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【シリーズ】間接材調達 の新グローバルスタンダード 第1回:調達改革 は「管理可能な支出」の改善から始める

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【成功した企業は「バックオフィス」がフロントに】

サプライチェーンがグローバル化し、クラウドテクノロジーが普及した昨今、Procure to Pay(調達から支払いまで、以降、P2P)領域におけるベストプラクティスが劇的に変化しています。P2P改革に成功した企業では、調達、経理、人事などの「バックオフィス」部門は従来のように単に間接部門としての機能ではなく、各部門を横断しそれをつなげる戦略的な組織として改革の「フロント」に立ち、プロジェクトをリードしています。日本では縁の下の力持ちになりがちなバックオフィスが、組織を改革する上で重要な戦略的ポジションになっていると言えるでしょう。

こうした動きがグローバルで進む中、本ブログでは“間接材調達”に焦点を当て、その改革に何が求められているか、欧米でどのような議論が巻き起こっているかを連載記事として紹介していきます。

 

【「管理可能な支出」こそ、調達改革で着目すべき指標】

コスト削減額(率)や納期遵守率、不良率、在庫回転日数など、様々な指標が調達の現場で使われています。もちろんこれらは重要なオペレーション上の指標であり、最終的にはこれらの指標を改善することで財務的な効率性を生み出すことができます。

国内の企業においてはこれらの指標をプロジェクトの目標として設定することが多いのが現状ですが、これから間接材調達の改革をしようとしている企業が最初に目をつけるべき指標は、欧米で「Spend Under Management」と呼ばれている「管理可能な支出」(以降、SUM)です。この定義の詳細は企業により異なりますが、一般的には「企業の全支出に対する調達部門が関わった支出の割合」です。

なぜこの指標が重要かというと、他の指標(例えば納期遵守率や在庫回転日数など)はオペレーション効率の計測値としては重要ですが、これから改革に携わる、調達部門が関与できる範囲が小さければ、改革の範囲も限定的になってしまいます。

例えるならば、家計を切り盛りする妻が家計の節約を進める上で最も重要なのは、妻自身が家計全体における支出を正確に把握し管理することであり、夫のへそくりなど管理できない聖域が高い割合を占める場合には、家計の節約も家計全体から見ると限定的なものになるでしょう。どれだけ食費や光熱費を節約しても、管理下にない夫のゴルフクラブ1本で削減効果が相殺されてしまうこともあるのです。

 

【企業のすべての支出を調達部門の管理下に】

このように、P2P改革を始める最初の段階で行うことは、企業のすべての支出を改革の中心メンバーとなる調達部門の管理下に置き、SUMを向上させることです。SUMには、契約や注文書の有無にかかわらず、全ての購買行為から生まれる支出が含まれます。自社の調達システムからの購入、ECサイトからの購入、電話やFAXからの購入、あるいは社員の立替経費などの支出が対象となります。これにより、プロの手による、より良い戦略的意思決定を企業の支出全体に反映することが可能となり、それ以降の施策によるコスト削減の効果を最大限にすることが可能になります。

SUMは100%が理想的ですが、間接材購買や経費を含めると100%を達成するためには多くの時間がかかります。SUMが一定レベルに達した後は、他の施策と並行して、SUMの向上を目指してもよいでしょう。

このSUMを100%に引き上げるためアプローチとして、トレードシフトでは以下を推奨しています。

1. サプライヤーとの取引を電子取引で集約する
2. カタログ購買の比率を高める
3. カタログ外購買を仕組みに取り込む
4. 立替経費を仕組みに取り込む

 

【1. サプライヤーとの取引の場を集約する】

まず重要なことはサプライヤーとの取引を一つの仕組みに集約することです。ただし、社内の各部門が紙やFAXなどを使ってサプライヤーに発注しているような購買の作業を、そのまま調達部門が代行して行う、というのは好ましくないでしょう。そのため、まずは紙やFAXで注文しているサプライヤーとの取引を電子取引に置き換え、要求部門がサプライヤーに発注するプロセスをシステム化することで、発注データを調達部門が確認できるようになります。これにより、たとえ発注業務そのものに調達部門が介在しなくても、支出の可視化は進むようになります。この段階では、取引の手段が紙やFAXから電子取引に変わっただけで、本質的な調達、つまり条件や価格は従来と同じ状態です。

 

【2. カタログ購買の比率を高める】

電子取引によって発注の見える化が進んだ後は、カタログ購買の比率を高めることが必要です。カタログ購買は同じ物品やサービスを異なるサプライヤーから購入するのではなく、同じ物品を一社、もしくは限られたサプライヤーから集中購買する手段として非常に有効です。調達部門は1のステップで集約された発注データを分析し、過去の取引実績から価格・品質・納期の優れたサプライヤーを選定。サプライヤーからの購入品をカタログ化して要求部門に提示することで、購買コストを下げながら品質を高めることが可能です。

 

【3.カタログ外購買を仕組みに取り込む】

カタログ購買による集中購買が購買改革の肝であることは間違いありませんが、様々な理由によりサプライヤーがカタログ購買に移行できない場合があります。そのサプライヤーへの発注頻度や額が少ない場合はもちろん、すでにサプライヤー自身が別のカタログやECサイトを持っているケースもあります。このような場合、自社のために個別の電子カタログを設定してもらうことは、そのサプライヤーにあまり価値のないプロセスを強いることとなり、交渉は難しいものになるでしょう。そのようなサプライヤーの場合は、サプライヤーのECサイトに直接発注することを前提としたプロセスが必要になります。自社のカタログから購入品を選んで購買承認を回すのではなく、一般のECサイトから購入品を選択し、後はカタログ購買の時と同じ購買承認申請のプロセスに乗せることで、カタログ化していない商品の購買についても調達部門が管理(閲覧)可能になります。

社内ではカタログ化しやすいガジェットや文具類の他にも、例えば送別会のお花やプレゼント代など、普段は使わないショップで品物を購入する機会もあるでしょう。そのような場合でもオプションとして一般のショップやサイトを選択して追加する事が出来ることで、カタログ購買以外の購買も同じ仕組みに集約することができます。

 

【4.立替経費を仕組みに取り込む】

3の時点で、企業への発注に関してはSUMを高いレベルに引き上げることが可能ですが、それでも社員の交通費などの立替経費に対する支出は残ります。立替経費については、タクシーや飲食店などその場で発注と支払いが発生するようなケースを除き、なるべくカタログ購買あるいはECサイトからの事前発注に切り替えるとともに、残った立替経費もその他の支出と同じ仕組みに乗せていく必要があります。

 

【Tradeshiftが可能にする間接材調達プロセス】

SUMを向上させるための上記4つのステップの実現には、様々なツールが各社より提供されていますが、Tradeshiftでは以下のように実現できます。

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1) 「サプライヤーを電子取引に参画させること」をトレードシフトでは「オンボーディング」と呼んでいます。サプライヤーをオンボーディングするためには、その電子取引ソフトウェアの機能の数や種類は重要ではありません。サプライヤーがいかに簡単に、早く、コスト負担なくオンボーディングできるかが重要な要素になります。

Tradeshiftではサプライヤーはブラウザさえあれば簡単に電子取引に参加することが可能で、無料でアカウントを作成することができます。またマニュアルを必要としない操作性を持ち、複雑な機能のトレーニングや、マニュアルを見て行うような作業はありません。

2) バイヤー企業がカタログ購買への切り替えとその促進を短期間で実現するため、Tradeshiftでは、サプライヤーに無料のカタログ管理アプリを提供しています。Excel等で自社の商品を管理しているようなサプライヤーは、この無料のカタログ管理アプリを使うだけで、自社商品の管理をクラウド上で効率的に行うことが可能です。また、このカタログに登録された商品はTradeshiftの全ての企業が閲覧することができるマーケットプレイスに公開したり、バイヤー企業毎に個別の価格設定をしたりすることが可能です。

3) Tradeshiftには、カタログを作成していない一般のECサイトからの購買も同じ仕組みの中で可能にする「BuyAnywhere機能」があります。社内で何かを購買したい要求者は、購入したい商品の一般ECサイトに行き、その商品の情報をTradeshiftに取り込んで社内の購買申請をします。その購買申請が上司や購買部門に承認された時点で、Tradeshiftから一度だけ使えるクレジットカード番号が発行され、その情報を使ってECサイトの決済を行うことで、ECサイトからの購入も同じ購買の仕組みに取り込むことが可能となります。

4) Tradeshiftのカタログ購買とBuyAnywhere機能の組み合わせにより、要求者は多様な購買オプションを持つことになります。それにより、現時点で経費として精算処理されている購買品を、Tradeshiftを使った事前発注に切り替えることが可能です。それ以外に、Tradeshift GoというiPhoneアプリを使うことで、社員の出張手配から交通費の管理までを行うことが可能です。

 

◇◇◇

SUMの改善を既存の紙やFAXによる発注を残しながら進めるのは非常に困難です。電子取引に変更することで、SUMの改善を効率的に進めることが出来ることがご理解頂けたと思います。調達改革をお考えの際には、最初にSUMの向上を目的とした取引の電子化を検討してみてはいかがでしょうか。

次回はグローバル調達において重要な「コンプライアンス」について取り上げる予定です。