兼業に関するアンケート調査結果」

一般社団法人 日本経済団体連合会が実施した「副業・兼業に関するアンケート調査結果」によると、2022年の回答企業の実に7割が、自社の社員が社外で副業・兼業することを「認めている」(53.1%)または「認める予定」(17.5%)とポジティブな意向を示しています。常用労働者数が5000人以上の大企業においてはその割合がさらに高く、83.9%が副業・兼業を容認する姿勢(「認めている」(66.7%)または「認める予定」(17.2%)という結果が出ています。企業勤めの人材が副業することを、一般社会が容認していることを示すデータとも言えるでしょう。

働き方の多様化から「副業」の考え方は「複業」に派生

1つの企業で一途に働き続けるという昭和・平成時代に形成された仕事観は、時代の流れによって変化してきました。日本においても転職が盛んになり、さらに本業に勤しみつつ、副業で副収入を得ることももはや当たり前となりました。そして、令和の時代では、さらに個々のビジネスパーソンの働き方が多様化を極めているのが実情です。その1つが「副業」から「複業」という派生した働き方の概念が生まれたことが挙げられます。

「Side job」を意味する副業とは異なり、複業は英語では「Multiple job」と表現されます。つまり、メイン、サブという枠組みにとらわれず、複数の仕事を兼務しているイメージです。副業は本業に比べて優先順位や収入の度合いが低くなるのが一般的ですが、複業においてはその限りではないのが特徴と言えるでしょう。たとえば、企業勤めを本業と捉えずに兼務する業種の1つとするならば、会社員としての仕事をそこそこ頑張り、複業としての別業態でより大きな収入を得るという働き方もまったくもってアリなのです。

複業は「Multiple job」の他にも、「Parallel work」とも訳されます。つまり、明確な序列をつけることなく、仕事を並列して考える働き方です。いろいろな役割を同時に、器用にこなせるビジネスパーソンであれば、複数の仕事を請け負うことで収入源が増えるだけに、収入アップも夢ではありません。職業の肩書がたくさんあるスラッシャー(スラッシュ「/」で複数の肩書を記載するワーカー)として、マルチな才能を各方面で発揮するという輝かしいキャリアを描くこともできるでしょう。

1つの職業に専念して成果を出すことももちろん、従来の働き方の王道とも言えます。しかし、働く人の数だけ正解があるのは、社会としてより成熟している証拠と言えるのではないでしょうか。並行して複数の仕事をこなす「パラレルキャリア」がより脚光を浴びてくれば、働き方の自由度がより高まり、さらなる発展性を見せることでしょう。キャリアの選択肢の幅を広げるという視点においても、複業の一般化は社会におけるターニングポイントになり得る大きな変化なのです。

将来的には日本が「1億総複業社会」になる可能性も

総務省統計局の人口推計の公表データによると、2024年(令和6年)1月現在の日本の総人口は1億2409万人であり、前年同月に比べて66万人減少しています。また、2018年に経済産業省が公表した「2050年までの経済社会の構造変化と政策課題について」の将来人口予測によると、2050年には日本の総人口が約1億人にまで減少する見込みです。近年の少子高齢化の波を受けることで、そうした減少傾向は今後より顕著に加速する恐れもあるでしょう。

総人口が減ると同時に、日本の労働力低下も危惧されています。総務省統計局がリリースした「労働力調査(基本集計)2022年(令和4年)平均結果の概要」によると、日本の労働人口(15 歳以上人口のうち、就業者と完全失業者を合わせた人口)は、2022 年平均 で 6902 万人です。内訳を見ると、2021年と比較して労働人口は1年で5万人減少しており、社会では多くの労働力を失っていることが分かります。

男女別の内訳では、男性が3805 万人で22万人の減少、女性は3096 万人で16 万人の増加と明暗が分かれています。女性の社会進出が堅調に進む一方、これまでの日本の労働力を支えてきた男性ワーカーたちのリタイアなど、社会構造としても大きく変化していることは一目瞭然です。そうした労働人口が変化している時代背景下においては、ビジネスパーソンの働き方や生産性についてより工夫が求められているのも必然だと言えるでしょう。労働力には限りがあるので、既存のリソースをいかにうまく活用していくかが今後の社会ではより問われるかもしれません。

労働人口が減少する日本の現状に対する解決策の1つとして、複業をベースにしたパラレルキャリアの充実・拡大が期待されます。労働人口を急速に増やすことは非現実的ですが、働き方を見直してより多くのビジネスパーソンにマルチな仕事を請け負える体制を築くことは不可能ではありません。

何かと縮小傾向にある日本社会なだけに、固定観念にとらわれるのではなく、新しい考え方や働き方の実践がより求められてきます。その中でも「1億総複業社会」をもし実現できるのであれば、国レベルでの労働力の課題解決の一助となるかもしれません。時代は絶えず変化し続けているだけに、労働を担う1人ひとりの仕事観やワークスタイルに関しても常にアップデートすることが大切です。そうすることで、パラレルキャリアに関する社会への真の浸透が実現に一歩近づくのではないでしょうか。

 

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