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Chat GPTで注目のNLG(自然言語生成)とは AIが文章生成する時代の向き合い方

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「AI(人工知能)に仕事を奪われる――」というセンセーショナルな見出しが日本のメディアを騒がせたのは、2015年のことでした。野村総合研究所が英・オックスフォード大学と共同研究で試算した「日本の労働人口の 49%が人工知能やロボット等で代替可能になる」というリリースがきっかけです。ただ、その際は自動化が簡単ではない知能ワークにおいては、AIに代替されるのはだいぶ先の未来の話だと考えられていました。

時は流れること2022年11月。「知能ワークの仕事は、しばらくAIに代替えされることはない」という神話は早くも崩壊に近づきます。会話形式での自然なやり取りを可能にする言語モデルである「Chat GPT」がリリースされたからです。OpenAIが提供する、自然な文章を生成するチャットボットの精度は、世の中に大きな衝撃を与えています。AIによって高度な文章生成が可能になった今、人々はどのようにこの革新的なテクノロジーを使いこなせばいいのでしょうか。

Chat GPTの登場で現実味を帯びる「シンギュラリティ」の到来
「人工知能の発展は著しいものの、人間の知能ワークを超えるほどではない」という考えが、Chat GPT登場前の大方の見方でした。しかし、2022年11月の同サービスのリリース以降、瞬く間にその評判は全世界に広がり、文章の生成の自然な仕上がりが各方面から称賛を浴びました。Chat GPTの「GPT」は、Generative Pre-trained Transformer(生成型事前学習済み言語モデル)の意味です。ジェネレーティブAIの一種であり、精度の高い会話ベースでのやり取りを実現しています。

SiriやAlexaなどのAIアシスタントを筆頭に、これまでにも人間とロボットとのやり取りを自動化した技術は多く開発されてきました。しかし、そうした既出のテクノロジーのほとんどがChat GPTに代替される勢いで、世の中に浸透しています。音声に加えてテキスト入力にも対応しており、ユーザーとの会話を自然かつスムーズかつ迅速に行える点がChat GPTの大きな魅力です。Chat GPTの台頭で、世の中が「シンギュラリティ」に到達する未来もそう遠くないのではないかとすら囁かれ始めています。

シンギュラリティ(singularity)とは、日本語訳では「特異点」という意味です。AI研究家の間では1980年代から「技術的特異点(Technological Singularity)」として、人間とAIの臨界点を指す言葉として使われています。つまり、「AIが人間の知能を超える時点」を指します。現状では地球上でもっとも知能が高く、世界を支配する生物は人間ですが、それがAIに置き換わるというにわかに信じがたい瞬間を意味するのです。それは新種の生物の誕生と同等のインパクトがあるとすら考えられています。

2016年に行われた「SoftBank World 2016」の基調講演で、同社代表の孫正義氏は「人類史上最大のパラダイムシフトが起きる」とシンギュラリティについての個人見解を示しました。AIが人間を完全に超える日は現状では2030年とも2045年とも言われていますが、確かなことはChat GPTの出現が、多くの人にとってシンギュラリティを現実的に捉えるきっかけになったことではないでしょうか。それほど、Chat GPTは世の中に衝撃を与え、AIの脅威と性能を実感させた革新的な技術だと言えるのです。

「NLG」を理解するうえで知っておきたい「NLP」「NLU」について

2023年現在、世の中を席捲しているChat GPTは、シンギュラリティの到来を予見させました。もちろん、本当にシンギュラリティが実現するまでにはさらなる進歩が欠かせません。しかし、そうした近未来の発展を予感させたのは、Chat GPTを筆頭にしたAIのとある精度が著しく向上したからに他なりません。それが「NLG(自然言語生成/Natural Language Generation)」です。Chat GPTもNLGの一種に分類されます。

NLGを深く理解するためには、NLP(自然言語処理/Natural Language Processing)を知ることが先決となります。NLPとは、人間の言語をAIによって処理して内容を抽出する技術です。人同士の会話による話し言葉のコミュニケーションから、難解な論文や各方面からリリースされた文書などの書き言葉まで、人間が行う自然なやり取り(自然言語)を対象としています。音声認識や日本語入力システム、文章校正ツールなどはNLPの技術が活用されています。

NLPは2つの構成要素から成り立っており、1つがNLGで、もう1つがNLU(自然言語理解/Natural Language Understanding)です。日本語に「行間を読む」という言葉があるように、人々の言語は常に文字通りの意味であることばかりではありません。そのため、NLUでは書かれている言葉だけでなく、その言葉に含まれる意味(文脈や構文)を分析して文章理解を行います。AIによる読解とイメージすると分かりやすいでしょう。

主題のNLGは、何らかのデータ入力によって人間の言語による自然なテキスト応答を生成するプロセスを指します。系統だったデータを人間にとって理解しやすい形で説明することが主目的になります。言い換えるなら、人間が作成したのと遜色のない自然な文章(自然言語)をAIが生み出すことです。これまでのAIが作った文章は、「違和感がある」「不自然に感じる」という意見が大半でした。人間が作り出す自然な文章と比較して、どこか機械的で形式的な内容に終始していました。

「NLG」の精度向上がIT業界の勢力図に変化をもたらす可能性も
近年のAIは、Chat GPT のようにNLGの性能に優れている点が特徴です。人間が作る自然な文章と遜色のない品質の文面に仕上げることができるだけでなく、それを人間の文章作成のスピードをはるかに凌駕する速さで生成できる点が大きな魅力だと言えます。そのため、業務にChat GPTを取り入れることで業務効率化や生産性向上を目指すオフィスワーカーが急増中であり、各企業から連携サービスも続々とリリースされている状況です。

2019年にOpenAIに10億ドル(約130億円)を投資し、さらに100億ドル(約1.3兆円)の巨額投資を行うとされるMicrosoftでは、Chat GPTなどOpenAIのAI技術をすでに自社プロダクトに導入し始めています。その中でも最注目はMicrosoftの検索エンジン「Bing」です。現在、検索エンジンの世界シェアでは、BingはGoogleに大きく水をあけられています。そのため、Microsoftでは最新のGPT-4を搭載した「新しいBing」の開発を進め、検索エンジンの大幅のアップデートを計画しています。

もしBingの検索エンジンを用いつつ、Chat GPTと同様のチャットでのやり取りが本格的に実用化されれば、「Google1強」状態の世界の検索エンジンのシェアも変わるかもしれません。それはIT業界の勢力図すら書き換えることにもつながりかねません。一方のGoogleもジェネレーティブAIとして「Bard」をリリースしています。もはや今後のIT界の覇権争いの鍵はNLGが握っているとも言えるでしょう。

NLGはあくまでツールとして活用を!AIとの共創がスタンダードに

NLGがIT界の覇権争いにまで影響を及ぼしている現状もあり、「文章や企画を制作することを生業にしている業種が仕事を奪われるのではないか」と脅威に感じる人も少なくありません。2015年に国内でAIが大きな話題になった時点では、「自分たちの知能ワークはAIに代替されることはない」と考えていたライターらの職種の人たちも、今ではNLGの驚異的な進歩に恐れを抱いていることでしょう。

NLGの精度が日進月歩で進化を遂げているため、近い将来に「AIがすべての文章作成を行う時代が到来する」と考えるのも無理はありません。では近未来では人間が文章を作成する機会は失われてしまうのでしょうか。その答えは意外にも「NO」だと言えます。なぜならAIによるNLGにはオリジナル性がなく、さらには生成された文章の良し悪しを判断するのが、変わらずに人間だからです。

NLGはインターネット上の情報を駆使して、文章を生成します。そのスピードは人間とは比べ物にならないほど速く、文脈や構文に関する事前学習を行っているため、人間が使う言語と遜色ないほど自然な仕上がりになります。しかし、それらはすでに言語化されたものをアレンジしているに過ぎず、まったく新しい独創的なものを生み出すのには不向きです。

また、AIには固有のパーソナリティがないため、人間のようなエモーショナルで良くも悪くも特徴のある文章を作るには不得手と言えるでしょう。取材記事についても人間がまだ勝る領域であり、人と人との感情をベースにした心のキャッチボールは、まだAIでの再現は難しい領域になります。客観的で定量的なデータに基づく文章生成はできても、主観的で体裁的な観点によるジャッジができないのが現実です。逆説的に言えば、感情面についてもオリジナル性があるなど、AIに自我が芽生えるまで発展したら、いよいよ書く仕事はほとんどなくなってしまうかもしれません。

NLGの精度が格段に向上したChat GPTは、間違いなく革新的なテクノロジーであり、人々の暮らしをより豊かにするうえで大きな貢献を果たしてくれるでしょう。しかし、それはあくまで1つのツールとしての役割に限られます。ツールは自我のある人間が使いこなすものです。進歩したテクノロジーの存在をまずは知り、自身の仕事や活動にどう生かせるのかを考えるのが、今を生きる人類がすべきことでしょう。

シンギュラリティが到来する未来になった際に、現在の常識はまったく通じなくなるほどテクノロジーが発展しているかもしれません。ただ、そうした未来の世界をただ恐れるだけでは何も始まらないので、Chat GPTを筆頭としたNLGをまずは使いこなすことから始めてみましょう。そこから新たな人間が向かうべき方向性が見えてくるかもしれません。これからはAIとの共創がスタンダードな時代になるはずです。

 

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