業界リーダー達の情報サイト

不要論も囁かれる営業職の未来 セールステックなど技術革新の台頭は?

LINEで送る
Pocket

プロダクトが作られてからユーザーのもとに届くまでの一連の流れであるサプライチェーン視点でビジネスを捉えるうえで、営業職が非常に重要な役割を担っていることは明白です。“会社の顔”として最前線で顧客接点を創出し、ビジネスの起点となる役割は事業を営むうえで不可欠だと考えられてきました。「結果を出してなんぼ、売ってなんぼ」の世界であるため、数値目標などの成果面はシビアではあるものの、達成時のインセンティブなど待遇面の魅力も営業職が選ばれている理由の1つだと言えるでしょう。

しかし、AI活用がビジネスに大きな影響を与えている昨今、顧客とのタッチポイントにおける要の職種である営業職ですら不要論が囁かれるようになりました。実際にセールステックを筆頭に技術革新の台頭やセールスイネーブルメントの導入など、営業職界隈における既存の組織体制の見直しの動きが活発化しています。営業職に従事する人材の未来はどこに向かっていくのでしょうか。営業を取り巻く環境や時代のトレンドも踏まえたうえで、“会社の顔”がテクノロジー全盛時代をどう生き抜くべきなのかを考察します。


“会社の顔”である営業職の不要論が渦巻く背景とは

顧客との商談を通して契約締結を実現し、会社の売上や利益を確保する役割を担う営業職。ビジネスのきっかけづくりに欠かせない存在であり、LTV(Life Time Value/顧客生涯価値)を意識したリレーションシップの構築においても鍵を握るポジションです。しかし、顧客とのフロント業務を担う営業職の存在意義が近年、揺らぎ始めているという側面にも目を向ける必要があるでしょう。

総務省統計局が毎年リリースしている「労働力調査年報(※1)」によると、2023年の日本の営業職人口は約810万人であり、ピークだった2000年の約968万人から20数年のうちに158万人もセールスパーソンが減少しています。こうした社会的背景も踏まえ、「将来的に営業職自体がなくなるのでは?」という噂や不要論がまことしやかに囁かれるようになりました。

一方、内閣府が発表した「令和6年度 高齢社会白書(※2)」によると、2025年の日本の15~64歳の生産年齢人口は7,310万人になると推定されており、ピークだった1995年の8,716万人から1,406万人も減少見込みです。生産年齢人口全体が右肩下がりの状況だけに、営業職だけが危機に瀕していたり、縮小傾向にあったりするとは言い切れない面もあります。ではなぜ営業職が不要な職種として危惧されるのでしょうか。その背景には職種特有のワークスタイルと時代のトレンドの変化という主に2つの要因があります。

営業職を形容するうえで、“会社の顔”という表現がよく用いられます。また、“人売り営業”という人間力やパーソナリティを前面に打ち出したスタイルも営業職の働き方の特徴の1つです。そうした営業の仕方が主流だったのも、日本のビジネスシーンが元来、関係性やお付き合いなどの「ご贔屓」を重視した取引が重宝されていた面があります。もちろん、現在もそうした側面によってビジネスが成立することもありますが、情報収集の手段が多様化し、デジタルを活用して各企業への直接的なアプローチが容易になった時代だけに、既存の関係性にとらわれない効率や効果を重視した取引が増加傾向にあります。ビジネスにおいて人を介する必然性が、薄らいできていることが少なからず影響を与えていると言えるでしょう。

もう1つの要因である時代のトレンドの変化に関しては、コミュニケーションツールの台頭がビジネスの在り方に大きな変化をもたらしています。以前は営業経由でないとタッチポイントがなかった制作運用系の職種においても、オンラインMTGやチャットを活用することでリアルタイムに顧客とコミュニケーションを取ることが容易になりました。デジタル化によって運用担当の顧客接点の機会が増えることで、営業職を介さずにアップセルの実現がしやすくなったとも言えます。実際に顧客のデジタル担当として深く事業に入り込んだり、、SES(System Engineering Service/システムエンジニアリングサービス)のようにクライアント企業に常駐し現場で追加受注を獲得したりするビジネススタイルを主軸とする企業も増えてきています。

※1 総務省統計局「労働力調査年報」
https://www.stat.go.jp/data/roudou/
※2 内閣府「令和6年版 高齢社会白書」
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2024/zenbun/pdf/1s1s_01.pdf

セールステックの活用で実現する「科学的営業アプローチ」

“会社の顔”や“人売り営業”という言葉は、営業職の仕事に総合的な人間力が求められることの証左と言えます。しかし、それは同時に営業という職種の「属人性」を示した表現でもあり、人となりやパーソナリティによってやり方が左右されてしまうという、いわば非科学的な営業アプローチに終始する傾向にあります。実際に日本ではそうした人間力にフォーカスした営業スタイルが浸透していることもあり、近年注目されているセールステックの活用などによる科学的な営業アプローチにおいては、他国に後れを取っているのは事実でしょう。

そもそもセールステック(Sales Tech)とは、Sales(営業)とTechnology(技術)を組み合わせた造語です。SFA(Sales Force Automation/営業支援システム)、CRM(Customer Relationship Management/顧客関係管理)、MA(マーケティングオートメーション/Marketing Automation)などの業務効率化・自動化ツールがセールステックの代表格と言えるでしょう。日本でもDX推進という言葉が浸透して以降は、業種問わずさまざまな会社でセールステックの導入や活用が進んでいます。

実際にセールステックを活用することで、顧客データや数値に基づく成果分析はもちろん、良し悪しを問わず施策の結果を蓄積できるため、今後のマーケティング戦略における貴重な指標にもなり得ます。また、ツールの活用法が分かっていれば、そこで得られるデータやノウハウを社内メンバーと共有することも容易です。一方で、属人化した営業スタイルは、その営業パーソン単体で考えると独自性とパーソナリティを備えた強みと言えますが、組織全体への還元という面ではノウハウがクローズドされているもったいない状況とも捉えられるでしょう。セールステックは、そうした営業ノウハウの属人化を防ぐ役割も果たします。

また、セールステックによってプッシュ型のアウトバウンド営業一辺倒だった会社でも、プル型のインバウンド営業への移行の実現性も高まります。テレアポや訪問営業に代表されるような営業パーソンのガッツや根性論をベースとした押し売りをせずとも、問い合わせフォームからの引き合いをチャットボットなどのAIを活用した自動化されたガイダンスにすることで、最小限の労力でリードや顧客の獲得が期待できるでしょう。もちろん、テクノロジー全盛の時代だからといって人間性が必要なくなったわけでは断じてありません。しかし、マンパワーで乗り切る非科学的な営業アプローチをせざるを得ない場面が、時代背景的に少なくなったことは間違いないでしょう。


業界や業種を問わず求められる「セールスイネーブルメント」の導入

時代に合わせた営業アプローチを実現するうえでは、セールステックの各種便利なツールを活用しない手はないでしょう。しかし、単にセールステックを導入するだけでは、令和時代のスマートな営業ノウハウの構築は難しいかもしれません。なぜなら、技術革新を司るのはやはり人間であり、ツールだけに頼った改革では、成功の確度は高くないからです。CRMやSFAなどのセールステックを活用しつつ、社内営業人材というリソースを有効活用するには、業界や業種を問わず「セールスイネーブルメント」の導入をおすすめします。

セールスイネーブルメント(Sales Enablement)とは、営業成果を最大化するためのアプローチであり、営業組織の生産性や効果を高める取り組みです。基本理念としては、「プロセス構築」「人材育成」「ITツール活用」の3軸であり、再現性の高い営業プロセスを構築し、営業パーソンの成長を促し、セールステックなどのITツールを活用するという複合的な営業力アップのための施策と言えます。営業職における個々の営業力がものを言う時代はもう過去のものであり、これからは売れる営業組織をどう構築するかを会社規模で模索、計画することが重要になってくるでしょう。

CRM搭載のカスタマープラットフォームを提供するHubSpot Japan株式会社が行った「日本の営業に関する意識・実態調査2025 ※3」によると、20代の約7割が営業職を選んだ理由として転職や起業の足がかりとしている考えを持っているという調査結果が出ました。一方で、30代以上は半数以上が “営業を極める” 姿勢で営業職のキャリアをスタートしているなど、若者層になるほど営業職への意識も変化していることが分かります。


HubSpot「日本の営業に関する意識・実態調査2025」より引用

地べたを這いつくばり、汗水たらして駆けずり回るスタイルの営業が大きな成果を上げてきたことは、過去の歴史が証明していますが、営業アプローチに関する時代の変遷は無視すべき内容ではありません。属人化や個への依存度が高い営業職だからこそ、科学的なアプローチや組織的な改革に着手することが、営業戦略において劇的な進化を遂げるきっかけになるかもしれません。旧態依然の営業スタイルからの脱却ができていない会社こそ、今からでも遅くないので、セールステックのサービスやセールスイネーブルメントの概念をまずは知ることから始めてみましょう。

※3 HubSpot「日本の営業に関する意識・実態調査2025」
https://www.hubspot.com/hubfs/Press%20Release_HubSpot_20250218_State_of_Sales.pdf

【関連記事】

テクノロジーによる人間拡張の可能性 人類が手にするIoAを活用した超知性
AIの次はOIがバイオコンピューターを実現? オルガノイドインテリジェンスとは