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2025年の崖の先の超スマート社会とは? 「Society 5.0」の未来予想図

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2023年現在、日本はDX(デジタルトランスフォーメーション)推進においてまさに岐路に立っていると言えるでしょう。2018年に経済産業省が発表したDXレポート内で「2025年の崖」が取り沙汰されて以降、国を挙げてDX推進に取り組んできました。その結果、日本の国際的な競争力の低下によって約12兆円の経済損失が発生する「最悪のシナリオ」を回避できる可能性も予見されています。DX推進を実現した未来の構想として考えられているのが「Society 5.0(超スマート社会)」です。

Society 5.0は、2016年1月に閣議決定された「第5期科学技術基本計画」で日本の目指す未来の姿として提唱されました。サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させることで、経済発展と社会的課題の解決を両立する「人間中心の社会(Society)」を構築することが目指されています。果たして2025年以降の日本社会が直面するのは、「2025年の崖」なのか、それともDX推進を果たした「超スマート社会」の実現なのか。日本の未来を占う大事な局面を迎えています。

狩猟から始まった人間社会は3度の大きな変革を経験

出展:内閣府公式サイト
https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/

「2025年の崖」が懸念されている日本ですが、未来は必ずしも暗いとは限りません。なぜならDX推進を実現することで、社会がかつてないほどの技術革新を遂げる可能性も秘めているからです。人類はこれまで幾度となく、人々の想像や常識を遥かに超える発展を遂げてきました。そうした革命的な変化こそが「イノベーション」であり、これまでに人類は大きな社会の変革を3度経験してきました。

人類が最初に社会を形成し、文明を発展させた時代に行っていたのは狩猟です。人間も弱肉強食の自然界の生態系の一部であり、狩りをして獲物を捕まえるなど自然と共生していました。そんな野性味あふれるSociety1.0(狩猟社会)から、グッと現在の社会構造に近づくきっかけになったのが農耕への変革です。群れを成して狩りをしていた人類は、農作物の生産を通して村や国などのコミュニティを形成。それに伴い食を供給する社会システムが定着したのがSociety2.0(農耕社会)でした。

農耕の時代では小さなコミュニティが多数形成されることで、隣国との貿易や勢力争いが常に行われてきましたが、工業の発展によって社会の高度化は著しく発展します。工場でのマニュファクチュアリングによる製品の大量生産の実現、蒸気機関の開発による動力源の刷新によって社会の在り方が大きく変わりました。産業革命とも呼ばれるこの社会の変化が起きたのがSociety3.0(工業社会)です。

Society 4.0(情報社会)からSociety 5.0(超スマート社会)へ
2023年現在は、Society4.0(情報社会)と呼ばれています。具体的な物の製造や流通に重きを置くことから、もっとも価値を持つのが情報という時代に移り変わりました。情報を司る者こそが社会を制する時代であり、情報をいかに収集、伝達、処理することで価値を提供できるかが問われています。瞬時に世界中の情報網にアクセスできるインターネットがなくてはならない現状が、情報の価値の優位性を物語っています。「物(モノ)→情報(ネタ)」にプライオリティが完全に移行した社会と言えるでしょう。

ただし、そんな便利な情報社会においての課題は、莫大に膨れ上がった情報を人々が処理できない状況が発生していることです。新聞やテレビなどの限られたメディアしか情報発信ができなかった時代と比べ、SNSなどを通じて個人が情報発信できるのが現代の特徴です。しかし、2023年には世界人口が80億4500万人(国際連合人口基金/UNFPA 世界人口白書2023より)にも膨れ上がったため、発信する情報量は爆発的に増加。情報オーバーロード(情報洪水)が起きており、さらにはフェイクニュースやSNS上の誹謗中傷なども続発しています。

肥大化しすぎた情報社会は、もはや個々人で処理や制御することが不可能な領域まで達し始めています。さらに必要な知識や情報が共有されず、分野横断的な連携が不十分である点も問題視されているのが現状です。そうした現代の在り方の限界を超えて、新しい社会の実現としてSociety5.0(超スマート社会)が待望されています。

超スマート社会では、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させることで、経済発展と社会的課題の解決を両立する「人間中心の社会(Society)」の構築がビジョンとして掲げられています。もはやIoT(Internet of Things)によってすべての人がインターネットを通じてコミュニケーションが取れるのが前提であり、ビッグデータをAIによって情報解析を行うなどして情報の最適化が自動的に行われる社会がSociety5.0(超スマート社会)では期待されているのです。

Society 5.0は言い換えるなら「人間中心設計社会」

スマートフォンの普及によって、日本でも「スマート●●」などの製品がたくさん登場しています。英語のsmartは元来、「賢い」という意味であり、そこから派生して「多機能・高機能」などの意味合いも含みます。また、英語では「コンピュータ制御の」という意味もあり、超スマート社会を「高次元でコンピュータ制御された社会」と解釈することもできるでしょう。

しかし、それだと「人間がAIに支配される社会」などをイメージしてしまう人も多いかもしれません。実際にAIによって職を奪われるという題材は常に人々の話題をさらっており、AIを筆頭としたテクノロジーの台頭を脅威に感じている人も多いでしょう。Society5.0においてはAIやその他のまだ見ぬテクノロジーは敵ではなく、もはや共生するための仲間であり、パートナーなのです。身近なDX推進と同様に、まずテクノロジーを知り、自身の生活に取り入れていく柔軟な姿勢が求められるでしょう。

人間を支配するではなく、人間のためにAIやテクノロジーが手助けしてくれるという意味でスマートを解釈すれば、「コンピュータ制御された社会」へのイメージも変わるかもしれません。近年では人間中心設計(Human Centered Design=HCD)という言葉が頻繁に使われるようになりましたが、これはUX(ユーザーエクスペリエンス)を重視したデザイン思考です。つまり、人間の使いやすさや心地良さに重点を置いたデザインであり、社会全体でもこの人間中心設計を取り入れようとする風潮があります。

詰まるところ、Society5.0はAIやテクノロジーによる高次元のコンピュータ制御によって、UXを重視した人間中心設計がなされた社会を理想郷としています。Society4.0では価値ある情報を上手く活用できるか否かは、能力に依存する部分がありました。飛躍的に生活や情報通信網を発展させたという良い面もあれば、知見がある人が独走状態になり、それ以外の人たちを置いてけぼりにするという悪い面もありました。

Society5.0ではそうした人間の能力格差など関係なく、デジタルによるサポートによってサイバー空間とフィジカル空間の高度な融合を果たし、人々がみな幸福に暮らせる社会が目指されています。つまり、DX推進を果たして、ワンランク上の人間中心の社会変革に到達するためには、社会で暮らす1人ひとりがAIやテクノロジーをまずは受け入れ、「友人になること」が前提なのです。「DX推進なんて興味ない」「AIなんて自分は使わない」という姿勢でいては、今後の社会変革の波についていけないかもしれません。

2025年の崖に転落しないための鍵は「DXへの考え方の転換」
日本語には表裏一体という言葉がありますが、相反する2つの物事は密接に関係していて切り離せないさまを意味します。前述したスマートの意味合いについても、「コンピュータ制御される」と捉えるか、「コンピュータのサポートを受けることでの多機能・高機能」と捉えるかでも大きく変わるでしょう。捉え方次第では真逆の意味合いにも思えますが、実は本質的な意味合いは変わりません。

2023年現在では、日本のDX推進の未来を危惧する「2025年の崖」が問題視されています。しかし、これも「ピンチはチャンス」という慣用句があるように、捉えようによってはSociety5.0に向けた試金石になるとも考えられるでしょう。社会に暮らすすべての人々が時代の変化を受け入れ、DX推進を自分事と捉えることでAIやテクノロジーを真に受け入れることができれば、超スマート社会への第一歩を踏み出せるはずです。

AIを敵とみなすか、共生する仲間とみなすか――そうした単純な捉え方の違いを意識するだけでも、DXへの考え方の転換ができるかもしれません。日本の未来を占う2025年へ向けては、そうした日本で暮らすすべての人々が考え方を変える準備をすることが大切になるでしょう。

 

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