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日本はすでにデジタル後進国? DXで世界と比肩するために必要な意識改革

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「日本は世界でも有数の先進国」だと多くの方がそう思っているでしょう。確かにIMF(国際通貨基金)が発表した2021年のGDP予測では、日本は5兆3781億ドル(約588兆円)でアメリカ、中国に次ぐ世界第3位の位置につけています。しかし、各分野で技術革新が顕著な現代においては、テクノロジーを上手く導入できない国は、たとえ先進国でも他国に後れを取る危険性があります。中でも危惧されている領域の1つが「日本の紙文化」です。世界的にDX(デジタルトランスフォーメーション)が進む中で紙重視の社会構造は、デジタルの恩恵を受けるうえでの妨げになり得るでしょう。

リモートワーク浸透で疑問視され始めた紙文化の意義
新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行によって、社会全体でニューノーマルな生活を強いられています。しかし、未曽有の事態によって世界経済が大打撃を受けた一方で、多くの企業で「事業継続のための変革」が行われている事実は見逃すべきではありません。その最たる例が、今ではもう当たり前になりつつある「リモートワークの導入」です。

元来、業務効率化やワークスタイルの多様化を実現する手段の1つであるリモートワークですが、多くの企業ではコロナ禍の感染症対策の一環として導入を決断しました。日本社会全体でリモートワークを推進することで、これまで導入に前向きでなかった企業でも積極的に取り入れられるきっかけとなりました。感染予防の観点からリモートワークの浸透が早まったことの是非は、多くの検証がなされるべきだと言えます。ただ、数ある変化の中でも注目すべきは、「リモートワーク浸透で紙文化の意義が疑問視され始めたこと」です。

株式会社NTTデータ経営研究所が2021年4月に発表した「新型コロナウイルス感染症と働き方改革に関する調査」では、24.6%が「紙の書類を前提とした押印、決裁、保管等の手続きがあること」をボトルネックに感じていると回答しています。これまで紙の書類での提出、押印、決裁、保管が当たり前の文化だったために、それをリモート環境で実施しようとした際に初めて不都合に気づく方が続出しました。中には、「コロナ禍なのに、紙での書類対応のためだけにオフィスに出社した」というケースも珍しくありません。

世の中がコロナ禍という未曽有の事態に陥ったために、導入が早まったリモートワーク。ただ、否応なしに遠隔で仕事をする体験を強いられたことで、これまでの常識(紙文化が当たり前になっていた社会)に疑問を持つ方が増えました。そして、それはDX推進において大きな追い風になっていることは確かでしょう。「机上の空論」で語られるのではなく、多くの方がリモートワークを実践することで「論より証拠」として紙文化の不都合を実感できたことは、日本のDX推進において大きな転機になったはずです。

他国と比較した際の日本のDX推進の現状
リモートワークの浸透によって紙重視の社会構造に一石が投じられる結果となったものの、外資系企業にお勤めの方や海外転勤が多い方を除いては、「DXにおいて他国の後れを取っている」という自覚のある日本人は少ないかもしれません。なぜなら他国の企業におけるペーパーレスの取り組みやプロセスのデジタル化の状況を情報として見聞きはしていても、自身の業務にどう活かされるのかを具体的にイメージしにくいからです。加えて前述した紙文化が社会に深く根づいていることもあり、日本は気づかぬうちに「デジタル後進国」に成り果ててしまったのだと言えます。

そうした日本の危機的な状況を物語っているデータが、スイスのビジネススクールIMDが発表した2021年版の「世界デジタル競争力ランキング」です。64の国と地域を対象としたこのランキングですが、日本は28位で2017年の調査開始以来の最低順位を更新しています。シリコンバレーを中心に世界のデジタルの最先端を行くアメリカが1位なのは頷けますが、2位は同じアジアの香港です。また、韓国が12位、中国が15位ということもあり、近隣諸国と比較しても日本は後塵を拝している状況になります。

では世界第3位の市場規模を持つ経済大国である日本がDX推進の領域において低迷を続けている要因は何なのでしょうか。挙げられるのは「スピード感」「デジタル人材」「社会構造」の3つです。他国と比較した際に日本のウィークポイントと言って差し支えないでしょう。

第一にDX推進のスピード感が、他国と比べて遅い傾向にあります。先に紹介した「世界デジタル競争力ランキング」において、「ビジネスの俊敏性」の項目において日本はなんと53位でした。特に顧客やスタッフなどの声を取り入れたり、データに基づいて抜本的な経営判断をしたりするなどの意思決定のスピード感が遅いとされています。他国で新しい技術が次々に取り入れられているのに、日本ではまだ一般的にその技術が知られてもいないという現状は、スピード感の欠如が招いているのでしょう。

次に人材不足も深刻で、47位という結果に。DXを先頭立って推し進めることができる人材が不足している傾向にあります。特に国際経験が豊かで、ワールドワイドでデジタルの革新的な技術をリードできる人材をどの企業も欲しているところでしょう。さらに新しい技術に対して拒否反応が多い社会構造も課題の1つです。「規制の枠組み」においても順位は48位でした。先に挙げた「ペーパーレス後進国」と揶揄される現状は、新しい技術に対しての柔軟性の低さを示しているのかもしれません。

DX推進を実現するうえで重要な経営層の意識改革
ここまで紹介してきたように日本のデジタルを取り巻く環境は、はっきり言って明るいとは言えないでしょう。しかし、だからと言って日本に希望がないというわけではありません。「世界デジタル競争力ランキング」での「科学的集積」においては13位とまずまずの順位につけています。戦後の高度経済成長期の日本を支えてきたのは、間違いなく製造業の技術力であり、ものづくりの文化でした。そうした世界でも勝負できる技術力に目をつけ、成長を促し、ビジネスに昇華させていく土壌を再度、形成していく必要があるでしょう。

かつての日本のように先端技術において世界と渡り合えるようになるためには、リーダーたちが新しい技術や取り組みに対してよりくわしくなり、より柔軟に、より積極的に関わっていくことが求められます。従来までと同様の保守的なやり方で、今後も日本が世界のトップレベルの経済力を保持できるかと問われれば、甚だ疑問が残ります。「2025年の崖」問題に代表されるように、複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システムに身を委ねるだけでは、国際競争に遅れ、経済の停滞を招くことになるのは明白です。

国や行政がペーパーレス化やデジタル化の推進により力を入れるのは当然ですが、それは企業の経営層にも同様のことが言えます。現場からのデジタル化を要望する声があるにもかかわらず、世の中の流れに合わせて舵を切れないでいる経営層の方も少なくないでしょう。しかし、日本企業の1社1社が今置かれている現実をしっかりと直視し、世界の潮流に乗り遅れないことが求められます。DX推進は決して他人事ではなく、自社の直近の重要課題と位置づけることが大切です。そうした経営層の意識改革が進むことが、日本が世界とデジタルで渡り合ううえでのスタートラインとなるでしょう。