2023年10月から国内で複数税率対応の仕入税額控除の方式である「インボイス制度」が開始されます。日本では2019年10月の消費税率引き上げと軽減税率の導入以降、商品による消費税の違い(8%と10%)に対して税率ごとの区分経理が必要であり、入税額控除の計算が複雑化していた背景がありました。それに対して、商品ごとに適用税率が明確な適格請求書(インボイス)での提出・保管によって、仕入税額控除の仕組化や透明性の実現が制度導入の狙いです。
2023年は電子インボイス元年?国際規格「Peppol(ペポル)」準拠で請求書のデジタル化を推進の記事でも紹介したように、日本国内における電子インボイスの標準仕様は国際規格「Peppol」に準拠して策定されています。それが日本のPeppol管理局(Japan Peppol Authority)を担うデジタル庁が公表した「JP PINT」です。JP PINTにはどんな特徴があるのでしょうか。インボイス制度開始前に知っておきたい基本を紹介します。
「JP PINT」の基本をインボイス制度開始前に整理
電子インボイスにおける日本版Peppolと呼ばれる「JP PINT」ですが、インボイス制度開始前段階での国民の認知度は決して高くありません。そのため、仕組みを理解して来るインボイス制度の開始に備えることが大切です。
Peppolは、それぞれの国の制度を踏まえて独自のカスタマイズが実装されています。それは各国の法令や商習慣にアジャストさせることが目的です。一方で電子インボイスにおける国際規格としての互換性を持たせることも重要なため、「PINT(Peppol International)」という国際的な仕様を制定しました。JP PINTの語源はここから来ており、「国際的な仕様に準拠したうえでの日本独自のシステム」であることがネーミングの意図に表れています。
当初、国内における電子インボイスの標準仕様の確立と普及は、デジタルインボイス推進協議会「EIPA(E-Invoice Promotion Association)」を中心に進められてきました。しかし、国内の企業間商取引のDX推進を加速させるために、日本のデジタル社会形成の司令塔的な役割を担うデジタル庁が参画。2021年9月に「OpenPeppol」というPeppolを管理する国際的な非営利組織の正式メンバーとなり、日本のPeppol管理局(Japan Peppol Authority)を担うようになりました。
デジタル庁では、国を挙げた政策として官民連携のもとでJP PINTの普及・定着をバックアップすることで企業間商取引の活性化を促進し、各企業のバックオフィス業務のDX推進よる効率化を図っています。日本では長らく請求書や領収書、納品書などの処理を紙で対応してきた歴史があります。浸透した紙文化を打破して時代に合ったイノベーションを起こすうえでも、インボイス制度開始に向けたJP PINTの整備は急務でしょう。
デジタル庁は2022年10月28日、「適格請求書」対応の「Peppol BIS Standard Invoice JP PINT Version 1.0」を公表。また、同年の12月2日に「仕入明細書」対応の「JP BIS Self-Billing Invoice」、2023年5月19日には「区分記載請求書」対応の「BIS Invoice for Non-tax Registered Businesses」のドラフト版を公表しています。2023年10月からのインボイス制度開始に向けた動きを強化しています。
JP PINTに関わる各ステークホルダーの役割と利点
JP PINTの活用によって官民連携(Public Private Partnership/PPP)で国内のDX推進を加速度的に高めたいところではありますが、2023年10月を契機にどんな変化が起こると考えられるのでしょうか。デジタル庁を中心とした日本政府・官公庁、JP PINT関連のサービスを扱うベンダー企業、JP PINTを活用するユーザー企業の大きく3つに分類し、各ステークホルダーの役割と利点を紹介します。
▼その1:デジタル庁を中心とした日本政府・官公庁
日本のPeppol管理局を担うデジタル庁を中心とした日本政府・官公庁の役割としては、JP PINTの管理・運用によって胴元になることが挙げられます。世の中にJP PINTの存在を周知し、プロモーションによって市場活性化に結びつけることが求められます。また、JP PINTの浸透により市場でのDX推進がより加速することで、日本政府・官公庁の税収増につながることが主な利点です。海外企業ともデジタルの商取引では距離的な障壁を感じにくく、よりグローバルな企業活動のサポートにもつながります。
▼その2:JP PINT関連のサービスを提供するベンダー企業
サービスベンダー・システムベンダーなどのJP PINT関連のサービスを扱うベンダー企業にとっては、グローバル市場での顧客獲得のチャンスになります。JP PINTに対応したサービスによってインフラを構築できれば、多くの企業のDX推進の手助けになるのはもちろん、自社の収益増も期待できます。商取引によるフォーマットの共通化やルール化によって、取引の活性化はもちろん、新たなシナジーが生まれることで新規ビジネス創出の可能性も高まるでしょう。
▼その3:JP PINT関連のサービス活用するユーザー企業
JP PINTに準拠したサービスを利用するユーザー企業としては、2023年10月からのインボイス制度開始はもちろん、時流に沿った形で必要なサービスを導入することが主な役割です。サービスを利用するメリットとしては業務効率化、リモートワークなど多様な働き方の実現にもつながります。相互流通可能なペーパーレスなネットワークサービスを導入することで、電子取引の幅が広がります。従来までの紙ベースでのバックオフィス業務を効率化できるうえに、ハンコや紙処理のための出社をしなくて済むのが利点です。
JP PINTの活用や電子インボイスの提供・受領は「義務ではない」
2023年は電子インボイス元年として、日本の商取引における大きな変革期となることは間違いないでしょう。そして、電子インボイスを筆頭とした国内のDX推進において大きな役割を担うのがJP PINTです。しかし、注意すべきことがあります。それはJP PINT がPeppolネットワークでやり取りするうえでの国内の電子インボイスの標準仕様ではあるものの、利用が義務ではないことです。また、同様に電子インボイスの提供・受領も義務ではありません。
管理、押印、封入、郵送といった従来までの紙を中心としたバックオフィス業務は非効率な面があり、JP PINTに準拠したサービスを利用してDX推進を行えば格段に業務効率化は進むでしょう。しかし、主にサービスを活用するユーザー企業の場合はJP PINTに準拠することが必須ではないだけに、2023年10月を前に急な変革を求める必要はないのです。時代の流れに合わせて徐々に自社の取り組みをシフトできるように社内外の体制整備を先決すべきでしょう。
JP PINTにいち早く対応すべきなのは、EDIネットワークのサービスベンダーやSaaSのシステムベンダーなど関連サービスを提供するベンダー企業になります。サービスやシステムを利用する一般のユーザー企業であれば、どのベンダー企業が自社とマッチするのか、電子インボイスが始まってからも混乱なくアジャストできるのかという側面で考えればいいので、制度開始のタイミングを必要以上に焦ることはありません。
DX推進はデジタル庁を筆頭に日本政府も力を入れて取り組むビッグプロジェクトではあります。もちろん、電子インボイスやJP PINTについて正しい知識を持ち合わせることは重要であり、変動が多い不確実な時代において継続して学びを得ることが求められます。
しかし、それらの対応は決して義務ではなく、自社で働くスタッフの意識を少しずつ変革の歩みを進めることが大切です。日本版PeppolとしてJP PINTが徐々に話題になり始めているのは、日本全体のDX推進を考えるうえでは非常に良い傾向ですが、自社に適したDX推進を真剣に考えることが変革の時に向けて踏み出すための第一歩となるでしょう。
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