税務署に開業届を提出済みの事業を営む個人の方を「個人事業主」と呼びますが、近年の働き方や雇用形態の多様化に伴い、「フリーランス」という呼称がより一般的に定着しつつあります。元々、終身雇用が一般的ではなく、組織に依存せずに個人のスキルや専門性を活かすワーカーが多いアメリカでフリーランスの考え方はいち早く広まりました。
日本社会においては、非正規雇用の増加とIT化の促進が顕著だった1990年代後半~2000年代初頭頃から、徐々に「新しい働き方」として認知と需要が高まり始めました。2010年代後半の働き方改革や2020年以降のコロナ禍の影響もあり、企業に雇用される働き方から自立して生計を立てるフリーランスとしてのキャリアを歩む人が増加の一途を辿っています。賑わいを見せるフリーランス界隈で注目されているのが、「クリエイターエコノミー」の広がりです。クリエイターエコノミーに代表されるフリーランスとしての仕事の受け方や働き方の多様化について解説します。
フリーランスが直接収入を得る「クリエイターエコノミー」とは?
令和に突入した2020年以降においては、企業勤めではなくフリーランスの道を選ぶことは、まったく珍しいことではありません。企業という一組織に属することなく、自身の能力や裁量をフル活用して、新たなクリエイティブや価値を創造する働き方は、近年における日本社会の仕事観のトレンドであるとも言えるでしょう。そうしたフリーランス全盛期において注目したいのは、どこから仕事を得ているのかという「仕事獲得経路」です。企業から仕事や役割が与えられる会社員とは異なり、フリーランスは自身で仕事を獲得することがスタートとなります。
一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会「フリーランス白書2024」
(https://blog.freelance-jp.org/wp-content/uploads/2024/03/whitepaperFreelanceSurvey2024.pdf)」より引用
一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会が発表した「フリーランス白書2024」によると、直近1年間で仕事獲得につながった経路(複数回答可)として、「人脈(知人の紹介を含む)」が61.6%ともっとも高い数値を示しています。自身のコネクションを活かして、フレキシブルに仕事を獲得していることが分かります。
2番目に多いのが「過去・現在の取引先」で58.9%のため、企業からの依頼やつながりが依然としてフリーランスにとっての生命線となる収入源でもあるでしょう。一方で、3番目に「自分自身の広告宣伝活動(Web・SNS・新聞・雑誌など)」が33.2%となっており、フリーランス自身の仕事獲得活動における成果が割と出ていることも見て取れます。特にSNSなど自身の活動を簡単に発信できるツールが浸透している現代では、仕事を獲得するためには待ちの姿勢ではなく、能動的にアクションを起こすことの重要性が如実に表れていると言えるでしょう。
このように近年では、クリエイター自身が生みだしたコンテンツや商品、サービスをX(旧Twitter)やYouTube、 Instagramなどのインターネット上のプラットフォームなどを通して直接ファンやオーディエンスに届けることで収益を得る「クリエイターエコノミー」の考え方がより一般的になりつつあります。また、顧客とのタッチポイントとなるプラットフォームの活用に加え、クリエイターの活動を支えるマネジメントや事務手続き関連のサービスもクリエイターエコノミーという経済圏の考え方に含まれています。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「国内クリエイターエコノミーに関する調査結果(2024 年)」
(https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2024/12/cr_241216_01.pdf)」より引用
三菱UFJリサーチ&コンサルティングが発表した「国内クリエイターエコノミーに関する調査結果(2024 年)」によると、2023 年の国内クリエイターエコノミーの市場規模は推計で 1 兆 8,696 億円。2021 年の市場規模1 兆 3,574 億円と比較するとCAGR(年平均成長率/ Compound Annual Growth Rate)では17.4%で成長しているなど、クリエイターエコノミーは右肩上がりの成長市場と言えるでしょう。
拡大を続けるフリーランス界隈では案件獲得競争も激化
クリエイターエコノミーがいくら成長市場だからと言っても、「フリーランスになれば、すぐに仕事の依頼が舞い込んでくる」ということではありません。また、X(旧Twitter)やInstagramを活用したD2C(Direct to Consumer)による顧客獲得に関しても、周到なSNS戦略と継続的な投稿によって初めて実現する話です。市場の激化はフリーランスの道を選ぶ優秀なクリエイターの数が増えていることと同義なので、クリエイターエコノミーは今後さらなる戦国時代を迎えることは必至でしょう。
ランサーズ株式会社「フリーランス実態調査2024年」
(https://www.lancers.jp/renewal/img/research_news/docs/2024.pdf)」より引用
ランサーズ株式会社が発表した「フリーランス実態調査2024年」によると、2024年のフリーランス人口は実に1,303万人。総務省統計局のリリース(2025年6月時点)の日本の人口は1億2,336万人なだけに、フリーランスが全体の1/10以上を占めていることになります。経済規模に関しても20兆3,200億円であり、日本経済を支える重要な市場として存在感を示しています。
フリーランス人口が増え、経済規模が増せば増すほど、より多様な依頼が発生する可能性が高いでしょう。しかし、クリエイターエコノミーが充実すれば充実するほど、フリーランス同士の仕事獲得競争は当然ながら激化します。フリーランスは企業勤めとは異なり、安定した収入を得るには仕事を継続的に発注してもらう必要があります。中にはD2Cで多くの顧客とファンを獲得しているトップクリエイターもいますが、大成功を収めている人はほんの一握りです。また、そうした実績を残しているフリーランスは例外なく、血のにじむような不断の努力をしていることは言うまでもありません。
スポットの仕事の受注を積み重ねる「ギグワーカー」の働き方
フリーランスによるクリエイターエコノミーにおいては、顧客が企業の場合の継続的な業務委託はもちろん、D2Cによる自身のフォロワー向けのサブスクリプションサービスなどストックで収入を得る手段は多々あります。しかし、フリーランスの特性上、1つのタスクにおいて一契約を結ぶというスポット主体の契約がまだ主体と言えます。近年ではインターネット上のプラットフォームやアプリによって、単発での仕事受注をするマッチングシステムも増加中です。そして、そうした単発で仕事を得る人を「ギグワーカー」と呼びます。
「ギグ(gig)」という言葉は、ライブハウスなどでミュージシャンが即興で演奏する「一度限りのセッション」を意味する音楽用語に由来します。すでに多くの方にとって欠かせない存在となっているUber EatsやWolt、出前館などのフードデリバリーの配達員の働き方は、まさにギグワーカーの典型例です。隙間時間にアルバイトに入れるTimeeタイミーもギグワーカーを象徴する働き方と言えます。両者とも働きたいタイミングで、自分の希望する業務量を選べる点が大きな特徴です。
ただし、ギグワーカーに関しても信頼の置ける発注先として認めてもらうためには、対応における丁寧さが重要になります。単発の仕事は参入のしやすさが特徴なだけに、「自分には合わない」とすぐに見切りをつけて切り替えることも可能です。一方でギグワークを継続的にもらえているフリーランスは、対応における接遇力の高さが光る人材であると言っても過言ではないでしょう。
クリエイターエコノミーによるフリーランスの働き方の広がりは、日本社会においても経済を刺激する起爆剤になり得るはずです。しかし、多様化が進むことで競争が激化することは避けられないので、個々のフリーランスが他と差別化できる独自性を持って働くことが必要となります。経済圏が拡大することは当然ながら良いことではありますが、安穏としているだけでは仕事が得られないよりシビアな競争社会であることは忘れてはいけないでしょう。フリーランスで成功を収めるには、そうした荒波に揉まれても絶対に生き残るという覚悟が不可欠です。
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