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BtoCよりもBtoB商取引に関するDX推進が遅れているワケ

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DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が盛んに叫ばれている昨今。デジタル化に基づくプロセスの変革を意味しますが、特にBtoB(B2B/Business to Business/企業間取引)市場において日本は他国に後れを取っているのが現状です。企業間における商取引プロセスをオンラインで実施したり、請求書対応をツール上で完了したりするなど実務レベルでのDXがまだ浸透していない企業も少なくありません。

一方でBtoC(B2C/Business to Consumer/企業と個人間の取引)市場に目を向けると、日本でも人々の生活にDXがすでに浸透しているとの見方もできます。ネットショッピングやデリバリーアプリを利用する人の割合は増加の一途を辿っており、小売店でもQRコードやバーコードでの決済が日常化しつつあります。今後は人々の暮らしにDXが馴染みつつあるBtoCのように、BtoBでもDXが当たり前というマインドレベルに引き上げることが急務と言えるでしょう。

BtoBに先んじてBtoC市場では「身近なDX」がすでに起きている
BtoCにおいてサービスを享受するカスタマーとしての視点に立った時、現代でEC (electronic commerce/電子商取引)をまったく利用したことがないという完全アナログ派の人のほうが珍しいかもしれません。たとえば、Amazonや楽天、ZOZOTOWNなどでのインターネットショッピングはECの最たる例です。個人向け通販サイト内で購入ボタンを押すだけで、家にいながら商品を得られる快適さを知ってしまったら、その便利な暮らしがスタンダードになることはもはや必然と言えるでしょう。

インターネットショッピングが台頭する前は、お店まで直接足を運んで商品を自身の目で見た上で買い物をするというアナログなやり方しか手段はありませんでした。しかし、インターネット上で買い物を済ませてしまうデジタルなやり方が一般的になったことで、多くの消費者において行動変換が起きています。近年はコロナ禍の影響も相まって、購買のプロセスをデジタルによって完結させたいという方の割合も増えているでしょう。つまり、これがデジタル化に基づくプロセスの変革であり、「DX」なのです。

BtoC市場においてもデジタルへの移行は常にスムーズだとは言えません。たとえば、2001年にJR東日本が非接触ICカード「Suica(スイカ)」を導入した当初は、切符というアナログなツールからタッチするだけで自動精算される非接触ICカードへの移行に戸惑った方もいるでしょう。しかし、導入から20年以上が経った現代では、非接触ICカードを使わずに切符を購入するほうが珍しいくらいに人々の暮らしに浸透しており、身近で使用頻度が高い電子マネーとしてその地位を確立しています。

キャッシュレスにおいては、近年ではQRコード決済で買い物を済ませる方が増加傾向にあります。金融サービス会社インフキュリオンが2021年12月に発表した「決済動向2021年12月調査」(全国の16~69歳の男女5000人を対象にした調査)では、QRコード決済の利用率は実に56%。現金主義の層がまだ根強くいる中で半数以上はQRコード決済を利用しているという事実は、変革の流れを感じさせてくれます。

DXという言葉を聞くと、どうしてもBtoB関連のイメージが強く、「日本ではあまり進んでいない」と認識されている方も多いでしょう。しかし、BtoC市場に目を向ければ、「身近なDX」はすでに起こっているのです。個人がデジタルへの変革に対応できるのであれば、法人として企業が取り組むことも不可能ではないように思えます。ではなぜ、日本における企業間のDX推進は思うように進まないのでしょうか。

企業間取引のDX推進が遅れている要因はマインドレベルの低さ
以前に「日本はすでにデジタル後進国? DXで世界と比肩するために必要な意識改革」のコラムでも紹介したように、日本は特にBtoB市場のDXにおいて他国より後れを取っている段階にいます。その要因となっているのは、日本社会に根づくアナログ文化から脱却しきれていない点が挙げられます。現金や手形などアナログな手段による支払業務がいまだに存在し、ハンコや紙文書といった旧来の契約・承認フローを重視する傾向にあるからです。特に中小企業においてはそれが顕著だと言えます。

企業間取引においてのDX化は、ITツールの導入が鍵を握ると考える方もいるでしょう。当然、DXを推進する上でITツールの存在は必須です。しかし、それだけで中小企業を中心とした日本のBtoB市場のDXが進むわけではありません。何より変えなければならないのは、経営陣や労働者のマインドレベルです。日本社会で働く1人ひとりがBtoB市場においても、DX推進を果たさなければならないことを自覚し、それぞれが変革への準備・適応をしていくことが不可欠だと言えます。

BtoC市場を例に挙げたように、カスタマーとしての「身近なDX」はすでに浸透しつつあります。それと同様に、BtoB市場でのワーカーとしての「社会的なDX」にも上手く順応することが求められるでしょう。「DXとかよく分からないから」「これまでのやり方を変えたくない」という理由からDX推進に関わろうとしない人が多ければ多いほど、社会全体におけるデジタル変革への道は遠のきます。BtoC市場のように、DX導入を「社会の新たなスタンダード」に引き上げていく意識が必要になるでしょう。

BtoB市場でのDXを考えた場合、取引先やパートナーの動向を無視することはできません。相手がいてこそのビジネスなので、もしそうしたステークホルダーたちがDXを推進した場合に、「デジタルに対応できない企業とは取引できない」という事態も近い将来に十分に起こりうるでしょう。

DX人材の積極登用など経営層のマインドレベルの改善が不可欠
BtoB市場でのDX推進が成し遂げられない大きな要因としては、DX推進を担う人材の不足が挙げられています。2019年にIPA(情報処理推進機構)が発表した「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」によると、「プロデューサー」「データサイエンティスト/AIエンジニア」「ビジネスデザイナー」「アーキテクト」という職種でDX人材が大いに不足しているという回答が約5割に上りました。

企業の先頭に立ってDXの推進をするリーダー人材が不在な状況では、変革の方向性すら見いだせないというのが日本の現実なのかもしれません。だからこそ、経営層が主体となり、将来のデジタル市場で勝ち残るために組織文化やビジネスモデルを根本的に変革すること、DX人材の登用に力を入れることが重要なのです。

DX人材が活躍しやすい社会、評価される社会になれば、おのずと企業のDX推進の舵取りをしたいと思う人材も増えてくるでしょう。そうすれば、労働者のマインドレベルも引き上がり、DXにおける社会の考え方も良い方向に変化することが期待されます。だからこそ、まずは経営層のマインドレベルを高めることで、企業の取り組みを変え、その流れを社会全体に広げていく――。そうした変革が求められます。その第一歩となるのがDX人材の積極登用だと言えます。

社会でDX人材の登用が活発化すれば、「他社が当たり前のようにDXに取り組んでいるので、うちも始めよう」と考える企業が増えるはずです。そして、個々の企業から社会全体にそうしたマインドレベルを波及することができれば、DX推進も実現に近づくでしょう。

BtoB商取引のDX推進における3つのキーワード
BtoB市場でのDX推進は、経営層のマインドレベル改善こそが最優先課題であることを理解した上で、最後にビジネスシーンでのデジタル化を見据える重要の3つのキーワードを紹介します。社内におけるDX推進におけるITツール導入の検討の際には、ステークホルダー間のデータ連携を意識した上で下記の3つが実現できるのかをきちんと検証しましょう。

・その1:データ化によるビジネススピードのアップ
デジタル化によってデータ量は爆発的に増加します。そのため、データ処理や判断に多くの時間をかけることは推奨できません。スピーディーな判断、アウトプットを実現し、ビジネススピードの高速化を意識しましょう。

・その2:ステークホルダーのニーズに応えられるのか
企業間でのDX推進においては、常に要求レベルについては上がり続けています。いろいろな業務を「リアルタイムに、自動的に、相互に、同時に」対応することが求められます。ステークホルダーが要求するニーズに応えられているかも重要なチェックポイントです。

・その3:漏洩リスクが限りなく低いセキュリティ環境
デジタルデータは非常に便利な反面、ネットワークのトラブルやハッキングなどがあると個人情報などが漏洩するリスクを伴います。特にデータ連携をすることを踏まえたセキュリティ環境の整備が重要です。

BtoBにおけるDX推進は、社会全体のスタンダードを上げることが重要であり、今後は社会全体でデジタルデータの扱いについてよりコアに関わっていく姿勢が求められます。ステークホルダーとのデータ連携を強化していく上でも、「ビジネススピード」「ニーズの汲み取り」「セキュアな環境」を意識しましょう。DXにおける社会の意識が向上したタイミングで、真のDXは実現されるはずです。

 

アートボード_ 1