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出社回帰に伴い都心回帰も加速? “働く場所を選ばない時代”のオフィス立地の条件

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コロナ禍をきっかけに日本でも広く浸透した「リモートワーク」。もともと生産性向上を目指したワークスタイルであり、コロナ禍が収束した後は“出社せずに働く手段”として社会に完全に定着しました。そのため、リモートワークが令和の働き方のメインストリームになると予見していた方もいるでしょう。しかし、実態は“働き方の選択肢の1つ”となったに過ぎず、多くの企業が実際に主流として考えているのは「オフィスワーク」です。

コロナ禍が落ち着いてからは、各企業で出社回帰の傾向が強まっています。また、そうした“オフィス勤務主体の働き方”を後押しするかのように、東京を中心とした都市部では再開発の名の下に建設ラッシュが続いており、オフィスビルのテナントは増え続けている状況です。“どこでも働ける時代”だからこそ、“どこで働くか”という立地条件は以前よりも
重要視される傾向にあります。ビジネスパーソンの働く場所の選択基準はどう変化しているのでしょうか。オフィス立地の条件について考察します。


オフィスの都心回帰が加速。東京や首都圏のニーズが上昇


コロナ禍を契機に、日本社会全体で働き方の変化や生活意識の見直しが進みました。リモートワークの定着に伴い、ビジネスパーソンの地方移住や企業の所在地移転といった「脱・東京」「脱・首都圏」の流れが急速に拡大しました。しかし、そのトレンドは長く続かず、2020年代中盤の現在ではむしろ「出社回帰」「都心回帰」の傾向にあります。

Job総研「2025年 人口移動の実態調査」(https://jobsoken.jp/info/20250421/)より引用

パーソルキャリア株式会社が運営する調査機関『Job総研』が行った「2025年 人口移動に関する実態調査」によると、「もし今、仕事をする地域を選ぶなら」という問いに対して、「1都3県派」が70.2%を占めました。本調査では1都3県以外を地方と定義しており、都市部かそれ以外かという選択において、7割の人が1都3県を希望する現状が浮き彫りになっています。

オンラインで大半のことが完結するリモートワークを主体とするのであれば、オフィスの立地の重要性は自ずと下がります。しかし、7割のビジネスパーソンが都市部を希望する現状を踏まえると、大半の方が仕事において出社を意識していることの裏返しでもあるでしょう。コロナ禍をきっかけに、都市部への一極集中の流れに歯止めがかかったかのように見受けられましたが、実情としてはコロナ禍前の傾向に戻っている──つまり「都心回帰」しているのです。

都心回帰の傾向にあるビジネスパーソンたちが働くオフィスですが、特に東京では高い入居率を誇っています。オフィスビルや商業施設などの不動産市場に関する総合的な調査・分析・研究を行うシンクタンクであるザイマックス総研の「オフィス空室マンスリーレポート」によると、2025年12月の東京のオフィス空室率は1.55%でした。

ザイマックス総研「オフィス空室マンスリーレポート 東京 2025年12月」(https://soken.xymax.co.jp/report/upload/2601-office_monthly_report.pdf)より引用

日本の不動産業界では、オフィスについて「空室率5%が賃料反転の目安」とされています。そして、この目安を自然空室率と呼びます。5%を境に「空室率5%未満:オーナー優位(セラーズ・マーケット)」「空室率5%以上:テナント優位(バイヤーズ・マーケット)」と明確に線引きされています。ちなみに「5%」という数値は「暗黙知」であり、公的なエビデンスに基づくデータではありません。

そうした日本の不動産業界の暗黙知を踏まえると、東京のオフィス空室率が1.55%という数値は「空きが極めて少ないこと」が分かります。東京では渋谷を筆頭に再開発が進み、高輪ゲートウェイシティなど新規の高層ビルが次々と建てられる建設ラッシュ状態ですが、それでもオフィスの空きが手薄なのが現状です。都市部のオフィスビルの需要拡大と供給不足という実情が、企業においても都心回帰が起きていることの証左と言えるでしょう。


「二極化」していた東京のオフィス環境にさらなる変化が


東京のオフィス空室率が1.55%」という情報だけを判断材料にすると、「東京でテナントを探すのは難しい」と考えるかもしれません。しかし、活況を呈しているように見える東京のオフィスビルですが、実は人気のエリアとそうでないエリアでの二極化が進んでいました。

前出のザイマックス総研「オフィス空室マンスリーレポート 東京 2025年12月」によると、東京のビジネス地区である都心5区(千代田区・中央区・港区・新宿区・渋谷区)の平均空室率は1.18%。東京の全体の数値よりもさらに空室率が低いことが分かります。なかでも千代田区は、大手町・丸の内・有楽町エリアという日本随一のビジネス街を抱えていることもあり、0.68%ともっとも低い空室率でした。絶大な人気を誇る大手町・丸の内・有楽町エリアでは、空きテナントを探すのは至難の業と言えるでしょう。

一方、東京でも湾岸エリアにおいては空室率が高いエリアも存在します。法人向け不動産ビジネスの専門会社・三菱地所リアルエステートサービスの「2025年12月末 東京オフィスマーケット動向※」によると、豊洲・晴海エリアの潜在空室率(「現空床」に加えて、解約予告が出されている「退去予定床」を含めた合計の募集面積を基に算出)は5.93%。テナント優位のバイヤーズ・マーケットとなるので、東京の中では比較的、空きが多いエリアと言えるでしょう。

一見すると潜在空室率が1.11%の大手町・丸の内・有楽町エリアと比較して、5.93%の豊洲・晴海エリアには格差が生じているという印象を受けます。実際に2025年時点では二極化が盛んに叫ばれていました。しかし、豊洲・晴海エリアの5.93%という数字を紐解くと、2025年11月の7.54%から実に1.61ポイントも数値が下がっていることが分かります。さらに6%を下回るのは2020年9月以来、約5年3ヶ月ぶりの水準であり、空室状況は劇的に改善されていると言えるでしょう。

人気エリアとそうでないエリアで、二極化していた東京のオフィスビルの空き状況でしたが、空室率が高かった豊洲・晴海エリアでも急速な巻き返しが見られます。このことからも2026年以降は東京全域でオフィスビルの空きがより少なくなる状況も考えられるのです。

※三菱地所リアルエステートサービス「【2025年12月末時点】東京オフィスマーケット動向 空室率・平均募集賃料調査」
https://office.mecyes.co.jp/market/detail/128?utm_source=birurelease&utm_medium=pr&utm_campaign=202601

都市部のオフィスの飽和状態・通勤ラッシュの激化も


コロナ禍が過ぎ去って、日本の働き方も以前のオフィスワーク中心に戻りつつある昨今。在宅でも勤務が可能なリモートワークという手段があるにもかかわらず、都市部のオフィスに人が集中し、それに伴い通勤ラッシュによる満員電車の混乱が発生する状況には逆戻りすることが予想されます。むしろ、東京の今後のさらなる混雑ぶり、一極集中を考えると、コロナ禍以前よりも状況は激化する恐れすらあるのです。

こうした近未来の状況を踏まえて、労使ともに働き方についてより深く考えるべきタイミングが訪れているとも言えるでしょう。ビジネスパーソンからしてみたら、出社がメインの時代が再来したとしても、リモートワークを重宝する企業やハイブリッド型の臨機応変に選択できる企業を職選びの際に重視するのも1つの手です。

一方の企業側としては、自社のビジネススタイルに合わせて出社ベースにしたり、柔軟な働き方を実現できる座組みにしたり、出社回帰の流れに逆らって完全リモートにしたりするなど選択肢は多く存在します。働き方の多様性が求められる時代なだけに、オフィスがどこなのかは、企業ブランディングや事業戦略においてもより重要になってくることが予想されます。

オンライン技術が発展して、業種によっては“働く場所を選ばない時代”になってきているだけに、労使ともにオフィスの立地条件はより重要な選択となるでしょう。「出社が当たり前の時代」「出社を制限された時代」を経てきただけに、選択を自らできる時代にどんな答えを出すのか──それが働くオフィスの立地条件にも如実に表れてくることでしょう。

 

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