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人間の体内にマイクロチップ? 身1つで電子決済ができる時代が到来

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20世紀末や21世紀の初頭において、人体にマイクロチップを埋め込むことで生体認証したり、ネットワークとつながりIoT的な役割を担ったりするテクノロジーは、SFの世界に限定されていました。映画『トータル・リコール』(1990)、『マイノリティ・リポート』(2002)などでの体内マイクロチップの活用における世界観は、まさに近未来の話として描かれていました。しかし、2020年代に突入すると、体内マイクロチップは、もはや単なるテクノロジーではなく、“ビジネスチャンス”として捉えられ始めています。

初めて人体にマイクロチップが埋め込まれたのは1998年のこと。イギリスの研究者であるケビン・ワーウィック氏が自らの腕にRFIDチップを植え込み、“人類初のサイボーグ”となったことは大きな話題を呼びました。その日から25年以上の時を経て、人類がサイボーグ化することが珍しくなりつつあります。近年の技術革新や商用化の進展には目を見張るものがあるだけに、今後はさらに一般にも導入が広まることが予想されます。身の回りで「人体マイクロチップを入れた!」という人が増えるのも、そう遠くない未来かもしれません。

世界的に導入が加速している体内マイクロチップ

体内にマイクロチップを埋め込む最大のメリットは、デジタルデータの認証が容易になることで現金やクレジットカード、家や車の鍵といった物理的なデバイスを持ち歩く必要がなくなる点です。また、購入履歴に基づく新商品のレコメンドや、健康状態やカルテ情報の共有など個々に最適化されたサービスの提供の可能性を広げます。体内マイクロチップによって、手をかざすだけで電子決済ができ、パーソナライズされたサービスを受けられるようになります。

体内マイクロチップは主にヨーロッパ圏での導入が顕著ですが、中でも普及が盛んなのがスウェーデンです。AFP通信によると、スウェーデンではすでに2018年時点で約3,000人が体内にマイクロチップを埋め込んでいると報道されています。デジタルデータが保存されたマイクロチップが生体認証や電子決済を代用してくれることで、彼らの日常生活が大きく変化したのは言うまでもありません。特にスウェーデン国有鉄道会社SJが導入したシステムでは、体内チップを使った電車チケットの予約や確認が可能となり、多くの市民がこの便利なシステムを利用しています。

スウェーデンで体内マイクロチップの普及が進んだ理由として、個人情報の共有に抵抗が少ない国民性が第一に挙げられるでしょう。スウェーデンでは、1947年にはマイナンバーの前身にあたる制度が導入されており、現在は政府機関によって、氏名を入力するだけでその人の個人情報が見られるWebサイトが運用されています。

スウェーデン在住者であれば誰でも、氏名や住所、電話番号から家族構成や給与まで、多岐にわたる個人情報が掲載されたサイトを閲覧可能です。体内にマイクロチップを埋め込むリスクとしてプライバシーの侵害が伴いますが、スウェーデン人にとってはそのリスクより利便性や効率性を追求する姿勢のほうが優勢であることが伺えます。

同じヨーロッパ内では、ドイツでの体内マイクロチップの普及が顕著です。ドイツのIT業界団体BITKOMが2010年に国内の約1,000人を対象に行った調査によると、約4人に1人が「なんらかの効果が確実に期待できるなら」としたうえで体内にマイクロチップを導入することを「構わない」と答えたという統計が出ています。一方で「どうしても体内に電子装置を埋め込むことは嫌だ」との回答が72%あった事実も無視すべきではないでしょう。マイクロチップ先進国においても、賛否両論が分かれるのは当然のことでしょう。

ドイツの体内チップ利用を普及させているのは、地元のスタートアップであるI am Robotです。創業者のスベン・ベイカー氏は、同社が起業した2015年以来、ドイツではすでに2,000〜3,000人の人々がマイクロチップを埋め込んだと推計しています。

アメリカでも、ウィスコンシン州のソフトウェア会社Three Square Market(32M)が2017年より従業員にマイクロチップの埋め込みを推奨し、多くの従業員がこれを受け入れています。チップは社内のスナック自動販売機での買い物やドアの開閉、パソコンのログインなどに利用されています。体内チップとリーダー間の通信は暗号化されており、GPSには対応していません。つまり、位置情報の追跡はできないため、従業員の心理的安全性が保たれていると言えます。32Mはこの実績を活かし、今後マイクロチップ事業を展開する見込みです。

日本における体内マイクロチップの導入状況

日本では、2024年現在、およそ300人が人体マイクロチップを埋め込んでいると推定されます。そのうちの1人に、人体マイクロチップの国内スタートアップ・Quwakの合田瞳CEOが挙げられます。同CEOは、自身の18歳の成人を待って、2020年に両手にマイクロチップを埋め込みました。

合田氏が人体マイクロチップに興味を抱いたきっかけは「喉の持病」で、病院や担当医師が変わるたび、持病について一から伝えなければならない煩わしさから、ブロックチェーン(分散型台帳)技術がカルテ情報と相性が良いことに着目し、今日の創業に結びついた経緯があります。現在Quwakでは、アイデンティティ認証プラットフォーム「Quwak Me」の開発を進め、ユーザー100万人を目指して登録受付を開始しています。

人体におけるマイクロチップの普及は一般的とは程遠い状況ですが、国内での犬や猫などのペットへのマイクロチップ装着はすでに義務化が始まりました。2022年6月に施行された改正動物愛護管理法により、ブリーダーやペットショップは、販売する犬・猫へのマイクロチップの埋め込みが必須となりました。ペット用マイクロチップは飼い主の情報と紐づいており、ペットが迷子になった際の飼い主特定にはもちろん、無責任な遺棄や盗難防止にも役立っています。

このマイクロチップは、専用のリーダーが発する電波によって給電するため、動作は半永久的です。また、データベース上の個人情報にアクセスできるのは警察または自治体のみにすることで、セキュリティが確保されています。

「手の水かき」がマイクロチップの埋め込み先?


世界で導入が進む体内マイクロチップですが、購入ならびに装着方法は驚くほど簡単です。たとえば、ドイツのスタートアップ、I am Robotのマイクロチップは、同社のWebサイトから60~80ユーロほどで購入できます。チップは提携施設で埋め込んでもらえるほか、専用の注射器を使ってセルフで埋め込むことも可能です。痛みの感じ方は人によって異なるため一概には言えませんが、2019年に埋め込み手術を受けたオランダのパウメンさんは「手術は、皮膚をつねられるくらいの痛さだった」と話しています。

体内チップは、手の甲の親指と人差し指の間の水かき部分に埋め込むのが一般的です。手首や腕など埋め込みが可能な部位はほかにもありますが、手にチップを埋め込めば、手のひらをリーダーにかざすだけでさまざまな恩恵が受けられるようになります。

体内マイクロチップは爪よりも小さく、体内に埋め込んだ後は存在に気づかない程度の物が大半です。MRIをはじめとする医療行為にも影響しません。また、埋め込み後の除去手術が可能であることも、装着のハードルを下げている要因の1つと言えます。ただし、リーダーをかざすと光るタイプのマイクロチップもあり、好みは分かれるところでしょう。

“サイボーグ化”の技術的課題と倫理的問題

現代の技術的には、マイクロチップが有する機能はまだ限られていますが、今後の技術進歩によってさらなる多機能化が期待されています。たとえば、体温を動力源とするマイクロチップやGPS機能、音声認識機能を搭載したチップの開発が進んでいます。


一方で、日本国内で体内マイクロチップを活用できる機会は、まだ決して多くはありません。また、人間の体内にチップを埋め込むことには、プライバシーやセキュリティの問題も伴います。データの漏洩や不正アクセスのリスクはもちろんのこと、個人の自由やプライバシーの侵害など、多くの倫理的問題も考えなければなりません。

実際に体内マイクロチップの普及が進むスウェーデンでも、1991年から2008年までに7万件以上の個人番号の変更があり、その原因の多くがデータベースの紐づけミスとされています。中には、他人の情報が誤って登録されていたヒューマンエラーもあり、これにはスウェーデン国内でも批判が相次ぎました。これらの問題を解決するためには、技術の進歩だけでなく、社会全体での議論と合意といった倫理的側面における共通認識が必要です。

人間の体内にマイクロチップを埋め込む技術は、多くのメリットとともに、新たな課題や倫理的問題を提起しています。しかし、適切な対策と規制を設けさえすれば、マイクロチップの利便性を最大限に引き出しつつ、プライバシーやセキュリティのリスクは最小限に抑えられるでしょう。体内マイクロチップは、私たちの日常生活をより便利で効率的なものにし、DXや既存のビジネスをさらに推進する可能性を、その小さな結晶に秘めています。

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