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電子化の呼び方はなぜ分かれる? デジタイゼーション、デジタライゼーション、DXの違い

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紙文化からの卒業・ペーパーレス化の促進など、アナログからデジタルへの変換が進んでいる昨今。電子化はもはや時代の潮流であり、連日メディアや企業内でも合言葉のように使われています。しかし、一口に「電子化」と言っても、その言葉の意味を、そしてデジタルシフトにおける自らの立ち位置を正確に理解しているでしょうか。広義においてアナログからデジタルに移り変わることを「電子化=デジタル化」と呼びますが、実は英語では電子化を表す単語が3つもあるのです。

「デジタイゼーション(Digitization)」「デジタライゼーション(Digitalization)」「デジタルトランスフォーメーション(DX/Digital Transformation)」とそれぞれの言葉を見聞きしたことがある方は多いでしょう。しかし、その違いや正確な意味を把握されている方は少ないかもしれません。事業や社会のデジタルシフトをより推進していくうえでも、電子化における3つの言葉の意味の違いを理解することが大切です。そのうえで、現状のデジタルシフトの段階や社会としての成熟度にまできちんと目を向けましょう。

デジタイゼーションとデジタライゼーションの違いは英語の意味で理解

政府や自治体がDX推進を標榜するなど一般的にもその呼び方が定着しつつあるだけに、DXがデジタルトランスフォーメーションを意味していることを知らない方は少ないかもしれません。一方で、辞書で言葉を調べた際にともに「電子化(デジタル化)」と載っているデジタイゼーションとデジタライゼーションは区別がつきにくいのが現状です。しかし、言葉の成り立ちを正しく理解すれば、デジタイゼーションとデジタライゼーションを明確に区別できます。まずはデジタイゼーションとデジタライゼーションの語源から説明します。

▼デジタイゼーションの元の語源は「digit」である
大きなポイントとして挙げられるのは、デジタイゼーションの語源が実はデジタル(digital)ではないことです。デジタイゼーション(digitization)は、digitizeという「計数化(情報を0と1の数字の羅列に編成)する、デジタル信号化する」という動詞を名詞化した言葉になります。そして、digitizeはdigit にizeをつけて「~化する」という意味を含むようになった動詞です。デジット(digit)は数字(0〜9まで)や桁を表す言葉であり、コンピュータ分野では「0」「1」という2進法で表現するデジタル信号の意味合いで使用されます。

▼デジタライゼーションは「digital」を語源とする電子化(デジタル化)の本流
デジタライゼーション(digitalization)は、デジタル(digital)から派生している言葉です。digitalにizeをつけて動詞化した言葉であり、日本語で「電子化(デジタル化)」と訳されています。つまり、多くの方が使う電子化(デジタル化)という言葉の本流は、デジタライゼーションということになります。

国連開発計画と総務省によるそれぞれの言葉の定義

違いを説明しにくいデジタイゼーションとデジタライゼーションは、そもそもの語源が異なることを押さえれば、本質的な意味を理解しやすいでしょう。そのうえで、デジタイゼーション、デジタライゼーション、DXのそれぞれの言葉が実際にどのように定義されているのかについても紹介します。

出展:総務省「令和 3 年版 情報通信白書」(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd112210.html)より

【デジタイゼーション(Digitization)】
既存の紙のプロセスを自動化するなど、物質的な情報をデジタル形式に変換すること

国連開発計画(UNDP/United Nations Development)では、デジタイゼーションを上記のように定義しています。前述したようにデジタイゼーションは、計数化、デジタル信号化という意味を持ちます。たとえば、アナログ文化の中心だった請求書などの紙の書類をスキャンしてPDF形式のデジタルデータに変換することが挙げられるでしょう。そうすることで紙の書類はデジタル形式で扱えるようになりますが、本質的な電子化(デジタル化を果たしているとは言い切れません。

【デジタライゼーション(Digitalization)】
組織のビジネスモデル全体を一新し、クライアントやパートナーに対してサービスを提供するより良い方法を構築すること

同じく国連開発計画が定義するデジタライゼーションが上記の内容です。デジタライゼーションに関しては、デジタルデータへの変換などの個々の工程における電子化(デジタル化)ではなく、自社内に加えて外部環境や事業戦略も含めたビジネスプロセス全体における変革という意味合いになります。デジタイゼーションでは請求書をスキャンしてPDFにするところを、取引先との受発注のプロセス自体をすべて電子化(デジタル化)するのがデジタライゼーションです。棲み分けをするなら、物理的な電子化(デジタル化)がデジタイゼーションであり、ビジネスプロセスの電子化(デジタル化)がデジタライゼーションとなるでしょう。

【デジタルトランスフォーメーション(DX/Digital Transformation)】
企業が外部エコシステム(顧客、市場)の劇的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること

上記は総務省が発表している「令和 3 年版 情報通信白書」におけるDXの定義です。従来までの情報化・電子化・デジタル化(デジタル技術を用いた単純な省人化、自動化、効率化、最適化)の領域に留まらず、既成概念にとらわれることなく社会に新たな価値を創出する改革がDXになります。

定義内容を比較しても、デジタライゼーションとDXの違いについては明確に区別されていない一面もあります。違いを述べるとしたら、ビジネスプロセスの電子化(デジタル化)がデジタライゼーションであり、電子化(デジタル化)されたビジネスプロセスを使いこなす「人々の思考の転換こそがDX」ではないでしょうか。デジタルシフトされたビジネスプロセスを、人々が違和感なく使いこなしてこそ真のDXが実現すると言えるでしょう。つまり、電子化(デジタル化)がなされるだけでなく、それを多くの人が当たり前に使いこなせる状況にならないとDXが成功したとは言い切れないのです。

交通系ICカードでイメージする3つの電子化の変遷

「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」「DX」の言葉の違いを理解したものの、実社会においてそれらの違いを明確にイメージできていない方もいるでしょう。3つの電子化(デジタル化)の変遷をイメージするうえで、多くの方にとってもっとも身近な存在としては「交通系ICカード」が挙げられます。

交通系ICカードはSuica、PASMO、ICOCAなどを中心に10種類あり、非接触型ICカード方式を採用した電子マネー機能付き乗車カードとして電車やバスなどの全国の交通機関を相互利用できるサービスです。近年ではスマートフォン専用のアプリもあり、もはやカードすら持たなくともスマホでより便利に乗り物を利用できます。また、日常の買い物をする場合でも対応店舗では、「ピッ」と触れるだけで電子決済が可能です。

現在でこそ各交通機関で当たり前になった交通系ICカードですが、導入前までは鉄道においては券売機で切符を購入し、駅員さんに「改札パンチ」と呼ばれる専用の道具で切り込みを入れてもらうことで入場記録を管理していました。まさに人力と呼べるアナログなやり方を採用していたのです。その後、自動改札機が全国的に普及し始め、「改札パンチ」が使用される機会が激減。自動で改札記録を管理できるようになり、効率化と自動化を促進されました。これが交通機関におけるデジタイゼーションと呼べます。

そして、2001年11月に交通系ICカードとしてSuicaが導入されると、瞬く間に浸透。交通機関のデジタライゼーションが起き、切符を活用する方はほとんどいなくなりました。ビジネスプロセスを導入することがデジタライゼーションであり、利用者の思考の転換がDXと考えるなら、交通系ICカードにおいてはDXへの移行が非常に早かったと言えるでしょう。

持ち合わせなかったケースなどを除いて、交通系ICカードを利用できるのに切符をわざわざ買うケースは稀だと言えます。つまり、交通系ICカードを使用することが人々の生活に違和感なくマッチしており、デジタルシフトしたうえで上手く使いこなしているDXが浸透した状態なのです。

「人々の思考の転換」がなされた時に真のDXが実現する

近年は声高にDXの必要性が叫ばれていますが、「どうすればDX実現なのか」が多くの方に認識され、定義されると、共通認識としてより社会に浸透していくでしょう。電子化(デジタル化)を果たすことが何となくDXだというファジーな認識は、社会全体で改めていくことが大切です。そのためには、まず身近な取り組みをデジタイゼーション、デジタライゼーションDXに明確に棲み分けすることをおすすめします。そして、DX実現までのロードマップを敷くことが大切です。

「人々の思考の転換」がなされた時に真のDXが実現するだけに、仕組みをつくるだけでは不十分と言えます。交通系ICカードのように本当に便利で生活に根ざしたものは、瞬時に普及が進みます。これからDXを推進するうえでも、導入したテクノロジーが真の意味で定着するかをジャッジポイントとすべきでしょう。

 

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