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電子データにおけるNFTの価値とは? タイムスタンプだけでない唯一無二の証し

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現代において人々の暮らしをより豊かにするうえで、デジタル化は欠かせない要素です。デジタルの普及によってネットワーク上で多くのデータを簡単に共有できるようになり、情報化社会の発展に大きく寄与してきました。しかし、デジタルは便利な反面、データが簡単に複製されてしまう点には注意が必要です。たとえば、TwitterなどのSNS上でイラストデータをアップした場合、それをコピーされ無断利用されるなど著作権侵害に遭う恐れも高まります。

そうしたデジタル上にある固有のデータの偽造・改ざんを阻止するために、ブロックチェーン上でデジタルデータに唯一性を付与して真贋性を担保する機能や取引履歴を追跡できる機能を持たせた技術がNFT(Non-fungible Token/非代替性トークン)です。「代替不可能なデジタルデータ」と表現できるでしょう。NFTは主にゲームやアート領域で活用されていますが、今後のビジネス利用も注目されています。電子帳簿保存法におけるタイムスタンプの重要性を引き合いに、NFTビジネスの発展に迫ります。

そもそもNFTとは?「代替不可能なデジタルデータ」の意義

NFTの日本語訳である「非代替性トークン」という言葉を聞いても、あまりイメージが湧かない方も多いでしょう。「非代替性」とは唯一無二であり、替えが効かないことを指します。つまり、その物の価値が固有であり、同じ物として交換できないことを意味します。

2021年にイギリスを拠点とする素性不明のアーティストであるバンクシーが、自身の作品である「Love Is in the Air」を1万個のNFTに分割して販売したことが話題になりました。その1万個のNFTはそれぞれがナンバリングされており、同じ物として交換できません。それがNFTにおける非代替性です。

トークンという言葉は、「しるし」「象徴」などを意味します。一方でデジタル界隈においては従来の硬貨や紙幣の代わりに使う暗号資産(仮想通貨)などデジタル上で取引されるデータや資産を指します。また、ネット決済やクレジットカード決済における本人認証に使う認証デバイスとしての意味合いもあるのです。つまり、「非代替性トークン」とは、「非代替性のデジタルデータを認証する仕組み」と言えます。

では「代替不可能なデジタルデータ」であるNFTは、なぜ価値が高いと言えるのでしょうか。最たる理由としては、複製が容易に行えるデジタルデータに対して唯一無二であることを証明し、希少性を付与できる点が挙げられます。骨董品において本物と贋作とでは、天と地ほどの価格差が生じます。NFTにおいては鑑定人に査定してもらうまでもなく、真贋を判断できるのです。保有するデジタルデータの希少価値を簡単に証明できるのは大きな利点でしょう。

また、取引の流通性や相互運用性もNFTの大きな特徴の1つです。ブロックチェーンの活用によって特定のアプリケーション内に留まらず、他のアプリ―ケーションとの連携などオープンな市場で自由にNFTの移転や取引を行えます。また、二次流通時に販売額の一部を制作者に還元するロイヤルティ機能を組み込むことも可能です。NFTは購入、売却、転売が可能であり、ブロックチェーンによって取引履歴も確認できます。そのため、今後はゲームやアートのみならず、NFTの他のビジネス展開も加速するでしょう。

拡大するNFT市場は2022年には約4,000億円規模に成長

NFTはさらなる成長が期待できますが、どのくらいの市場規模があるのでしょうか。インド最大の調査会社であり、市場調査やコンサルティング事業を手がけるマーケッツアンドマーケッツ社では、2022年のNFT市場は30億5,600万米ドル(約3,973億円※1米ドル=130円の2023年1月時点での為替レートで計算)に達すると予測。

さらに2027年には136億7,900万米ドル(約1兆7,783億円※同じく1米ドル=130円計算)と4.4倍超の規模でNFT市場が急成長すると見込んでいます。予測期間中のCAGR(年平均成長率)は35.0%と目されており、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの産業だと言えます。

今後の市場拡大が予想されているのは、ゲームやアートなどのすでにNFTが浸透している分野から、さらにその領域を広げていることが要因です。たとえば、芸能界においては、アイドルやタレントの写真がNFTによって販売され、ファッション界では有名ブランドが作成した洋服やバッグのデジタルファッションが購入できます。また、スポーツや音楽ライブなどの注目度の高いイベントでは、チケットがNFT化されるなど希少価値の証明になります。このようにNFTはすでに様々な分野に広がりを見せ始めているのです。

大手コーヒーチェーンのスターバックスは、2022年12月より「Starbucks Odyssey」という顧客のWeb3体験プログラムのベータ版テストをアメリカで開始しています。また、日本の大手インターネット企業である楽天では、2022年春から「Rakuten NFT」を展開。大手お笑い事務所である吉本興業でも、芸人ファン向けにデジタルトレーディングカードを2020年から販売しています。今後はより多くの企業がNFT事業への参入を果たすでしょう。

電子帳簿保存法で重視されているタイムスタンプも将来的にはNFT化?

ゲームやアートはもちろん、芸能や興行の領域まで広がりを見せているNFT。大手企業の参入も増加傾向にあることから、今後は一般の商取引にも波及する可能性は大いにあるでしょう。既存の商取引においては、タイムスタンプという電子化された文書が原本であることを証明する技術が一般的です。電子文書にタイムスタンプが付与されると、その時刻に書類が存在していた事実、付与時刻以降は書類の変更がない点が証明されます。

タイムスタンプに記載された情報とオリジナルの電子データから得られる情報の比較によって、タイムスタンプが付与された時刻から改ざんされていないことを確実かつ簡単に確認できます。そのため、商取引のデジタル化が進む昨今では、タイムスタンプの発行件数も増加。2022年1月1日施行の改正電子帳簿保存法により、タイムスタンプを電子データの存在証明と非改ざん証明のために活用する企業は増えることが予想されます。

一方で電子データの証明にもNFTが使用される動きも出てきています。2021年8月に印章・スタンプ・文房具等を製造販売する企業であるシヤチハタが、ブロックチェーンやAI関連のコンサルを展開するケンタウロスワークス、早稲田リーガルコモンズ法律事務所とブロックチェーンを利用した電子印鑑システム「NFT印鑑」を共同開発することを発表したことも話題になりました。

NFT印鑑では、印影データをNFT化。印鑑保有者の情報と印影情報を結びつけた固有性を持つ電子印鑑を実現しました。押印された印影から押印者の証明をするのはもちろん、従来の電子印鑑が抱えていた印影の偽造リスクの問題をブロックチェーンの非改ざん性で解決します。ブロックチェーンの記録を確認することで、デジタル印影の所有者を容易に照合することができるようになります。

まだまだ広く浸透していないNFT印鑑ですが、今後さまざまな電子契約プラットフォーム間で利用できるよう拡張されることが期待されています。日本では紙文化をベースとした判子文化が根強く残っているだけに、印鑑を押すというアナログの感覚を残しつつも、NFT化による「代替不可能なデジタルデータ」としての証明を両立できるNFT印鑑のサービスが今後は世の中に浸透するかもしれません。

このNFT印鑑とタイムスタンプの決定的な違いは、NFT印鑑がブロックチェーンで記録される点です。「いつ、誰が、何に押印したのか」という証拠をNFTの技術で残せる点が明白な違いと言えるでしょう。

電子データの真贋証明もNFT化することも視野に入れるべき

NFT印鑑が電子取引においてなくてはならないサービスになるかは定かではありませんが、電子データの真贋証明にいずれはNFTの技術が活用される未来は容易に想像がつくでしょう。デジタル技術は常に発展し続けており、人々の暮らしを便利にしてくれる反面、情報漏洩や著作権、肖像権侵害などのリスクがつきまといます。そうした電子データを安心・安全に活用するためには、NFTを取り入れることが今後は必須となるかもしれません。

 

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