2020年3月から日本国内で高速大容量、低遅延、多接続なインターネット環境を実現する5G(5th Generation/第5世代移動通信システム)のサービスが開始されました。以前と比べて通信環境は格段に進歩し、IoT(Internet of Things/モノのインターネット)化が進んでいます。そして、2030年には5Gのもう一段階先の6GによるIoE(Internet of Everything/すべてがインターネット)化した社会になることが予想されています。
そんな通信技術が高度に発展した現代は、「Volatility/変動性」「Uncertainty/不確実性」「Complexity/複雑性」「Ambiguity/曖昧性」が特徴の「VUCA時代」です。常に新しい情報がSNSやプラットフォームを通して手に入り、トレンドが著しく移り変わる環境下ゆえに、人によってはネット依存の傾向に陥っています。機能が便利になる反面、心が病み疲れてしまう人が急増するいびつな状況に一石を投じるとある考え方が注目されています。それが「Joy Of Missing Out(取り残されることの喜び)」を意味する「JOMO」です。
VUCA時代に多くの人が陥りがちなのがFOMO
インターネットが完全に生活に根ざしていて、常にオンラインでいることが当たり前の現代では、オフラインの状況になると多くの人は不安を覚える傾向にあります。たとえば、「スマホを家に忘れてしまった」というシチュエーションの際に、無性に連絡が気になったり、手持ち無沙汰で心配になったりした経験がある人もいるでしょう。このようにネットワークを通じていつでも、どこでもオンラインで情報を享受できる便利な時代ゆえに、情報が常に手に入る状況でないと不安になるというこれまでにはなかった新しい悩みが生じています。
そうした状況は「Fear Of Missing Out(取り残されることへの恐れ)」と呼ばれ、イニシャルをとった「FOMO」という言葉で浸透しています。現代のネット依存症、SNS病とされており、インターネットを利用するすべての人が陥る危険性のある心理状況だと言えるでしょう。「自分が把握していないところで何か盛り上がっている」「情報を取り逃したことで他の人に先を越されてしまう」など即時で情報を得られないだけで、人は乗り遅れた感覚になりがちです。FOMOは現代の高度情報社会がもたらした、便利さゆえの弊害とも言えます。
多くの人が取り残されることを恐れる背景には、時代の目まぐるしい変化が一因に挙げられます。たとえば、コロナ禍やウクライナ侵攻、イスラエル・ガザ戦争に起因する世界情勢の変化、ChatGPTに代表されるAIなどのテクノロジーの急速な発展など、世の中ではほんの10年前には予想できなかったことが平気で起こり得るのです。そうした将来の予測が困難な状況を踏まえ、現代はVUCA時代と呼ばれています。
変動が大きく、不確実で複雑かつ曖昧な時代において、情報は現在を生き抜き、未来を見据えるうえでは不可欠な要素です。しかし、時代や環境への不安から情報収集に熱心になるあまり、少しでもオンライン環境から離れるだけで不安になるFOMOは新時代の課題です。現代において情報への向き合い方、情報収集におけるメンタル維持の仕方については、常にケアする必要があると言えるでしょう。
FOMOの対局に位置するJOMOが注目ワードに
VUCA時代という背景もあり、多くの人が陥りがちなFOMOという名の現代病。克服すべき方法の1つとしては、とらわれてしまっている思考をあえて捨て去ることが挙げられます。つまり、情報から取り残されることに恐怖を感じるのではなく、自ら取り残されることを望む考えへのマインドチェンジです。FOMOの対義語として、「JOMO」という言葉があります。正式には「Joy Of Missing Out」であり、取り残されることの喜びを意味します。
高度情報社会ではインターネットによる情報収集は重要です。しかし、インターネットは水や空気のように人間が生きるうえで必要不可欠な要素ではありません。現にインターネットがなかった時代では、FOMOのような心配事もなく暮らせており、オフライン状態でも人間は生きていけます。だからこそ情報に取り残されることを敢えて楽しむJOMOのマインドを持つと、情報過多の時代において肩の力を抜いて暮らすことできるかもしれません。
しかし、JOMOを実践することは多くの人にとって簡単なことではないでしょう。日常生活でまったくスマホに触れない日はほとんどないでしょうし、そうした状況を作り出すためには、電波の届かないような僻地でインターネットを完全に遮断した山籠もり生活を送るなどの極端な思考に陥りがちです。
ここで重要なのはJOMOの本質を誤認しないことでしょう。JOMOは、インターネットを拒絶するための考え方ではありません。情報収集して常に誰かとつながっていたいという不安から心を解放し、現状を楽しみ、心の充実を目指すというのが本来のJOMOの考え方です。そうした小さな意識づけに関しては、多くの人にとって実践が難しいわけではないでしょう。何事にも共通しますが、心の持ちよう、捉え方次第でネガティブな状態をポジティブに変換することはできるはずです。
JOMO思考に基づいた意識的なデジタルデトックスの習慣を
FOMOによる不安は、情報を得ていない状況を良しとせず、他者を気にしてしまうことに起因します。そうした不安な感情を抱くのは現代を生きるうえでは仕方がないことであり、自身の心情を悔いるべきはないでしょう。一方で、恐怖に苛まれ続けるのは精神衛生上よろしくないのも確かです。JOMO思考を身につけるためにも、意識的にデジタルデトックスを習慣化することをおすすめします。
デジタルデトックスとは、デジタル関連の不安や心配などのネガティブ感情を取り除くことを意味します。方法としてはスマートフォンやパソコンなどのデバイスを意識的に触らない時間を設けるというシンプルなものです。その間は、家族や友人、恋人との会話を重視したコミュニケーションに費やしたり、自然のアクティビティやスポーツを楽しんだりするのも良いでしょう。デジタルデトックスはインターネットとの決別や完全放棄というわけではありません。少しの間、意識的に離れる時間を作ってリフレッシュする手法です。
最初のうちはスマホがない時間が長時間続くだけでもそわそわと気になってしまう方も多いでしょう。しかし、それを意識的な習慣とすることで、オフライン状態にいても平常心を保ちやすくなるはずです。特にSNS疲れを感じている人は、SNSに触れない時間に対してJOMOを感じられるようになることが重要でしょう。デジタルデトックスなので、SNSのアカウントを削除する必要もありません。たとえば、いつもは1日5時間以上見ていたSNSを、3時間に減らすだけでもデジタルデトックスであり、JOMOに基づいた思考なのです。
JOMOを意識することで近づくウェルビーイング
VUCA時代に常にオンライン状態であることで、さまざまな恩恵を受けられるでしょう。しかし、その副作用としてFOMOを筆頭としたメンタルヘルスに陥る人も増えています。便利で豊かなのに、心が貧しい状態は、人間生活において良い状況ではありません。現代で心身ともに満たされた状態であるウェルビーイングを目指すのであれば、敢えてデジタルデトックスを取り入れるなどJOMO思考を上手く活用するのが1つの手段でしょう。
近未来に6G時代が到来するだけに、社会においてデジタルやバーチャルの重要性はより高まることが予想されます。それに比例するかのように、FOMO思考に陥ってしまう人も急増するかもしれません。そうした時代だからこそ、予防線としてJOMOの考え方を取り入れましょう。ウェルビーイングであるためには、自分を保ち続けることが重要です。そのためにも、情報や周囲に流されない環境を意識的に作り出す努力がより求められる社会になるかもしれません。
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