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退職者に着目するアルムナイ採用の魅力 即戦力の再雇用による人材確保

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終身雇用という日本型雇用システムが主流だった時代においては、退職・転職するメンバーに対して「裏切り者」と捉える風潮が少なからずあったと言えるでしょう。多くの縁に恵まれて同じ職場で働くことになり、同じビジョンのもとで苦楽を共にして働いた同志だけに、袂を分かつことに複雑な感情が芽生えるのは無理もありません。しかし、自社の事業や文化を理解し、戦力として活躍したメンバーに対して「裏切り者」というレッテルを貼ることは有益なのでしょうか。その答えは「No」です。

厚生労働省が令和6(2024)年10月に発表した「令和3(2021)年3月に卒業した新規学卒就職者の離職状況(※1)」によると、就職後3年以内の離職率は、高卒が38.4%、大卒が34.9%でした。新卒入社の社員の3~4割が3年以内に辞めるのが現在の日本社会なだけに、退職や転職に関してもより多様な考え方を持つことが必要です。一度は同じ志で働いていたメンバーなだけに、関係性を保つことで将来にまた共闘できる機会が訪れるかもしれません。離職者に対するアプローチの手法の1つとして近年注目されているのが、人材の出戻りを意味する「アルムナイ採用」です。

※1 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11805001/001318959.pdf

採用現場で注目される「卒業生」を意味する「アルムナイ」とは

総務省統計局が発表した「労働力調査(基本集計) 2024年(令和6年)11月分結果(※2)」によると日本の就業者数は6,814万人であり、前年同月に比べ34万人増加しています。これは実に28ヶ月連続の増加であり、一見すると日本の労働力は順調に右肩上がりで推移しているようにも捉えられます。しかし、経済協力開発機構(OECD)が定義した15~64歳の人々で構成される「生産年齢人口」においては、右肩下がりの減少傾向にあるのです。

国土交通省が発表した「国土交通白書 2024(※3)」によると、日本の生産年齢人口は、1995年の8,726万人(総人口比69.5%)をピークに減少に転じています。2023年10月時点では7,395万人(同比59.5%)となっており、ピーク時より1,300万人ほど減少しているのが現状です。就業者数が増えているのは、結婚・出産後の女性や65歳以上の高齢者の雇用の増加に起因しており、幅広い層の就労の間口は広がっていると言えるでしょう。しかし、社会の基盤を支える生産年齢人口は今後も減少見込みなだけに、企業における人材確保の観点では非常に難しい時代と言えます。

優秀な労働力の確保は、どの企業においてもプライオリティが高い課題です。そして、生産年齢人口の減少に伴う「売り手市場」は今後も続くことが予想されるだけに、雇用における戦略もきちんと見つめ直す必要があるでしょう。採用の難易度が年々高まっているだけに、人材確保の手法もより柔軟に幅広く取り入れる必要性が出てきています。その中で注目されているのが、アルムナイ人材の活用です。

「アルムナイ(Alumni)」とは、英語で「卒業生」「同窓生」を意味します。企業においては退職したOB・OGを指す言葉として近年、注目されています。以前までの日本社会では、他社に転職した退職者を「裏切り者」と考える風潮が少なからずありましたが、転職が当たり前の昨今においては退職者も立派な雇用の候補者です。会社を辞めてからも良好な関係を築きつつ、再度雇用の機会を伺う手法は、近年の人事戦略のトレンドの1つとして定着しつつあります。

※2 総務省統計局が発表した「労働力調査(基本集計) 2024年(令和6年)11月分結果」
https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/
※3 国土交通省「国土交通白書 2024」
https://www.mlit.go.jp/statistics/file000004/html/n1111000.html

キャリア採用やリファラル採用とは異なる自社を知る人材

日本の採用市場においては、4月から新入社員が入社する新卒採用が主流です。そして、新卒入社した企業に長年勤める人もいれば、転職によって他の企業に移ったり、独立して個人事業主として働いたり、起業して自らの会社を設立したりするなどその後のキャリアは多種多様と言えます。それだけに、雇用における機会や選択肢は幅広いので、企業もさまざまな手法で人材確保を行っています。一口に「中途採用」と言っても、その手法や戦略は時代とともに変化しているのが現状です。

現在、中途採用においては、特定のスキルや職歴がある即戦力人材を確保する「キャリア採用」が主流と言えるでしょう。企業としては特定のプロジェクトやポジションにおいて欲しい人材を採用によってピンポイントで補填するという手法であり、企業と求職者におけるマッチングが重要になります。育成を前提としたポテンシャルを踏まえた新卒採用とは異なり、実力主義で選考するのがキャリア採用の特徴です。そのため、入社後いきなり役職者のポストに就くケースもあるなど、期待値とハードルが高い採用手法になります。

また、採用サイトなどによる募集や転職サイトなどの媒体を通した応募からではなく、知人、取引先などから採用候補となる人材を紹介してもらう手法が「リファラル採用」です。「推薦」「紹介」を意味するリファラル(Referral)によって人材確保するため、一般応募よりも人材の特徴をあらかじめ把握しやすい点や採用にかける時間とコストを削減できる点がメリットとして挙げられます。

キャリア採用やリファラル採用は、優秀な人材を確保するうえで有効な手段です。しかし、どちらの採用においても人材が社内に馴染んでフィットするかという面においては少なからず課題があります。前職では大活躍していた人材でも、環境が変わることでその力を存分に発揮できないケースは決して珍しくありません。そのため、キャリア採用やリファラル採用によって鳴り物入りで入社した人材が、期待通りの活躍を果たせずに早期退職するという典型的なミスマッチは、採用現場ではよく起こり得ることです。

一方、アルムナイ採用におけるメリットは、以前に会社に勤めていた実績があるため、その人の働きぶりや能力、適性についてある程度把握した状態で採用する点が挙げられます。どんなに優秀な人材でも、転職で失敗するケースがあるのは、企業特有の文化に適応できるかどうかも密接に関わってくるでしょう。近年ではそうした「カルチャーフィット」が採用においても重視されるようになってきた点も、アルムナイネットワークが注目されている要因と言えます。

人材難な時代だからこそ定着のための「カルチャーフィット」の意識を

総務省統計局がリリースした「令和3(2021)年経済センサス‐活動調査(※4)」によると、日本国内には368 万社の企業があると公表されています。国内だけでこれだけの会社があるだけに、海外も含めた選択肢を探すとなると、就職の可能性は無限大だと言えます。そして、ある意味“星の数”ほど企業は存在するだけに、待遇や環境、やりたいことがミスマッチしている会社に長く勤め続ける必要性はなくなりつつあると言えるでしょう。だからこそ、働き甲斐や雰囲気、仕事における文化がマッチしているカルチャーフィットの視点がより重要視されます。

辞めた人材をまた再雇用するという、一昔前までは「裏切り者の出戻り」と冷ややかに考えられていたアルムナイ採用においても、現在では「よく帰ってきてくれた」と諸手を挙げて迎え入れられる状況に変化しつつあります。今後も企業の成長を促進する優秀な人材を確保するためには熾烈な採用競争を制する必要があり、さらにその人材に長く勤めてもらうには企業文化への適応が求められます。そうした人材難な時代なだけに自社独自のカルチャーを知るアルムナイネットワークを活用しない手はないでしょう。

製品やサービスなどのプロダクトがコモディティ化している現代において、企業選びの軸が待遇だけでなく、企業文化という側面においても重要になってきました。かつて同じ職場で働いた同志たちも、カルチャーフィットするアルムナイ人材として今後の採用候補として要検討すべきなのかもしれません。

※4 総務省統計局「令和3年経済センサス‐活動調査」
https://www.stat.go.jp/info/today/pdf/195.pdf

 

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