2022年8月に経済産業省が発表した「令和3年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」によると、2020年の日本国内の企業間電子商取引(BtoB-EC)の市場規模は372.7兆円と試算されています。2018年が353.0兆円、2019年が334.9兆年と多少の増減の波はあるものの、企業間電子商取引は成長産業と言えるでしょう。
また、すべての商取引金額(商取引市場規模)に対する電子商取引市場規模の割合を示す「EC化率」においては、企業間電子商取引は35.6%という数値でした。前年比2.1ポイント増という結果からもBtoB商取引のデジタル化の進展を示しています。今後、さらなる伸長が予想される企業間電子商取引ですが、それを後押しする仕組みが「EDIシステム」です。EDIシステムは、いかにBtoBの受発注業務の効率化に貢献するのでしょうか。
BtoB-ECにおいて押さえておきたい「EDIシステム」とは
EDIはElectronic Data Interchangeの略称であり、日本語訳では「電子データ交換」を意味します。商取引においては、企業間で発注書や納品書、請求書などの証憑(しょうひょう/取引の内容証明のための書類)のやり取りが発生します。それらを専用回線やネットワークを通して電子化し、スピーディで効率的な企業間取引を実現するのが「EDIシステム」です。
▼EDIシステムが重要視される理由
企業間取引においては、契約に基づく多くの受発注業務が存在します。従来までは契約書などの証憑をメールやFAX、郵送、または訪問しての手渡しなどの手段でやり取りしていました。このやり方だと、取引先に合わせた対応が都度必要となります。用紙や送付方法が取引先ごとにそれぞれ異なるため、管理が煩雑になり、バックオフィスの手間やコストなどの負担が増大する傾向にありました。また、社内システムに転記する際に、手作業で行うことによる入力ミスのリスクもあります。
一方でEDIシステムを活用することで、専用回線やインターネットを介した取引情報のやり取りが標準化できます。企業間の管理システムに直接取引データを送受信できるので、書類を印刷して郵送またはFAXしたり、紙の書類をもとに手作業で自社システムに入力したりする手間を削減でき、業務効率化と経費コストの削減を両立するだけでなく、EDIシステム内でデータの一元管理が行えます。このように企業間取引の電子化・効率化・標準化できる点が、EDIシステムが重要視される主な理由です。
▼EDIシステムによるデータ変換の仕組み
EDIシステムでは、他社から送付されたデータを自社システムで取り込めるように変換します。つまり、自社と特定の他社、特定の業界における通信プロトコルやフォーマットを標準化し、通信できる仕組みになっています。EDIシステムでは異なる基幹システム同士でデータをやり取りしているため、通信方法・データ形式・コードなどのルールを事前に定めることが不可欠です。そのため、データ形式や識別コードなどの仕様の確認や取り決めが重要になります。主に変換するデータは下記の3つです。
・その1:文字コードの変換
Shift_JISやUnicodeなど扱える文字コードが企業ごとに異なるため、自社システムで取り込めるように変換する必要性があります
・その2:レイアウトの変換
データレイアウトもシステムによって差異があります。「固定長形式」「CSV形式」「XML形式」など、自社のシステムが理解できるレイアウトに変換します
・その3:データコードの変換
同一商品でも企業によって商品コードが異なる場合もあります。その場合は他社のコードを自社のコードに置き換えます
▼EDIシステムの種類
一口にEDIシステムと言っても、それぞれで仕様が異なります。そのため、EDIシステムの導入を検討する際は、自社に合った種類を選ぶことが重要です。代表的なEDIシステムと言われる3つの種類と、電子インボイスの標準規格「Peppol」にも活用されている「共通EDI」についても紹介します。
・取引先ごとにルールを決める「個別EDI」
取引先ごとに通信を行う形式や識別コードなどのルールを策定するのが個別EDIです。取引先の要件に合わせた細かいルール設定ができる一方、それぞれのEDIシステムに対応したデータ変換が求められます。取引先が少ない場合に採用されるケースがほとんどで、多数の企業との取引においてはEDIの利便性を活かしきれない面がデメリットです。
・共通した形式や規格がある「標準EDI」
異なる企業間でのデータ交換において、共通した形式や規格をフォーマットとして採用しているのが標準EDIです。同一のフォーマットである複数の企業とのやり取りを実現します。個別EDIとは異なり、取引先の仕様に左右されることもないので、販路拡大に対応しやすい点がメリットです。EDIシステムにおいては、最も多く導入されている規格と言えます。
・VAN利用の取引先とつながる「業界VAN(標準EDI)」
標準EDIの一種として、特定の業界に特化した「業界VAN」というネットワークサービスがあります。酒類・加工食品業界や医薬品業界、日用雑貨業界などが主な例です。一般の標準EDIの場合はコードの標準化がなされていないため、商品コードの取り決めや変換作業が必須となりますが、業界VANは業界共通の商品コードや取引先コードが標準化されているのでよりスムーズな取引が可能になります。
・EDIをつなぐ「共通EDI」
EDIシステムの技術は、Peppol・電子インボイスの知っておきたい本質 企業にとって重要となる心構えとは?の記事でも紹介したように、電子インボイスの標準規格「Peppol」にも活用されています。EDIシステムを応用することで、EDIをEDIでつなぐ4コーナーモデルという独自形成されたEDIシステム同士を共通の規格(共通EDI)で結ぶことも可能です。
EDIシステム導入は内部統制にも効果的
従来まで紙を筆頭にアナログなやり取りをしていた発注書や納品書、請求書などの証憑対応を、より迅速に簡単に実現する上でキーとなるのがEDIシステムです。実際に導入することで、バックオフィス業務のペーパーレス化を実現できるのはもちろん、労務コストの削減や取引における事務作業の効率化が果たせるでしょう。
また、EDIシステムの導入は内部統制にも効果的です。標準化されたルール下で電子データの取引を行うため、情報伝達の電子化や自動化を実現します。財務報告の信頼性を担保する上でヒューマンエラーが起こりづらい点は、コーポレートガバナンスにおいても非常に重要なポイントとなるでしょう。
冒頭で紹介した経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」にもあるように、国内での企業間電子商取引は35.6%にまで上昇しています。しかし、見方を変えれば、6割強の企業間取引が電子以外で行われていることを示しています。
これからの時代はデジタル化がさらに加速することが予想されるだけに、EDIシステムの導入は現実的な社内環境整備の手段となるでしょう。現在はEDIシステムの導入は大企業やIT企業が中心ですが、近未来的には日本社会の企業間取引のスタンダードになるはずです。それだけに経営者や企業のシステム担当、総務などのポジションの方はもちろんのこと、一般の従業員においてもEDIシステムの今後の動向をキャッチアップしていくことが求められます。