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「請求書の原本を郵送」は必要なのか

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請求書をPDFなどのデータで送付したにもかかわらず、印鑑を押した紙の原本の郵送も依頼されるのは日本企業ではよくある風景です。もはや当然の業務として対処し、疑問視する方は少ないと思います。しかしデータで同じ内容を送付しているのであれば、紙を原本として郵送する必要はあるのでしょうか。今やバックオフィス業務にコンピュータは欠かせないものとなっており、実務上は電子でのやり取りで完結出来るはずです。今回は、手間をかけてわざわざ紙を郵送する、この業務の必要性について考えてみます。

“紙ベース”での管理は過去の話

まず結論から述べると、請求書の原本郵送は不要です。この根拠については後述しますが、送付側・受領側双方が合意していれば紙を送付しなくても法律上問題はありません。

ではなぜ日本の多くの企業は依然として“紙”でのやり取りを求めているのでしょうか?

その理由は税法が定める文書の保存方法に関する認識にあるのではないでしょうか。

確かに、現在でも請求書をはじめとする特定の書類・文書は原則として紙で保存することが税法や商法で義務付けられています。そのため、取引先から受領した文書をそのまま保存できる紙の郵送を依頼する企業が多いのです。

一方で、企業のIT化が進み従来の紙中心の業務から電子的に業務を行うようになったことを受け、この紙での保存要件の例外として1998年に「電子帳簿保存法」が施行されました。これにより、”最初から電子的に作成された”文書は電子保存が認められるようになりましたが、手書きで作成された文書や、原本を紙で受領した文書についてはそのまま紙で保存する必要がありました。

その後、2005年4月に施行された「e文書法」により、それまで紙で保存する必要があった文書についても、電子化された文書ファイルでの保存が認められるようになりました。紙文書をスキャナで電子データし、ハードディスクやCD、DVDなどの記録メディアに保存できるようになったのです。
さらに2015年、2016年の税制改正によりスキャナ保存の要件が緩和され、文書の電子保存は企業にとってより取り組みやすいものとなりました。

しかし、文書をスキャナ保存するためには税務署長への事前届出や細かいスキャナ保存要件を満たす必要があり、なかなか進んでいないのが現状です。

保存だけでなく取引も変革する電子取引

実はより簡単に、税務署への申請も必要なく文書を電子保存する方法があります。それは、電子帳簿保存法第10条に規定されている「電子取引」です。「電子取引」は、従来から存在する EDI 取引やインターネットを介した取引、電子メールにより取引情報を授受する方法などを指し、前述の”最初から電子的に作成された”文書であり、かつ電子的に授受した文書を指します。

この「電子取引」ではデータとして7年(欠損金繰越控除をする法人は、最長で10年)の保存が義務付けられており、納税地での見読性・検索等保存要件が満たされていれば、サーバがある保存場所自体は遠隔地であっても利用することが可能であり、税務署長の許可も必要ありません。

この電子取引とスキャナ保存に別の文書保管ルールが存在することは、あまり多くの人に知られていませんが、携帯電話の請求書をWebサイトで配布する企業や、ECサイトでの買い物の請求書を同じサイトからダウンロードできる企業など、少しずつ電子取引は普及しています。

海外ではマニュアル処理の削減や取引のスピードアップを実現できる電子取引がB2B取引においても主流になりつつあります。デンマーク政府のように、電子請求を義務化し紙の請求書を一切受領しない公的機関も増えています。

既存のやり方にとらわれずルールの見直しを

電子取引では紙を必要としないため、印刷や郵送は不要となり、データが直接送受信されるため、照合作業なども自動化することが可能となります。また、送る側だけでなく受け取る側もシステムへの転記作業がなくなるため、自社と取引先の両方でメリットを享受できます。さらに紙がオフィスに送られてくることもないので、オフィスに行かなくても働くことができる、テレワーク環境を実現する基盤ともなります。

前述のとおり、請求書の原本を“紙で郵送”する法的根拠はありませんので、今の業務で原本を郵送しているとすれば、それは既存のやり方を踏襲しているだけなのかもしれません。「働き方改革」や「文書の電子化」が関心を集める今、少し視点を変えて紙をベースとした業務を見直してみてはいかがでしょうか。

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