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音声コンテンツの今後とは? オーディオブックの台頭などで進む「可聴化」の実態

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人類の文明は現代の情報社会からもう一段進化し、あらゆる物がネットワークでつながる超スマート社会(Society5.0)への道を歩んでいます。企業規模を問わず、インターネットを通した情報発信が欠かせなくなる時代において、自社のコンテンツや事業プロダクトの発信はより重要性を増すでしょう。MVV(ミッション/Mission、ビジョン/Vision、バリュー/Value)などの言語化や企業ロゴなどのブランドイメージを可視化することは、企業ブランディングの文脈を踏まえても不可欠な施策と言えます。

各企業の言語化・可視化したコンテンツやブランドの発信が盛んに行われている昨今において、急速に注目度が高まっている手法が「可聴化」です。本を聴くというフレーズでも有名なオーディオブックが台頭しているように、近年は音声コンテンツが隆盛を極めています。現在はまだ音声配信サービスや音声メディアなどのプラットフォームを主体としたビジネス形態が主流ですが、今後は各企業でも音声コンテンツをより積極的に発信していく時代になるかもしれません。コンテンツの可聴化はなぜ広がりを見せているのでしょうか。

メラビアンの法則では意思疎通における聴覚情報の割合が38%
伝えたい内容を可聴化し、音声コンテンツの発信に着目することは、実に理に適っています。なぜなら聴覚情報は、コミュニケーションや情報伝達において大きなウエイトを占めているからです。アルバート・メラビアンという心理学者が提唱した「メラビアンの法則」によると、人同士の意思疎通においては言語情報が7%、聴覚情報が38%、視覚情報が55%のウエイトで影響を与えるとされています。

メラビアンの法則では言語情報(Verbal)、聴覚情報(Vocal)、視覚情報(Visual)の頭文字からなる3Vの法則を定義しました。そして、言語情報・聴覚情報・視覚情報が一致していない際に、どの情報が優先されるか、どの情報が相手の印象に影響を与えるかを7-38-55の割合で示したのが3Vの法則です。「第一印象が大事」という文脈で紹介されることが多いこの3Vの法則ですが、視覚情報に次いで聴覚情報の割合も高いという研究結果になっています。

「百聞は一見に如かず」ということわざがあるように、多くの人は人から聞いた情報よりも自分の目で見た情報を信じるという格言は一定の説得力があるでしょう。しかし、3Vの法則にもあるように、情報が錯綜した際に聴覚を当てにする割合が38%という事実も見逃せません。視覚情報には劣るものの、人間は聴覚情報も頼りにする傾向があるということです。そうした前提を踏まえると、テキストによる言語情報、画像検索もできる視覚情報が充実しているインターネットの現状を鑑みると、聴覚情報が欲しいという声が多くなるのも必然なのかもしれません。

オーディオブックだけではない、2023年の音声コンテンツの現在地

音声コンテンツとしてすでに多くの人に活用されていて、身近で使いやすいサービスがオーディオブックです。オーディオブックは本を自動で読み上げてくれるオンライン上の音声コンテンツであり、「聴く本」というキャッチーなネーミングも好評を博しています。読書という言葉があるように、「本は読む物」という固定観念を見事に打ち破ったのがオーディオブックの真価と言えるでしょう。

カセットやCDが主流だった時代にも、朗読を録音して聞く仕組みはありました。しかし、DXが浸透した昨今では、オーディオブックを活用することでスマートフォンやタブレットなどで好きな本を選び、いつでもどこでも本を聴けます。同時に複数のことを進行する「ながら視聴」が定着しつつある近年において、オーディオブックはタイパ(タイムパフォーマンス)を重視するZ世代を中心とした若者層との親和性も非常に高いと言えます。「本を読むのは嫌いだけど、聴くだけなら」という読書嫌いな層にも受け入れられやすい点が特徴です。

オーディオブック以外にも音声コンテンツの台頭が顕著だと言えます。記憶にも新しいのは音声SNSアプリケーションの「Clubhouse」ではないでしょうか。XやInstagramとは異なり、一般に広く定着したSNSとは言えないかもしれませんが、瞬間的なブームを巻き起こした点においては一世を風靡したと言えるでしょう。「世界中の人が気軽に話し合える場所を提供する」というコンセプトのもと、ラジオ感覚でスピーカー(話し手)が喋る内容に耳を傾けたり、トークテーマに基づいて議論を交えたりするなど新しい聴く文化を生んだことは間違いありません。

また、サッカー元日本代表の本田圭佑氏がCEOを務める「Now Do」が提供するプレミアム⾳声サービス「NowVoice」では、音声配信×トップアスリートの生の声の発信を実現しました。スポーツ選手の重要なリリースやコアファン向けのメッセージなどを、文書ではなく、自身の声で伝える手段としても活用の幅を広げています。その他にもSpotify、Voicy、Radikoなどの音声プラットフォームサービスも着実に一般にも根付いてきているだけに、音声コンテンツ市場は今後ますます活況を呈する可能性を秘めているのです。

すべての企業が音声コンテンツ戦略を練る時代が到来する可能性も

2023年現在では、プラットフォームを保有している企業以外の一般企業が、音声コンテンツに力を入れるというケースはまだ珍しいことかもしれません。しかし、そうした情勢も数年後には一変している可能性すらあります。コンテンツマーケティングにおけるテキストでの情報発信、動画マーケティングにおける自社動画の公開など、一般企業においても情報発信のマーケティング施策に力を入れているケースは珍しくありません。それだけに、先駆け的にコンテンツを可聴化する企業が出てきても何ら不思議ではないでしょう。

たとえば、BtoB向けの難しい製品紹介をテキストだけで展開しても、関係者であっても読むのに一苦労する可能性すらあります。それを自動音声で読み上げる仕組みを作れば、テキストを読むのと並行して耳で情報をキャッチアップできるので、理解度が高まりやすくなるかもしれません。また、自社の採用サイトなどで代表メッセージなどを音声コンテンツとして聞けるようにするなども他社がまだあまりやっていない取り組みと言えるでしょう。

また、グローバル規模でビジネスを展開する企業においては、動画のAI生成に力を入れるHeyGen Labsの「Video Translate」の活用も非常にユニークな施策と言えます。こちらは動画になるものの、スピーチしている人の話を15の言語に変換できます。変換後の言語に応じて声に合った口の動きをつけるリップシンク処理も採用されているだけに、本人の言葉を自然に他言語化したスムーズな仕上がりが期待できるでしょう。このようにコンテンツにおけるグローバル展開におけるハードルも今後、一気に下がるかもしれません。

音声コンテンツプラットフォームの活用が広く浸透し始めた昨今においては、まずはそうしたコンテンツの潮流に乗り、率先して活用してみることが大切です。そして、その次には「自社のビジネスにどう生かすことができるのか」という視点を持つことが求められるでしょう。情報過多で何かと差別化が難しい現代においては、いかに他社とは違う情報発信で認知度や好感度を高められるかが重要になります。これまでと同じことだけをやっているだけでは、これからの時代では存在感を示せないばかりか、せっかく発信しているコンテンツも埋もれてしまいかねません。

発信コンテンツや事業プロダクトの言語化、可視化がすでに実現できている企業としては、次なる施策としてコンテンツの可聴化に注目してみても面白いでしょう。これらの時代のビジネスは、音の重要度がさらに高まるかもしれません。

 

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