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【シリーズ】間接材調達 の新グローバルスタンダード 第2回:実践的なコンプライアンスの仕組みを作る

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シリーズ第1回目の前回は、管理可能な支出(Spend Under Management)を100%にする重要性と、Tradeshiftがどのようにこれを可能にするかについて述べてきました。

今回は「コンプライアンス」をテーマにお話したいと思います。ご存知の通り、コンプライアンスは財務および調達業務の中核となる取り組みであり、法令等の専門的な知識がない一般社員の支払いや購買のプロセスを財務や調達部門の専門家がチェックするプロセスは、まさにコンプライアンスのための活動と言えるでしょう。その必要性は誰もが認識しており、コンプライアンスに対する適切な対応がなければ、ビジネスのリスクは飛躍的に高まります。

一方で、コンプライアンスを重視しすぎると弊害も発生します。過去にJSOXの名の下、多くの企業でコンサルタントなどを雇い多大なコストをかけて複雑な内部統制ルールが導入されました。その結果、過剰なチェックや文書化により業務が複雑化し、社内に官僚主義が蔓延。内部統制がもたらしたものはコストの増大や、企業の俊敏性・競争力の低下で、これにより多くの企業が再度ルールの見直しを行いました。

このように、コンプライアンスは究極の姿を目指すのではなく、コストと効果のバランスをとって「実践的」な方策を選択すべきです。では、どのような観点を間接材調達におけるコンプライアンスとして意識すべきなのでしょうか。

 

【地域をまたがるグローバルコンプライアンス】

まず一つ目はグローバルコンプライアンスです。自国の法令遵守は普段から強く意識することなく業務が進められますが、外国企業との取引や全く異なる文化圏の企業との取引にはそれらの国の法令知識と対応を考慮する必要があります。その重要性は誰もが認めるところですが、大手企業であっても十分と思われる対応をしている企業はわずかです。

例えば、多くの企業の財務部門は中国が税法改正により増値税モデルに移行し、近年では最大規模の法人税の変革を開始したことにあまり気付いていません。中国の大手サプライヤーを抱える企業はこれらの対応が遅れた場合、違法行為としてみなされる可能性もあり、大きなリスクをかかえこむ状況になります。

こうした外国の法令に自社のメンバーのみで情報を収集し対応していくことは、世界情勢が目まぐるしく変わる現代において非常に多くの労力がかかる仕事で、対応を間違えたときの労力はさらに大きくなります。近年は各国の法令を熟知した企業やサービスが増えており、企業はこうした専門性を持つサービス企業にコンプライアンス対応を委任することで、自社のリソースをより自社の強みの領域にシフトしていくことがベストプラクティスと言えるでしょう。その際、国毎にサービス企業を変えるのではなく、自社が取引している取引先のある国を網羅したサービス企業の選定が非常に重要な要素となります。

グローバルコンプライアンスとは、グローバルに画一的なルールを決めて取り組むものではなく、こうした各国と地域の法令に合わせながら全体を統制することが重要で、ローカルなコンプライアンスへの対応を、グローバルレベルで共通するアプローチとして位置付けることが大切です。

 

【コミュニケーションの統制】

取引におけるコミュニケーションを管理することもコンプライアンスの重要な要素です。自社の社員と取引先の間では様々なコミュニケーションをしていますが、いわゆる担当者間のメールやその他メッセージングツールでの非公式なコミュニケーションは、コンプライアンス違反の温床となる場合があります。

ただし、社員と取引先とのコミュニケーションを全て公開することや、複雑なシステムを導入して制御することは得策とは言えません。結果的にコミュニケーションが減少したり、他のツールを使って行われるようになったりすることは、かえって担当者の不便さを増す結果となり、企業としてもメリットがありません。

近年はこうした自社内、あるいは取引先とのコミュニケーションをクラウドサービス上で共有しコラボレーションの促進を図るとともに、コミュニケーションに一定のルールと統制をもたらすサービスも増えています。これらのサービスは従来のファイルや文書の共有サービスではなく、日々の業務上の会話やノウハウなどを蓄積し、情報共有するサービスであり、人の経験に頼り属人的になりがちなコミュニケーション情報を可視化し、共有するための機能を持っています。

こうしたコンプラインスに準拠したソリューションを活用することで、コンプライアンス違反を回避し、リスクを最小化しながら、各種業務の処理時間を短縮することができます。経営幹部はこれによって安心感を得られ、調達と経理の専門家はより細かいコンプライアンスにとらわれることなく、戦略的なイニシアチブのための時間とリソースを割くことを可能にします。

 

【文書の項目の標準化】

間接材調達においては直接材と異なり、必要になった時だけ随時購入するものや、ある程度常備しておくものであっても発注頻度や額が少ない購入が多く発生する「多品種少量購買」のため、「ロングテール」に位置付けられる取引先が多くなるのが一般的です。注文書は販売者が購入者から必要な情報を得るために、販売者指定のレイアウトである場合が多く、その注文書を使わなければ正式な注文として認められない場合もあります。結果、多数の文書レイアウトに対応する必要があり、その取り扱いも複雑になります。送信者による項目の入れ間違いや欠落は多くの確認・調整の労力が必要となります。

ただし、紙やPDFの文書をやりとりする状況では、人が目で確認することが前提となっているため、これらの文書のレイアウトは非常に重要です。多くの企業で、これらの文書のレイアウトはより効率的に作業しやすいように項目が配置されており、自社のシステムの入力順に並んでいたり、重要な項目は見落としがないよう、ハイライトされていたりする場合があります。このレイアウトが、コンプライアンスを遵守しやすくする一つの仕組みなのです。

これらは特定の会社が、特定の業務を行う上では非常に効率的になっていますが、一方で、相手企業にとっては、レイアウトが取引先毎に別々であるため業務が複雑となり、結果としてコンプライアンスを保ちながら効率性をあげることが難しくなる、という弊害も生じます。

これらは電子取引により、標準化と自動化を進めることが出来るようになります。注文や請求の情報を人が見るのではなくITシステムが判別するのであれば、「文書のレイアウト」という概念そのものがなくなり、純粋に項目の有無とその形式(文字種類や文字数など)だけの問題となります。綺麗に整って見やすい画面配置は、その文書データを扱うそれぞれの立場で変えて見ればよく、文書の送信者と受信者が見るレイアウトが異なっていても問題ではないのです。これにより異なったレイアウトでも、項目が同様の文書であれば同じフォーマットとして扱うことが可能となり、扱うフォーマットの種類は少なくなります。また、データの自動変換等の処理を組み込むことで、多くの労力を必要とせずに社内ルールに沿った文書取引のプロセスを構築することが可能となります。

 

【Tradeshiftが提供する実践的なコンプライアンスの仕組み】

TradeshiftのP2Pソリューションは、各国の税制に対応し、アカウントの国に応じて適用される税率や通貨が自動的に設定されます。先の中国の例では、Tradeshiftは中国の「Golden Tax System(金税システム)」と呼ばれる増値税における必須の仕組みを提供する2つの企業のうち1社との合弁企業を設立し、Tradeshift上の電子請求書が自動的にGolden Tax Systemと連携する対応を行っています。また、これは中国国内企業のためだけでなく、潜在的に中国の企業とビジネスを行う可能性があるすべての国の企業に対するソリューションとして開発されています。

また、Tradeshiftではユーザーとサプライヤーが、取引の証拠となる文書を中心に、この文書に関連するコミュニケーションをチャット形式で簡単に行うことができるシンプルな画面と使い勝手を提供しています。ここで入力されたすべてのメッセージは取引文書とともに保存されるため、取引における実際の会話の履歴を把握できるようになり、コンプライアンスも向上します。

図1 (1)

 

例えば、注文書と請求書の額に相違があったと仮定します。従来はその違いに気づいた経理担当者が、注文を行った自社の担当者に連絡し状況や経緯を確認しますが、担当者も過去のことですぐにその理由がわからない場合があります。Tradeshiftのコラボレーション機能を使うと、文書とそれに関連する会話の内容を自社と取引先双方で保持することが可能となります。すなわち注文書から請求書までの一連の流れとそこで双方で会話されたメッセージが記録され部内で共有されているため、これらの確認作業は不要となるのです。

さらにTradeshiftでは受信する文書のフォーマットを規定することが可能なので、送信者は受信者が指定したフォーマットの情報を入れない限り、文書を送付することもできません。結果的に受信者は送信者による情報の入れ間違いや欠落を、送信者が文書を作成している時点でチェックし、受信した文書は全て自社のルールに沿ったものだけにフィルタすることが可能です。

ユーザーの負荷なくコンプライアンスを遵守できる環境を提供することで、内部統制が進むと同時に、ユーザーの作業時間が短縮され、結果的に生産性が向上します。

 

◇◇◇

コンプライアンスだけでなく、ビジネスの取り組みに絶対の正解はありません。非常に難しい問題を包含するトピックですが、最終的には業務のスピードとコストのバランス、そしてそれを決めるのは各企業の戦略なのです。

次回は、調達改革プロジェクトでは最も重要と言っても過言ではない、「サプライヤー・オンボーディング(協力会社や取引先を同じ仕組みに参画させること)」について取り上げる予定です。