「代行サービス」という言葉を聞いた際にどんな内容を思い浮かべるでしょうか。飲みに出かけた際に利用する運転代行は、その代表例かもしれません。同様にBtoC領域において、家事代行や掃除代行、育児代行、送迎代行、介護代行など、その種類は非常に多岐にわたります。日常生活において手が足りないシーンにおいて、部分的な対応を業者に委託してサービスの対価を代金で支払うビジネスモデルです。近年では彼氏彼女代行、結婚式代行などユニークな切り口のサービスも存在します。
また、BtoB領域においても営業代行、経理代行、採用代行など、主にBPO(Business Process Outsourcing/ビジネスプロセスアウトソーシング)の一環として代行サービスを活用している企業も多いでしょう。そして、勤めている会社を辞める際に手続きを仲介してもらう退職代行は、良くも悪くも近年でもっとも大きな話題をさらっている代行サービスだと言えます。ではBtoB、BtoCの領域関係なく、プロに代行サービスを依頼するメリットはどんなところにあるのでしょうか。代行サービスの今を検証します。
転職者の6人に1人が利用!急増中の「退職代行」が話題に
2025年4月1日、新年度の始まりのタイミングでとあるニュースが話題になりました。それは、株式会社アルバトロスが展開する退職代行「モームリ」のX(※1)のセンセーショナルな投稿が発端でした。その内容とは、新年度初日の退職代行実績が計134名であり、そのうち2025年度新卒が5名だったというものです。退職代行の利用者の多さもさることながら、社会人初日となる4月1日に5名の新入社員が会社に対して「モームリ」と感じた事実は、現代社会が抱える雇用課題を如実に表していると言えるでしょう。
退職代行サービス利用の是非は、各方面で議論の的になっていますが、ニーズが拡大している事実は無視できません。実際に「モームリ」に代表される退職代行サービスは、認知度・利用者数ともに増加傾向にあります。ユーザーの日常・人生をサポートする総合情報サービス企業・株式会社マイナビでは、2024年10月に「退職代行サービスに関する調査レポート(企業・個人)(※2)」を発表。直近1年間に転職した個人にアンケートした結果、退職代行を利用した人の割合は16.6%にのぼることが分かりました。実に転職者の6人に1人が退職代行サービスを利用している計算になります。
マイナビの同調査では、企業向けに関しても退職代行利用者の実績を年度別に統計を取っており、2021年は16.3%、2022年は19.5%、2023年は19.9%、2024年の上半期は23.2%。右肩上がりで利用割合が増加しているのが現状です。そして、今後はその割合もさらに増えていくことが予想されるでしょう。こうした実情を踏まえると、もはや退職代行サービスは、良くも悪くも社会での市民権を得たと言っても過言ではありません。
退職代行サービスがここまで人気を博している要因としては、辞めたくても辞めづらい状況を代行という手段を講じることで打破できる点が挙げられるでしょう。どの職場でも人間関係の悪化やコミュニケーションエラーの発生は付き物なので、金輪際関わりたくないと思うくらいに現環境に嫌気が差した場合や引き留めなどの煩わしいコミュニケーションを回避したい場合などに、退職代行サービスが心のよりどころとなっている傾向にあります。第三者が事務作業的に、退職手続きを代行するというビジネスが成立する背景には、高度情報社会による歪みや雇用における新たな悩みの種が生じてきているとも捉えられるでしょう。
※1退職代行モームリ Xアカウント 2025年4月1日の投稿
https://x.com/momuri0201/status/1906999256902451386
※2 株式会社マイナビ「退職代行サービスに関する調査レポート(企業・個人)」
https://www.mynavi.jp/news/2024/10/post_45368.html
代行サービスはBtoC領域のみならず、BtoB領域でも加速
近年のトレンドとしては、退職代行が代行サービスの代表格となりつつありますが、もともとはBtoC領域においてビジネスモデルを確立していました。個人向けの代行サービスの特徴としては、個々での作業や業務が対応不可能なケースや手が空かない場合のヘルプとしての利用が主となります。運転代行は飲酒による法令順守をサポートすることが目的であり、家事代行、掃除代行、育児代行、送迎代行、介護代行などはスポットで助けがほしい猫の手を借りたい状態のユーザーにとって非常に心強いサービスとなっています。
また、BtoC領域においては、家庭環境や家事をサポートする代行サービスが多いですが、中には世間からの体裁を守ったり、見栄を張ったりするための活用を前提としているビジネスモデルがある点は非常に興味深いところです。たとえば、彼氏彼女代行や結婚式代行は、実際のパートナーや友人関係でない人にその役を演じてもらうという少し変わった依頼内容になります。個々のメンツを守ることを主軸としたビジネスモデルが成立する世の中であり、今後もBtoC領域ではまた斬新でユニークな代行サービスが生まれてくるかもしれません。
一方、BtoB領域においては、業務プロセスの一部または領域を代行という形でアウトソーシングすることで、部署や会社全体の業務効率化やメンバー負担の軽減などの効果が期待されます。SNS代行、営業代行、経理代行、採用代行などは、社内に既存の担当者がいる場合でも、プロに特定領域を外注することで新たなシナジーを生んだり、リソースの確保につながったりするなど多くのメリットをもたらすでしょう。BtoBにおいては、代行サービスというよりはBPOという言葉のほうがその有効性をイメージしやすいかもしれません。
特に専門領域の業務を特定の期間だけ、スポットで依頼したいというケースは今後も増えてくるでしょう。それは自社に専任の人材を抱えるよりも、必要なタイミングで代行サービスとしてBPOを活用するほうが企業としても経費削減につながる可能性もあります。それだけに、専門分野に特化した代行サービスであれば、今後のビジネスチャンスが一気に広がることも夢ではないでしょう。退職代行が現代にマッチしたサービスとなりつつあるだけに、今後もニーズとアイデアをもとに、これまでにはない代行サービスの登場を期待したいところです。
代行サービスは適材適所で効率的な業務の棲み分けに有効
幅広くその領域を広げている代行サービスですが、これからの時代でも支持され続けるためには、代行を対応する人材がその道のプロフェッショナルとして価値を発揮することが重要になるでしょう。BtoB、BtoC問わずこれだけ代行サービスが拡大しているだけに、対応品質が確実に肝になってきます。ある特定の領域の知見とノウハウがあれば、代行業務の参入障壁は決して高くないだけに、類似のサービスも今後増えることが想定されます。そのため、代行サービスにおいても常に精度の高い代行業務によるスペシャリティが提供されることは業界における大前提となるはずです。
また、代行サービスを利用する側も、「対応を外部に委託することでサボっている」のような変な先入観を持つ必要はないでしょう。DX推進がなされ、各業務プロセスがAIに代替できるようになってきた昨今だけに、代行先が人になるのかデジタルなのか、はたまたAIなのかは議論の対象にしても無駄かもしれません。むしろ、特にBtoBにおいては作業効率をいかにアップさせて、コア人材のリソースを確保して創造性の高い仕事に注力するうえでも、代行サービスを活用してBPOを積極的に推進していくべきでしょう。
何事も自分たちですべて完璧にこなせるとしたら、それはビジネスにおいても日常生活においても非常に価値が高いはずです。しかし、移り変わりが顕著な時代において、プロに代行するという選択肢が、各家庭や各企業の自由度をより高めることにつながる可能性があります。今後はさらに新しい代行サービスが生まれるかもしれないだけに、適材適所の人員の配置と効率的な業務の棲み分けをするうえでも、代行サービスを上手に活用することは、現代のトレンドに合った手法と言えるかもしれません。
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