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【シリーズ】間接材調達 の新グローバルスタンダード 第3回:電子調達成功のカギは「サプライヤーオンボーディング」

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間接材調達をテーマに、シリーズ第1回目は管理可能な支出(Spend Under Management)を高める重要性、第2回目はグローバルコンプライアンスについて取り上げ、ともに広範囲で複雑なプロセスにおける課題を解決していく仕組みとしてITの活用が必須となることをお話してきました。今回は、ITの活用、つまり間接材を電子調達することを進めるにあたり、何が重要なのか。そのカギとなるサプライヤーオンボーディング(サプライヤーの電子取引への参加)について解説します。


【電子調達を成功に導くための要素】

インターネットを使って調達を行う「電子調達システム」が世の中に登場してから20年以上が経ち、それ自体の斬新性や革新性というものを取り上げるニュースも以前に比べると少なくなってきました。しかしながら、調達の改革をやり尽くしたと言い切れる企業は少ないでしょう。つまり、現在でも多くの企業にとって間接材調達は改善する余地のあるプロセスであり、その改革は企業のコスト構造に影響する重要な取り組みであることは間違いないでしょう。

その改革の下支えをする電子調達のためのソリューション(サービスやシステム)は、様々な企業が多様な形態で提供しており、さらに調達の効率化のために豊富な機能を持ったソリューションも市場に多く出回っています。したがって、これらを自社に導入する際は、自社のニーズに合致したソリューションを選定し、導入することが非常に重要です。

ただし、ニーズに合致した機能を持つソリューションを見つけて導入しただけでは、改革は成功しません。電子調達ソリューションの導入における過去の事例では、豊富な機能を持つソリューションを導入したものの、一部のサプライヤーのみが電子調達に参加しただけに終わり、その他のサプライヤーとは従来通りの取引を続け、改善効果が限定的となったケースもあります。

電子調達ソリューションを導入して改革の目的を達成するために重要なのは、「優れた機能を持つソリューションを選ぶこと」ではなく、「サプライヤーオンボーディング」、つまり限りなく100%に近いサプライヤーに電子調達に参画してもらうことなのです。


【サプライヤーが電子調達に参画しない理由】

サプライヤーの参画率により、バイヤーが得られる価値は大きく変わります。このことは第1回目に述べたSpend Under Managementにも関係します。全サプライヤーの70〜80%と電子調達を行っている企業は、それ以下の一握りのサプライヤーとのみ電子取引をしている企業よりもはるかに高いROIを実現しています。

では、低いサプライヤー参画率は何が原因なのでしょうか。サプライヤーが電子調達に参画するかどうかは、サプライヤーが自身で決めることです。バイヤーができることは、丁寧にメリットを説明し、参加要請を行い、パワーバランスを使って参加しないサプライヤーを説得することに留まります。決定はあくまでもサプライヤーであり、サプライヤーは自分にとって価値のないソリューションを採用することはないのです。

サプライヤーの参画率が低いソリューションには以下のような特徴が挙げられます。

  • 取引額に応じて取引料が徴収される
  • 取引がなくても参加するだけで利用料を取られる
  • 複雑なソリューション
  • 使い勝手が悪い
  • サプライヤーのシステムや商品カタログとデータ連携が難しい
  • パフォーマンスや処理時間が遅い

ただし、現実的には上記のいずれかの特徴をもつソリューションであったとしても、サプライヤーはバイヤーとのビジネスを継続するために、自らのコストとして電子取引に参画する場合があります。その場合でも、参画するサプライヤーは限定的であり、サプライヤーの参画率を100%にすることはできないでしょう。


【サプライヤーに対する参画の障壁を取り除く】

このため、サプライヤーの負担をなくし、電子調達に参画する障壁を低くすることがサプライヤーの参画率を上げるための重要な要素となります。以下ではサプライヤーが電子調達に参加する際の負担を「ヒト・モノ・カネ」の3つの切り口で記述します。

ヒトの負担:
第1に「導入が面倒」「手間がかかる」ソリューションは、サプライヤーの参画率に良い影響を与えません。電子調達に一定のメリットがあると認識しても、1つの顧客との取引の形態を変えることを自社の一番の優先順位の仕事としてすぐに実施できるサプライヤーは珍しいでしょう。多くのソリューションでは、営業や商品担当などの複数の部門にまたがるようなプロセスに調整が必要となり、片手間で行うことができないからです。
また「新しいソリューション」に対する心理的な負担もあります。新しい技術に知見があるリソースがいなかったり、エンドユーザーの習熟曲線の見通しに不安を感じるサプライヤーもいるでしょう。サプライヤー側の「ヒト」の負担は大きな障壁になりえますので、それを出来るだけ取り除く必要があります。

モノの負担:
従来、電子調達の仕組みを導入するためには、そのアプリケーションをインストールするための専用のサーバーやそれを配置する場所、さらにカタログデータを格納するためのディスクスペースや、顧客のネットワークにつなげるための専用のネットワーク設備も必要となることが多くありました。また、ユーザーが使用できる端末に条件や制約がある場合には、その条件を満たせないサプライヤーは参画することが難しくなるでしょう。すでに自社でインターネット販売のためのサイトを持っているサプライヤーもまた、バイヤーが指定した別の電子調達ソリューションのためにだけ追加投資をすることはし難いでしょう。
サプライヤーの「モノの負担」を軽くすることも、参画率をあげる重要な要素となります。

カネの負担:
最終的にコストメリットがあるとしても、今すぐ使えるキャッシュが潤沢にある企業ばかりではありません。当然、導入費用と運用費用は、電子調達を導入する際のサプライヤーの大きな関心事となります。最終的にはコストの観点で判断すると言っても過言ではありません。金銭的な負担を無くすことは、特にコストにシビアな中小企業サプライヤーにとっては重要な問題です。


【Tradeshiftのアプローチ】

Tradeshiftでは上記の「ヒト・モノ・カネ」の課題を解決するために以下のアプローチを採用しています。

[ヒトの負担解消]

アカウントの即時発行(セルフサービス):
Tradeshiftにアカウントを作る作業は、サプライヤー自身が行うことができます。Tradeshiftのホームページからアカウントの新規作成の画面に移動してメールアドレスと会社名を入力し、Tradeshiftから送付されるメールの手順に従うことでわずか1分でTradeshiftに参加する(アカウントを作成する)ことができます。
バイヤーから招待されたサプライヤーの場合は、サプライヤーはパスワードの設定を行うだけで簡単にTradeshiftに参画することが可能です。

マニュアルなしで使える:
Tradeshiftにはマニュアルがありません。多くの方が使用するスマートフォンのアプリのように、マニュアルがなくても直感的に使えるような画面設計がされています。またアカウントがある企業は、TradeshiftのAppstoreから様々な機能を持ったアプリをダウンロードすることが可能で、これらのアプリについてもユーザーの使用感が変わらないようアプリ設計ガイドラインに沿って開発が進められています。

[モノの負担解消]

設備不要、場所を選ばす利用可能:
Tradeshiftのサービスは全てクラウド化されており、導入企業は設備を導入する必要がありません。エンドユーザーはパソコンでもスマートフォンでもタブレットでも、ブラウザがある端末であればTradeshiftを使うことができ、従来使用しているパソコンや社内システムをそのままを利用できます。また、Webアプリケーションのため、端末固有の設定やインストールもなく、全てサーバー側で情報を持つため、ログインする端末による機能の違いもクッキーなどのブラウザ側の機能を除けば基本的にはありません。これにより、会社にいても出張先からでも、あるいは家からでも全く同じ環境で仕事をすることが可能で、テレワーク推進の基盤として利用することが可能です。

各種カタログフォーマット、パンチアウトカタログに対応:
バイヤーに招待され電子調達に参画するサプライヤーは、基本的に自社の商品情報をTradeshiftの電子カタログに掲載する必要があります。Tradeshiftの電子カタログに商品データを掲載するには、直接商品データを入力することはもちろん、エクセル形式やCSV形式でアップロードすることも可能です。また、cXMLと呼ばれるコンソーシアムが制定した電子カタログの形式もサポートしています。さらに、サプライヤーが管理・提供するカタログサイトで選択した商品を、Tradeshift内の承認手続きを経て発注することができる、パンチアウトと呼ばれる方法で連携することが可能です。

[カネの負担解消]

無料で使える:
あらゆるものが有料となっている現代でも、一部のITサービスは逆の方向に進んでいます。フリーミアムと呼ばれるITサービスは、高度な機能を無料で提供し、一部の高度な機能などを有償で提供しています。従来は「購入するもの」であった地図やナビゲーションシステムなどは、今ではGoogle mapなどの無料サービスを使うことで同様の機能を使うことが可能ですし、企業向けの会計ソフトも無料のITサービスが出始めています。これらのITサービスは昔のような「安かろう悪かろう」ではなく、有償にしても良いレベルのサービスを提供していますが、無料で提供することで圧倒的なユーザー数を獲得しているのです。

Tradeshiftもこれらのサービス同様、様々な機能を基本使用料無料で提供しています。サプライヤーはTradeshiftを使って電子文書の送受信を無料で行うことができます。また、無料のカタログ管理アプリを使うことで自社製品の管理と顧客企業への公開を行うこともできます。さらに、Tradeshiftのデータの入出力を行うAPIも無料で公開しており、自社のシステムとのデータ連携などを無料かつ簡単に行うことが可能です。

Tradeshiftはサプライヤーが電子調達に参画する「ヒト・モノ・カネ」の課題を解決し、大手企業だけでなく、あらゆる規模の企業が電子取引に参画できる仕組みを提供しています。

 

◇◇◇

営業が顧客を相手にするように、調達部門はサプライヤーを相手に業務を行う、「コラボレーション」が非常に重要な要素となる業務です。したがって、自社のことだけでなくサプライヤーにとってメリットがある施策を十分に検討し、お互いの立場を尊重して進めない限り、改革の成功は難しいでしょう。

次回、シリーズ最終回では、間接材調達の将来とさらなる効率化のための提言を行う予定です。