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DXのその先はVX? デジタルツインやメタバースのビジネス活用の可能性

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2018年9月に経済産業省から「DXレポート」が公表されて以降、日本国内でもDX(Digital Transformation/デジタルトランスフォーメーション)推進の気運が高まっています。ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開の重要性を説いた同レポートですが、約4年後の2022年7月に公表された「DXレポート2.2」ではデジタル産業への変革に向けた具体的な方向性やアクションの提示を行う段階まで進歩を遂げています。

少しずつではありますが、日本社会においてもDX推進における意識や重要性の位置づけが変わりつつある段階にあるでしょう。しかし、人々のDXにおける意識の変化は非常に良い傾向ではあるものの、それ以上に技術革新のスピードが著しい点は無視できません。人々が完全に“DX脳”になった際には、すでに時代は次のステージに到達しているかもしれません。一説によればDX後の技術革新として、近未来にVX(Virtual Transformation/バーチャルトランスフォーメーション)の時代が来ると言われています。

VXを知るうえで欠かせない「バーチャル≠仮想」という本質
VXを知らない方でも、VR(Virtual Reality/バーチャルリアリティ)という言葉なら一度は見聞きしたことがあるのではないでしょうか。「仮想現実」と日本語訳されており、コンピュータで作成した映像や音声などを現実に近い状態で体験できる技術を指します。つまり、現実にはない世界を疑似体験できる技術がVRに関する一般的な認識ではないでしょうか。

しかし、気をつけなければいけないのが、バーチャル (virtual)の本来の意味は、仮想や虚構、擬似といった意味ではないことです。アメリカで権威のある辞典「The American Heritage Dictionary」によると、virtualは下記のように定義づけられています。

「Existing in essence or effect though not in actual fact or form(見た目や形は原物そのものではないものの、本質的・実質的には原物として存在する状態)」

非常に回りくどい言い方ではあるものの、virtualはほぼ実体と同義であることを意味します。さらに言葉の意味を紐解いていくと、興味深い事実が分かります。バーチャル(virtual)の反対語はノミナル(nominal)であり、「名目上の、表示上の」という意味です。つまり、本質の対を成す言葉なのです。それらの言葉の意味を整理すると下記の図式が成り立ちます。

「real(真の、本当の)≒virtual(実質上の)⇔nominal(名目上の、表示上の)」

つまり、多くの人が仮想だと考えているバーチャルは、仮想や虚構といった言葉とは対極に位置する言葉で、実はリアルとニアリーイコールで結ばれる関係となります。

例えば、「バーチャルオフィス」という言葉でイメージしてもらうと、より分かりやすいかもしれません。バーチャルオフィスとは、物理的実体のない「実質的な事務所」を指します。個人・法人を問わずに事業者になる際は、郵便物を受け取ったり銀行口座を開設したり登記したりするための所在地(住所)が必要です。バーチャルオフィス利用によって事業用の住所を確保すれば、自宅の住所を使用せずに済むなど公私を分けられます。オフィスの実体があるわけではないものの、実質的なオフィス機能を果たすのがバーチャルオフィスなのです。

このようにバーチャルという言葉は、仮想、虚構などの非現実的な意味合いで使われることが多いものの、本来の意味はその対極であることが分かります。つまり、「バーチャル≠仮想」ということです。

VXの本来の意味合いとは?フィジタルやOMOがより進んだ社会
バーチャルの本来の意味を加味したうえで、改めてVX(バーチャルトランスフォーメーション)について考察してみましょう。「原物そのものではないものの、本質的・実質的な原物に関する変革」と言葉の意味を文字通りに受け止めても内容理解はしづらいかもしれません。そのため、「世界中でバーチャル化がより浸透する変革」と言い換えましょう。さらに意訳して「日常によりサイバー世界が溶け込む革新的な変化」と捉えるとイメージがしやすいかもしれません。つまり、フィジタルがより進んだ状態を指します。

フィジタル(Phygital)とは、Physical(フィジカル)とDigital(デジタル)をかけ合わせた造語であり、現実世界とサイバー世界の融合を意味します。「OMO」(Online Merges Offline/オンラインとオフラインの融合)とほぼ同義だと考えて良いでしょう。DX推進によってフィジタルやOMOにおける技術革新は著しい進歩を遂げています。ではDXとVXには厳密にどんな違いがあるのでしょうか?

VXの概念を提唱した株式会社ITRのチーフアナリストであるマーク・アインシュタイン氏は、VXはDXの発展型であることを力説。「世界が共通で抱える社会課題は、単にDXが促進しても解決できない」と主張し、VXはDXの技術を補完したうえでサイバー世界においてより現実に近い実質的な行動・体験をサービスとして提供することが可能になると説いています。

具体的には、「アナログ」「DX」「VX」とサービスの変遷を下記のように説明しています。

上記を踏まえると、DXによってアナログの手法からデジタルにサービスが転換され、VXによってさらにサイバー世界との融合が進むことでリアルに近いサービスに回帰(進化)することが分かります。今後はDXの発展型であるVXに基づくサービスが社会全般に浸透していくでしょう。

VXにおいて注目すべき4つの先端技術

VXはDXの技術を補完したうえで、サイバー世界とのさらなる融合を生む変革です。すでに実装されている技術に関してもVXの観点と共通する考えのものも多数存在します。その主な技術が「XR関連技術」「デジタルツイン」「メタバース」「デジタルヒューマン(バーチャルヒューマン)」の4つです。

▼その1:XR関連技術
XRとは、X₋Reality(エックスリアリティ)と言って、VR(Virtual Reality/人工現実)、AR(Augmented Reality/拡張現実)、MR(Mixed Reality/複合現実)の総称です。人工現実において現実のような体験ができるVR、現実世界をベースにサイバー世界との融合が楽しめるAR、VRとARの双方を融合した体験ができるMRといういずれもバーチャルと融合した世界観がベースになっています。主にゲームなどのレジャー産業ですでに導入されている技術であり、一般の方がもっとも身近に感じるサイバー世界との融合ではないでしょうか。

その2:デジタルツイン
デジタルツインとは、現実世界のリアルタイムでのさまざまなデータを収集し、サイバー世界に現実世界と同様の環境を再現する技術です。現実世界で存在するものの分身、つまり双子を構築するという意味合いから「デジタルツイン」という名がつけられました。デジタルツインの応用としてはいくつかの方法があります。

例えば、商業施設やビルなどの建設において建設予定地にIoTセンサを設置し、周辺の人の動きや交通量をリアルタイムにサイバー世界に再現。遠隔からの状況把握に役立ちます。また、サイバー空間に街を構築することで、街のリアルタイムなデータを収集することで交通渋滞の発生状況や災害時のシミュレーションを行うなどの活用方法があります。もっともビジネス応用がされている技術です。

▼その3:メタバース
メタバースとは、インターネット上に構成された3次元のサイバー空間です。メタバースの語源は「超越」を意味する「Meta」と「世界」を意味する「Universe」を組み合わせた造語になります。メタバース上では、自分自身の分身であるアバターを操作し、他のアバターとコミュニケーションを取ったり、物を売買したりするなど現実世界に限りなく近いやり取りが行えます。

つまり、メタバースというバーチャルな空間で、アバターというバーチャルな分身を操作することで、現実と同様のネットワークを形成することも可能です。近い将来、商取引のやり取りがメタバースプラットフォーム上で行われるようになり、アバターが自身の顔となって世界中とビジネスでつながる日も来るかもしれません。

▼その4:デジタルヒューマン(バーチャルヒューマン)
デジタルヒューマン(バーチャルヒューマン)とは人間そっくりの姿をしたAIであり、モデルとして活躍したり、接客業務をしたりするなどすでに実用化が進んでいる技術です。チャットボットなどでやり取りをした方であれば、AIならではの無機質なやり取りに寂しさを覚えた経験もあるかもしれません。

しかし、デジタルヒューマンの魅力は、CGで再現された人間と代り映えのない見た目と感情を伴ったアプローチができることです。そのため、生身の人間とコミュニケーションするのと近い感覚が得られるでしょう。言葉や文字から受ける影響は全体のわずか7%であり、55%は顔の表情、38%は声のトーンからの情報というメラビアンの法則は非常に有名な話です。顔の表情や声のトーンを重要視したことで、コミュニケーションにおいて感情のつながりを生み出せることがデジタルヒューマンの強みとなっています。

VXはすでに身近なところから浸透し始めている
DX、VXという風に明確な区切りをつけると、その境を判別するのは非常に難しいでしょう。しかし、サイバー世界と現実世界を融合させる仕組みや変革と捉えると、意外にも身近なところですでにVXの片鱗を感じることができるのではないでしょうか。今後、日本でもDX推進の波が加速していくことが予想されるだけに、バーチャル化も踏まえた技術革新や新たな技術への移行を常にイメージしておくと良いでしょう。VXが浸透する日は、もうすでに近未来のことではないかもしれません。

 

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