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2026年の消費トレンド『メンパ』とは コスパ・タイパに次ぐ流行の背景とビジネスでの活用

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費用対効果を表現する指標である「コストパフォーマンス(Cost Performance)」が『コスパ』という呼称で世間に定着し始めたのは、2000年代に入ってからのことです。そして、時間対効果を表す「タイムパフォーマンス(Time Performance)」が『タイパ』の表現で急速に普及。出版社・三省堂が発表した「今年の新語2022」で大賞に輝くなど、2020年代前半に世間一般に浸透しました。

その後、コスパ、タイパに次ぐ物事のパフォーマンスを測る指標として、危機管理の観点で「リスクパフォーマンス(Risk Performance)」の略語で『リスパ』、空間効率の観点で「スペースパフォーマンス(Space Performance)」から『スペパ』など新しい呼称がいくつも生まれました。

そして、2026年現在で注目されているのが、「メンタルパフォーマンス(Mental Performance)」の略称である『メンパ』です。なぜこの“パフォーマンスシリーズ”において、注目されているのが『メンパ』なのでしょうか。その理由とビジネスシーンでの落とし込みについて考察します。


注目度が高まる『メンパ』とはーー裏側に「AI疲れ・SNS依存」も


日本経済新聞社グループで、専門雑誌・WEBメディアを中心にビジネスパーソン向けの情報発信をする日経BPは、2025年11月に2026年を占う「日経BP 10大徹底予測」を初公表しました。その中で、キーワードの1つとして挙げられたのが『メンパ』です。「メンタルパフォーマンス」と聞いて多くの人は、アスリートのような強靭なメンタルを思い描くかもしれません。しかし、この『メンパ』は単にメンタルが強いか、弱いか、あるいは良い状態か、悪い状態かの指標ではないことがポイントです。

日経BPが着目した『メンパ』とは、何かと心を病めることが多い現代人の心理的負荷を下げ、心の負担(感情コスト)を減らすことを最優先する消費スタイルや考え方を指します。ではなぜ現代人は、心の疲れや心理的安定性に対して強い関心を抱かざるを得ないのでしょうか。それはテクノロジーが発展した現代は、「超高度情報社会(Society 5.0)」の入口に一歩足を踏み入れているからです。言い換えるなら、情報過多の環境下で選択や判断に迫られるシーンが極端に増えているからだと言えるでしょう。

ピップ株式会社『「生成AI」に関する調査』(https://www.pipjapan.co.jp/data/167b24fcf891b20dd41ac58a014bbda317facb2a.pdf)より引用

健康・衛生用品メーカーのピップ株式会社は、15歳〜39歳の男女1,000名を対象に実施した「生成AI」に関する調査によると、生成AIの普及前と比較してPCやスマートフォンの利用時間が増えたと感じている人は6割を超えています。

生成AIは文章作成や情報収集、アイデア出し、相談などさまざまな用途で、作業や判断の効率化をサポートしてくれます。一方で、便利な生成AIを使う頻度が増えることで、より長くデバイスと向き合うことになっている――言い換えると、より選択と判断の機会・時間が増えているとも捉えられます。生成AIの活用が当たり前な時代だからこそ、「AI疲れ」という言葉も使われ始めています。便利なテクノロジーに頼ることで、かえって非効率になったり、心理的負担が生じたりする恐れもあるのです。

厚生労働省『ネット・ゲーム使用と生活習慣に関する実態調査』(https://www.ncasa-japan.jp/pdf/document114.pdf)より引用

また、厚生労働省が2026年2月に発表した「ネット・ゲーム使用と生活習慣に関する実態調査」では、10歳〜29歳の若年層の6.0%がSNSの病的使用が疑われるという数値が出ています。「SNS依存」にのめり込む人の割合自体はそこまで多くないかもしれませんが、デバイスとにらめっこし、SNSを長時間注視する人の割合は、若者を中心に確実に高まってきています。

このように現代人は、テクノロジーの発展と情報過多の時代に生きているだけに、その恩恵を受けつつも、少なからず弊害も被っています。その中で、「選択肢を限定して迷いや不安をなくしたい」「判断ミスやストレスを回避したい」といった心理が強まるのは、自然な流れといえるでしょう。こうした傾向は、まさに『メンパ』の考え方そのものです。その背景には、AIやSNSの利便性の裏にある「過度な利用」という新たな脅威から、自らの心を守ろうとする意識の高まりがあるのではないでしょうか。


『メンパ』の概念は経営判断や事業展開においても重要

『メンパ』は個人の消費に関するトレンドとして注目されていますが、現代においてはビジネスシーンの選択・判断においても取り入れるべき考え方だと言えます。たとえば、自社をより成長させることがミッションとも言える経営者であれば、ビジネス活用が当たり前になった生成AIを利用したことがない人はいないでしょう。

以前よりも情報獲得が容易になっただけに、生成AIなどを活用して情報の取捨選択の精度やスピードをより高める必要性が出てきています。いかにストレスのない選択・判断を的確に、迅速にできるかは、これからの経営者に求められる資質の1つになり得るでしょう。「経営者の思考の時間」という何にも代え難い貴重なリソースを、感情などに左右されることなく、効率良く活用できるのかが問われます。

Appleの創業者であるスティーブ・ジョブズが黒のタートルネックを、Metaの最高経営責任者であるマーク・ザッカーバーグがグレーのTシャツをいつも着ているのは、決してセルフブランディングの観点だけではありません。毎日着る服を固定することによって無駄な判断を省いているのは、「究極のメンパ管理術」と言えるでしょう。Amazonの共同創設であるジェフ・ベゾスが「午前10時のルール」という決まった時間に最重要タスクをぶつける仕組みも、同様に『メンパ』の好例です。

また、経営だけでなく、事業レベルにおいても責任者や担当者は、責任を伴う決断の連続に直面します。「どんなツールを導入すれば業務効率化につながるか」「事業成長のためにどんな施策をすべきか」「どんな人材が入れば、より事業を発展させられるか」など、モノ・コト・ヒトの観点だけでも選択・判断を迫られることばかりでしょう。だからこそ、いかにストレスなく、納得感があり、スピーディーに物事を決定できるかが事業成長においても重要であり、その鍵を握るのが『メンパ』なのです。

安泰だけが成功ではない難しさーーコンフォートゾーンという沼

個人においてもビジネスにおいても、『メンパ』は今後ますます重視される概念です。しかし、ストレスのない居心地の良い状態が必ずしもプラスに働くとは限りません。ビジネスシーンで「コンフォートゾーン(居心地の良い場所)」に留まり続けることは、短期的にはストレスフリーですが、長期的には成長の鈍化というリスクを招くでしょう。

慣れ親しんだ業務や環境は、ビジネスパーソンに安定をもたらす一方で、挑戦の機会を奪う「停滞ゾーン」に変わり得ます。この変化のない停滞自体が、将来への不安や自己嫌悪といった新たな心理的負荷(感情コスト)を生む要因にもなりかねません。

2026年2月時点で「コンフォートゾーン 抜け出す」という検索母数が月間1300件に達している事実は、まさに安定という名の沼に浸かることへの危機感の表れでしょう。居心地の良い環境が「停滞への不安」という新たなストレスを生むのであれば、それは本末転倒であり、メンパの観点からもマイナスです。真の『メンパ』とは単に負荷をゼロにすることではなく、自身が最も高いパフォーマンスを発揮できる心のコンディションを、能動的にデザインすることを指すのではないでしょうか。

『メンパ』は、現代を生きる誰もが向き合うべき、羅針盤のような概念です。しかし大切なのは、人によって「快適さ」の定義は異なるということであり、ある人にとっては徹底した効率化が、ある人にとっては適度な挑戦が、それぞれ『メンパ』の向上につながります。『メンパ』を活用して状況を好転させたいと考えるのであれば、まずは自身や環境を客観的に見つめ直すことから始めてみましょう。自身の心理的負荷がどこにあるのかを特定できれば、より解像度の高い意思決定と、健やかなビジネスライフを手に入れられるはずです。

 

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