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産業の未来を変えるデジタルの変革者

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──ドラえもんの「ひみつ道具」作りにチャレンジする「四次元ポケットPROJECT」──昨年放映されていたテレビCMを記憶している人も多いだろう。高度な技術を持つ中小企業と富士ゼロックスがコラボし、「室内旅行機」などの「ひみつ道具」を実際に作るというプロジェクトだ。もちろん市販を目的としたものではなく、富士ゼロックスのITサービスの広告内での取り組みだが、インターネットの世界では、この“ドラえもんのひみつ道具”を彷彿させるデジタル・ディスラプターたちが出現している。

 

価格破壊型のデジタル・ディスラプション

前回(第2回)紹介したマッチング型のデジタル・ディスラプターは、ニーズに対し既存企業とは全く異なるアプローチで提供者を引き合わせる仲介ビジネスだった。今回紹介するのはニーズに対し自社で直接製品やサービスを提供する企業だ。提供される製品やサービス自体は決して目新しいものではないが、それを生み出す社内のプロセスのデジタル化によって低コストオペレーションを実現している。

注目すべきは、利用者のインプットを人を介さずダイレクトにアウトプットにつなげる仕組みが構築されている点だ。これによりコストが低いだけでなく、プロセスが簡素化されたことによるスピードアップ、さらには人にはできなかった付加価値の提供も可能にしており、単純に「デジタルだから安い」というサービスではなく、「デジタルでないとできない」サービスになっている。

今回も破壊的なサービスを提供する2社を取り上げ、その特徴について述べていきたい。

 

安価にカスタムメイド&自作製品の販売も可能に

今や世の中にはモノが溢れ、最新の製品でも短期間でコモディティ化する状況の中、人とは違う「自分だけのモノ」に対するニーズが高まっている。誰も持っていない服や家具を手にしたい、あるいは特別な人に世界に一つだけのモノをプレゼントしたい。こうしたニーズに応えながら躍進する企業がZazzleだ。

「全世界の人々に、想像し得るあらゆるものを作るパワーを与える」──をミッションとするZazzleは、多様な製品のカスタムメイドを可能にしたインターネットサービス。衣料、日用雑貨、アクセサリー、オフィス用品など、500種類以上のカテゴリーから製品を選び、自分好みにカスタマイズできる。従来のカスタムメイドサービスと異なるのは、そのwebサイトを見れば一目瞭然だ。

例えばプリントTシャツを作りたい場合、ベースとなるTシャツの形状を選択し、プリントしたい画像をアップロード。他のサービスの多くは、そのTシャツの平面画像とあらかじめ定義されたプリント枠に画像を重ねて表示するものが主流だが、Zazzleでは、着用時の状態を立体的に再現する。体の凹凸に合わせてプリント画像が変形し、実際、着た時にそのプリントがどのように見えるかを忠実に再現するのだ。

 

1つから制作可能なので自社オリジナルの販促グッズにも最適! ©Disney
1つから制作可能なので自社オリジナルの販促グッズにも最適! ©Disney

 

これによってユーザーは、最終的な仕上がりと着用時の両方のイメージを事前に確認することができる。Tシャツに限らず、ほぼすべての製品を立体画像で完成品のイメージを確認できる。特筆すべきは、その破壊的な価格だ。シンプルな無地のTシャツ+画像プリントの価格は1枚2,250円。安価なアパレル量販店のTシャツとほぼ変わらないのだ。

さらにここでは、自分がデザインしたものを販売することもできる。つまり製造設備や販売チャネルを持たない人や企業でも、デザインさえあれば商品をプロデュースし販売することができるのだ。あのディズニーでさえもZazzleのマーケットプレイスでオリジナル製品を販売しており、Zazzleで購入するディズニー製品はカスタマイズも可能だ。好きなキャラクターと自分のデザインを融合させた“ドリームグッズ”をココでなら手にすることができる。

もうおわかりのように、Zazzleは物理的なモノを作る製造業であると同時に小売業でもあり、製造工場や物流設備を保有している点では、他のデジタル・ディスラプターとは少し毛色が異なる。ただ競争力の源泉は、自社開発のソフトウェア、ハードウェア制御のテクノロジー、そしてデジタル化されたプロセスにある。ユーザーが画面で作成したデザインが工場の製造機械へ直結され、即時に製造を開始することが可能となった。また、彼らは一般の製造業やネット小売が保有せざるを得ない完成品在庫をほとんど持たない上に、受注生産型にもかかわらず注文から24時間以内の出荷(全製品ではないが)を可能にした。カスタムメイドをAmazonと同じ感覚で利用できるのは、まさにデジタル化の恩恵といえよう。

2015年のZazzleの売上高は280億円を超えるといわれ、その額も年々2桁増を達成している。だが驚くべきはそのローコストオペレーションが生み出す45%の粗利率。高いブランド力を持つアップルをも凌ぐ数字である。今後もZazzleは製品ラインナップを増やしていく計画だが、どのような製品市場に参入し、既存企業のシェアを勝ち取っていくのか、目が離せない。

 

 高度な言語能力を要する報告書やリポートを自動作成

つい最近まで、相手の発する言葉を理解して応えられるのは人間だけだった。ところが最新のスマートフォンには、言語を認識して応答する機能が標準装備され、ソフトバンクが開発した「pepper」は人が話しかけると適切な返答をする機能を持つ。とはいえ、こうした製品もシンプルな問いに対して単語を並べたような回答をするのがやっとで、「文章」を作成する高度な言語能力は持ち合わせていない。

そんな中、大量のデータから必要な情報を抽出し、パターンを見出し、報告書やレポートに記載する文章を自動的に作り上げるサービスがweb上で話題になっている。ドラえもんのひみつ道具の一つ、「もはん手紙ペン」のようなサービスを提供するのがNarrative Science だ。

Narrative Scienceは、「すべてのデータやスプレッドシートには伝えるべきストーリーがある」という思想で開発された。クラウド型のデータ分析サービスを用い、分析結果を記述した「文章」を提供する。決算情報などビジネスデータを基に、自然言語による文章を自動執筆する。しかも文章はwebの画面でデータを更新するたび、リアルタイムに更新されていく。すでに米『フォーブス』の記事やクレディ・スイスの金融レポートなどで実用化されている。

 

記事も人の手によらない日が来た!
記事も人の手によらない日が来た!

 

彼らが開発した高度な文章作成アルゴリズムの概略はこうだ。

まずインプットした生データからあらかじめ定義した関心事項だけを選別する。例えば金融レポートであれば、データの中から時系列の売上高や純利益などを読み取り、会計期間ごとの変動率などを計算し、文章に使うべきキーとなる事実を抽出する。

次に、何を一番伝えたいか、どんな項目を盛り込みたいかなど事前に定義されたルールを加味し、あたかも人間が執筆したような自然言語の文章の中に組み込む。

最後に、レポートの形式、文字数制限や文章のスタイル(長文、箇条書きetc)のフォーマットに当てはめれば、自動的に文章が完成する。当然スペルチェックも必要なく、人間の出番といえば最終確認とメッセージを加える程度のものだ。

近年話題となっているビッグデータの分析ツールは、データ分析とグラフィカルなレポートが特徴だが、Narrative Scienceは、そこに人が書いたような文章を添えたレポートを作ってしまうのだ。

気になるのは文章のレベルだが、プロが書いたものと見分けがつかないくらいのレベルの高さだ。小説やエッセイなど感情的で独創性が求められる文章の作成には不向きだが、自動化によって執筆者の言い回しの癖や主観といったものを取り除くことができるため、事実を客観的に伝える財務分析やスポーツのダイジェスト記事などには最適だという。

彼らは高度なAI技術を使ったアプリケーションを開発しているが、決して莫大なコストを掛けているわけではない。開発言語はPython やAngularJSといった汎用的で生産性の高いプログラミング言語で書かれており、開発もAmazon Web ServiceやGitHubなど、低コストで使いやすいプラットフォームサービスを駆使し行われている。非常に低コストでアナリストやジャーナリストを多数抱える企業と同等のアウトプットを提供しているのだ。価格体系は一般公開されていないが、アナリスト1名の年俸にも満たないコストで、数万の文書を自動生成することを可能にしている。

2010年に創業されたNarrative Scienceは、約35億円をベンチャーキャピタルなどから調達し、今後もそのアルゴリズムを磨いていくことで、さらに多くの分野で彼らの自動執筆サービスが展開されていくことだろう。

 

人が仕事を奪われる日は近い!?

今回紹介したZazzleは製造業やモノの購買のあり方を変え、Narrative Scienceは従来人間だけができた文章の執筆作業を代替する。今後、Zazzleが3Dプリンター技術を駆使してあらゆるものを短時間で、かつwebからのユーザーインプットを元に自動的に製造や販売をする時代になったら、世の中のモノには、もはやデザインの価値しか残らなくなるだろう。Narrative Scienceがインターネットという途方もなく膨大なデータを持つネットワークから有意な情報を集め、それを文章化することができるようになったら、マスメディアや調査機関などの仕事はどんどん置き換えられていくことだろう。

こうした企業の将来像を想像すると、2013年にオックスフォードマーチンスクールが発表した論文が提示した「今後20年でコンピューターに代替される可能性の高い仕事」が現実のものとなる日が近づいているのを実感する。これらの企業はマーケットシェアだけでなく、個々の人間の職業までも奪っていく潜在的なパワーを持っており、彼らがもたらす「破壊」は、むしろこれから起こるのかもしれない。

次回は連載の最終回として、デジタル・ディスラプターを生み出すプラットフォーマーたちについて紹介していきたい。

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連載第1回::デジタルが既存産業を破壊する

連載第2回:サプライチェーンを中抜きするデジタル企業たち

連載第4回: デジタル・ディスラプションの震源地

 


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