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残業時間を減らす方法は?ポイントは「時間以外」に注目すること!

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大手企業における問題をきっかけに、今「残業」が改めて社会問題として注目されています。人手不足により仕方なく残業が常態化してしまっている業種や企業も多いと言われている中、労働者の精神や健康被害を脅かす過度な残業に対し、社会の目も厳しくなっています。

こうした中、多くの企業が強制退社時刻を設定したり、残業可能な条件を厳しく規定するなどの施策を実施していますが、以下のようなユニークな方法で従業員に早期帰宅を促すような事例もあります。

社員に早期帰宅を促すユニークな事例と対策

・大手人材斡旋企業のケース:時間外労働時間の張り出し
集計された残業時間を会社に貼り出し、誰がどのくらい残業しているのかを全社員が確認できるようにしている。「残業=恥ずかしいこと」と認識させ、気持ちの面から社員の定時退社を促進する狙いがあるようです。

・大手インターネット企業のケース:退社時間の宣言
毎朝オフィスに設置されたホワイトボードに、社員が一人一人その日退社する予定時刻を宣言する。その日に退社する時間を自ら宣言することで、その時間を守ろうという気持ちが各個人に生まれるようになり、希望退社時間までに業務を終えるよう集中力をもって仕事をするようになるようです。

・大手商社のケース:朝方勤務へのシフト
20時以降の勤務を原則禁止とし、逆に早朝に勤務した場合は割増し賃金を支給する。また、早朝勤務をした社員に対しては軽食を支給することで、残業を減らすことを期待した施策です。

このように「強制」ではなく社員が率先して早く帰るように「促す」取り組みが実践されており効果も出ているようですが、これらの早期帰宅のための施策には疑問の声も挙げられています。「時間の短縮」という会社の意向は強く打ち出してはいるものの、社員の仕事の効率を実質的に上げるための援助は何もしていない、という点です。

社員の立場から見ると「早く帰るように」と会社から要求されているものの、仕事を早く終わらせるための武器は何も提供されないため、結局仕事が時間内に終わらず退社後に別の場所で仕事をしたり、隠れて残業をするという新たな課題を生み出しています。また、報酬等でモチベーションを上げる施策は、実施当初は意味があっても持続的な効果を上げるための施策としては不十分だと言われています。

残業時間を本質的に削減するには、時間短縮を社員に要求する・促すといった表層的な施策ではなく、残業の根本原因を解決する手段を企業や管理者側が提供することが求められているのです。

残業の「原因」を解消する施策

では残業の原因となるものは何でしょうか。

社員が効率的に働いていて、残業代が目当ての「生活残業」がないという前提では、仕事量が社員の仕事処理能力を超えている、ということが原因として考えられます。そこで、仕事量の適正化や社員が生産性を上げられるような施策を3つご紹介したいと思います。

1.仕事量の適正化

社員が業務時間内で処理できる仕事量を越えれば残業が必要になりますので、仕事量を処理能力に合わせることが理想です。とは言え、オフィスワークでは仕事量と処理能力を定量的に比較することが困難な場合が多いでしょう。

そのような場合、「タスクボード」と呼ばれる手法によって、大まかに仕事量と処理能力のバランスを視覚化することが可能です。

タスクボードは、仕事をそれ以上細かくできない、または細かくする意味がない「タスク」のレベルまで細分化し、そのタスクを付箋紙などに記載しホワイトボードなどにToDo(未着手)、Doing(着手中)、Done(完了)という3つのステータスに分類して貼って管理する手法です。

ToDoだったタスクに着手したらDoingに移動させ、タスクが完了すればDoneにする。このようにタスクを管理することで、ToDoやDoingばかりが増えていくようであれば、仕事量が処理能力を上回っていると捉えることが出来るでしょう。こうした手法を使うことで仕事量と処理能力の相対的なバランスを視覚化することが出来るため、そのバランスを取るために管理者がタスクを他の社員に割りあてたり、タスクを後回しにしたり、必要な策を講じることが可能となります。

このタスクボードを付箋紙とホワイドボードで行っても良いでしょうし、最近ではTrello(https://trello.com/)などの無料で使えるツールもありますので、それらを使うことも良いかも知れません。

2.仕事に関連する負荷の軽減

仕事量を直接調整する以外に、社員の負荷を軽減することで生産性を高めるという方法もあります。たとえば多くの社員の負担となっている「通勤の負担」です。

アットホーム株式会社が2014年7月15日に発表した、『「通勤」の実態調査2014』によると、東京都の平均の通勤時間は1時間程度という調査結果があります。これを社員が業務ではないことに毎日2時間のエネルギーを使っているという見方をすると、この負荷を少しでも解消することで仕事の生産性を上げることができる、と考えることができます。実際、在宅勤務によって生産性が向上されたことを検証した論文も出されています。

(参考:トレードシフトブログ https://jblog.tradeshift.com/20170427-01/

在宅勤務のメリットは通勤時間のカットだけではありません。男女共同参画白書(平成28年度版)によると、日本の女性は出産を機に約6割が退職するという調査結果があります。「保育園が見つからない」「やはり子供のそばにいたい」など、働く意思もスキルもある人がやむを得ず退職をしてしまうことが発生しているのです。

在宅勤務が導入されれば、子供の心配によって仕事の生産性が落ちることもなくなり、それまで退職していた女性も働き続けることが可能となります。結果として生産性が向上するとともに労働力が増えるため、企業全体で見ると残業の削減効果が期待できます。

3.仕事の自動化

仕事を適正に分配し、社員の生産性を上げたとしても、仕事量に追いつかない場合もあるでしょう。その場合には人材の採用を検討することが必要かもしれませんが、近年ではRPA(Robotic Process Automation:ロボットによる業務の自動化)による仕事の自動化が注目されています。

昔から製造業では生産ラインにおける「肉体労働」をロボットに置き換え生産性向上を行ってきましたが、RPAはホワイトカラーの「頭脳労働」をロボットが代行するもので、特にバックオフィス系の仕事における適用例が増えています。バックオフィス系業務は反復作業や定型業務が多いため、自動化しやすいという特徴があります。RPAによって仕事の一部をロボットが行い、社員が行う仕事量を減らしつつ、ミスや処理時間も削減することで残業を削減するという考え方です。

残業時間の根本的解決策は「時間削減」にあらず

ご紹介した3つの施策は、残業規定の強化や冒頭に挙げた3つの事例とは異なり、「時間の短縮」にフォーカスした取り組みではなく、仕事量を適正化し生産性を上げた結果として、総労働時間の短縮と残業の削減を実現するものです。こうした方策を企業側が積極的に取り入れることで、社員に時間短縮を指示するだけでなく、社員が「時間短縮できる仕組み」を提供することになるため、より健全な方法で労働時間が削減できる可能性があります。

ご紹介した在宅勤務やRPAは、モバイル端末やクラウドサービスの普及、AI技術の実用化が進んだ今、以前よりも導入がしやすくなっており、世界中の企業が導入を検討しています。本来は残業時間の短縮ではなく、仕事の効率化やライフワークバランスなどの考え方から注目を集めている施策のため、本記事が焦点をあてた残業時間の削減以外の効果も期待できます。それらについてはまた他の記事にてご紹介したいと思います。