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カスタマーハラスメント(カスハラ)とは? 急増するワケと企業が実践すべき対策

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1989年(平成元年)に日本で初のとある裁判が行われました。それは性的な嫌がらせを意味するセクハラ(セクシャルハラスメント)に関する訴訟です。結果は被害者側の女性の勝訴で終わり、「セクハラは社会悪である」という日本社会での共通認識が醸成され、さらに1989年の新語・流行語大賞を受賞するまでのムーブメントを巻き起こしました。日本における「ハラスメント元年」であり、現代に通じる考え方の起点となる出来事だったと言えるでしょう。

元号が平成から令和に移り変わり、ハラスメントを撲滅できたかというとそうではありません。むしろそのあり方が多様化している傾向にあります。セクハラを筆頭にパワハラ(パワーハラスメント)、モラハラ(モラルハラスメント)など、ハラスメントにおける種類や領域は多岐にわたって派生しています。その中でも注視すべきは、顧客・取引先からの必要以上の嫌がらせや迷惑行為が該当する「カスハラ(カスタマーハラスメント)」です。なぜ令和時代にカスハラが急増しているのでしょうか。企業におけるカスハラ対策も検証します。

顧客からの迷惑行為など「カスハラ被害」が急増中


事業を営むうえでは、どの職種や領域でも顧客とのトラブルは付き物です。顧客という立場を盾に、度を超えた一方的な文句や要求が展開されるケースもあるでしょう。そうした顧客は「クレーマー」として扱われます。元来クレームは相手の立場や状況を踏まえたうえでの不平不満に対する要求であれば、著しく不当な対応には該当しません。しかし、そうした健全なクレームの領域を超え、「カスハラに該当する顧客からの攻撃」を受けているケースもあります。

カスタマーハラスメントの略称である「カスハラ」とは、顧客や取引先などから度を超えた理不尽な要求をされたり、プロダクトやサービスに対して必要以上に不当な言いがかりや叱責をされたりする迷惑行為のことです。日本社会においては、演歌歌手の三波春夫さんの言葉として有名な「お客様は神様」という意識が潜在的に刷り込まれている面もあるでしょう。そのため、顧客と対等な関係を築けず、バランスが悪い主従関係に至っているケースも少なくありません。そうした背景もあり、「カスハラ被害」は年々増加傾向にあります。

厚生労働省が2020年に実施した「令和2年度版 職場のハラスメントに関する実態調査」によると、2017年~2020年の3年間でハラスメントに関する相談があった割合では、パワハラの48.2%、セクハラの29.8%に次いで、カスハラが19.5%と高い数値でした。社会における認知度はまだそこまで高くない面はありますが、もはやカスハラはセクハラ、パワハラに続く第3のハラスメントとなりつつあるでしょう。

また、同調査では2017年~2020年の3年間でハラスメント該当件数の傾向についても数値を公開しています。実際にカスハラに該当する事案があった割合に関しては、カスハラが92.7%でトップでした。セクハラの78.6%、パワハラの70.0%と比較してもカスハラ被害を認識している割合が高いことが伺えます。その具体的な内容としては、「長時間の拘束や同じ内容を繰り返すクレーム」「名誉棄損・侮辱・ひどい暴言」が挙げられます。カスハラを受けていると実感する人が社会でも増加傾向にある点をまずは認識することが大切です。

カスハラが多いのはBtoC業種だが、BtoBも他人事ではない
社会的にカスハラが増加傾向にありますが、特に被害に苦しんでいるのはBtoC(Business to Consumer)の業種です。顧客が一般消費者であり、直接的に関わる機会が多いのがBtoCの特徴なのでそれも当然でしょう。ちょっとしたミスや顧客対応の不備がきっかけで、カスハラにつながりかねない危険性をはらんでいるのは、主にBtoCだと言えます。

BtoCの中でも顧客とのトラブルや悪質クレームなどカスハラが多い傾向にあるのは、交通運輸や観光サービス業に従事している方です。陸・海・空とさまざまなフィールドで交通・運輸・観光に携わり、約60万人が加盟する労働組合である全日本交通運輸産業労働組合協議会では、2021年に「悪質クレーム(迷惑行為)アンケート調査」を発表しています。


出典:全日本交通運輸産業労働組合協議会「悪質クレーム(迷惑行為)アンケート調査」

交通運輸・観光サービス業に従事する全国2万人以上に行った同調査では、2019年~2021年の2年間で利用者からの「迷惑行為に遭った」と回答した割合が46.6%と公表されています。約半数の方がカスハラ被害を受けているという結果は驚愕です。また、「迷惑行為の増加」に関しては57.1%が増えているという回答をしており、交通サービスを提供する方がカスハラ被害の対象になりやすい傾向にあることを示唆しています。


出典:全日本交通運輸産業労働組合協議会「悪質クレーム(迷惑行為)アンケート調査」

迷惑行為の中でも特に多いのが49.7%で「暴言」であり、続いて14.8%で「何度も同じ内容を繰り返すクレーム」でした。コロナ禍の際に「自粛警察」と呼ばれる過度に自粛を要求する人が注目されましたが、こうした暴言や相手を服従させるためのクレームをする人は自身の正義感に基づいて行動しているケースが多い点も問題視されています。「良かれと思って注意している」のが結果として行き過ぎて迷惑行為にまで発展する恐れがあることを自認する必要があるでしょう。

また、0.8%と被害の割合としては低いものの、「SNS・ネットでの誹謗中傷」についてはより注意が必要です。対面でのクレームはダメージが大きい面もありますが、顛末について把握しているのは関係者のみのケースが多いでしょう。一方のネット上の場合は誰でも見られるオープンな環境に、一方的な私見を投稿される危険性があります。そうなると情報を見つけた人に拡散され、歪曲された内容が知らぬうちに広まってしまう恐れもあるでしょう。

そうしたSNSやネット上におけるカスハラは、企業間取引を主体とするBtoB( Business to Business)の業態においても他人事ではありません。自社の失態や不手際がネット上に情報公開されてしまえば、そこから顔も分からない赤の他人から攻撃を受けたり、情報を拡散されたりすることで炎上に至ることもあるでしょう。

BtoCのような直接的な攻撃を受ける危険性は少ないとしても、自社のサービスを知っている間接的な潜在顧客や今後の取引を検討していた見込み顧客にネガティブな情報が届いてしまう恐れがあります。会社に属する会社員であれば、ネット社会ではそうしたリスクに常にさらされているという認識を持つことが大切です。火種が何を要因に炎上に発展するかが読めないだけに、社会で働く誰もが不当なハラスメント被害に遭わないためにもきちんとリスクヘッジに努めることが求められるでしょう。

企業がカスハラに毅然とした対応をするための3つの取り組み


カスハラは顧客からの度を超えた迷惑行為であり、立場上の関係性から対等な話し合いすら難しい場合があります。そのため、被害を受けた個人で対処するのは非常に難儀であり、企業として被害者を守り、その被害を拡大させないための取り組みを行うことが重要です。企業としてカスハラに毅然とした対応をするうえでは、「事実認識」「迅速対応」「法的処置」を念頭に置くべきでしょう。

まず重要になるのは「事実認識」です。カスハラによって従業員がどんな被害を受けたのか、現状としてどんな状態か、やり取りの音声や動画などの物的証拠になるエビデンスはあるのかなどを徹底して調べることが求められます。客観的にカスハラと判断できるかどうか、何か従業員についても非はなかったかなどフラットな視点で事実のみを追求する姿勢が求められます。

次は「迅速対応」です。問題が明るみになった際にすぐに組織として調査を行い、行動に移すことでその後の結果を大きく左右することもあります。「会社が動いてくれない」と従業員に思われてしまうと、精神苦のダメージを受けるだけでなく、離職などの危険性も高まります。企業の大切な人財がカスハラ被害を受けているということを甚大な損失と考え、スピーディーに問題解決に取り組むことは基本中の基本です。

そして、最後は「法的処置」。企業としてはハラスメントを許さない姿勢、投げやりにしないで共に戦い抜く姿勢を見せることは、従業員にとっても非常に心強さを感じてもらいやすいでしょう。法務など社内の法律部門と連携して企業として毅然としたスタンスで、全社課題として取り組むことが大切です。時にメディアを使った発信や公的なリリースなどで強く社会に問題提起していく姿勢なども、こうしたハラスメントに抗う手段だと言えるでしょう。

プロダクトやサービスが細分化されている昨今では、カスハラの火種は常に転がっていると言っても過言ではありません。だからこそ、顧客や取引先のために身を粉にして働く従業員が不当な被害に遭わないためにも、企業としてハラスメントは絶対に許さないという姿勢をステートメントでも示すことも重要になるでしょう。ハラスメントが多様化する時代だからこそ、そうしたリスクに対する理解や知識を深めることが第一であり、そして有事の際には企業として解決のために行動に移すことがカスハラにおける最善策と言えるでしょう。

 

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