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Tradeshift導入インタビュー:
LINEが進める社内DX ー 財務と購買部門が連携し全社的な取引のデジタル化を推進

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個人間のコミュニケーションツールとして日本のみならず世界で広く利用されている「LINE」。メッセンジャーアプリとしてスタートしたサービスは、次第にその機能の幅を広げ、人 ・情報・サービス等あらゆるものをつなぐスマートポータルとして、ユーザーの生活をより便利にしてきた。今やユーザーの生活すべてをサポートするライフインフラとしても定着し、法人向けのサービスも拡充するなど常に進化と拡大を続けている。ただ、そのサービスを支える社内プロセスについてはあまり知られていない。LINEのサービスを運営するLINE株式会社(以下、LINE)は昨年、Tradeshiftを使って取引先との請求プロセスの電子化を始め、その後、注文書や見積書も電子化を開始。その先進的な取り組みを始める前にどのような課題があって、どのように解決していったのか。購買室 室長の梅田進也氏、財務本部主計室の上野僚晃氏に変革の経緯を伺いつつ、今後の展望を伺った。

DXを推し進める前の課題と解決に向けた動き

― 昨年から御社では購買プロセス全体のDXに取り組まれると思いますが、その背景や課題はどのようなものだったのでしょうか。

上野:2020年の新型コロナウイルス感染症によるパンデミックで、全社的に在宅勤務に切り替えていこうという動きがありました。ただ、オフィスに来なくても業務が回るようにするためには、膨大な紙面上の情報をオンラインのデータに変えていく必要がありました。その中で”紙面業務削減プロジェクト”が立ち上がり、コンサルティングファームと一緒に検討を進めていきました。
既存の紙文書をスキャンし電子媒体として保存するために電子帳簿保存法などの法対応を進めると同時に、紙文書を受け取るのではなくPDFで受け取ることを検討しました。ただ、PDFを受け取っても文字を書き起こさないといけないので、それを貰うだけでは紙を削減するだけで業務の負荷は変わらず、それを無くす為にまずは電子化(テキストデータ化)しようという方向になりました。


LINE株式会社 財務本部主計室 上野僚晃氏

― 単に紙を電子媒体に置き換えるだけでなく、データ化によって業務改善も進めることが重要ですね。紙面業務削減プロジェクトは、上野さんが所属する主計室の業務負荷軽減が中心だったのでしょうか。

上野:いえ。全社的に業務負荷をなくすことを目標にしていました。私は主計室の立場から、取引先から請求書を受け取り、その後支払い処理などをする業務フローにおいて様々な面で業務の負荷があることに改善の余地を感じていました。また、当社は多くのサービスがあり様々な業界と取引している関係で、多くの部門で請求書を受け取っていましたが、請求書のフォーマットがバラバラだったため、それを一元化していきたいとも思っていました。何より業務の改革をしていくところが1番の柱にありました。

― そしてそれを上野さんご自身が主導されたのですね。結構大きなプロジェクトでしたね。

上野:最終的に取引先とやり取りする各事業部の方も参加したので、100人を超える人がプロジェクトに関わっていたと思います。各部門でそれぞれのプロセスがあったため、プロセスの統一に向けて各部門の人を巻き込んでいった結果、途中からどんどん増えていきました。

梅田:この活動の前から取引の一部のプロセスにBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を活用していたため、部分的にはある程度効率化が実現していました。ただ、全社的に受け取る不特定多数からの請求書に対するプロセスは手付かずだったので、逆に請求書関連プロセスをBPO化する効率化のステップを飛び越えて電子化に行きやすかったのかもしれないですね。

― 梅田さんは調達部門ということで、全社の購買を仕切られていると思います。上野さんが進める取り組みをどのような観点で見ていたのでしょうか。

梅田:率直にいい案だなと思いました。購買室の課題としてはリソースが少ないということもあって、早く電子化しなければ、この先在宅勤務を進めるとどこかで壁にぶつかると考えていました。そしてそれは働き方が変わっていく中では急務でした。全社で受け取る請求書となると、まばらに請求書が各担当者に届き”請求書を机に置いた”状態になっていることや、様々な人が支払いを担当しておりプロセスも違うなど、統制がとれていないことが課題でした。なので、ある程度統制が取れている購買室が全社に先んじてやった方が、その後の展開やシステム連携もしやすいしという将来像もあり、まずは購買室から電子化を進めることを提案しました。


LINE株式会社 購買室 室長 梅田進也氏

Tradeshiftを採用した理由

― 請求書の電子化を進めていく、そして購買室から進めていくことが決まった。その中で、どのように具体的な施策やTradeshiftの採用を決定していったのでしょうか。

上野:当社の要件にあったサービスを探していく中で、最初は4社のサービスを比較して、検討の結果Tradeshiftを含め2社に絞り提案をお願いしました。Tradeshiftに決めた理由は2点あります。まずは分かりやすいUI(ユーザーインターフェイス)だと言う点ですね。取引先に請求書の電子化を依頼するときに手間は発生することは想像がついていたので、請求書を受け取る事業部に対しても取引先に対しても、わかりやすいかどうかが決め手の一つでした。もう一点は多言語対応です。LINEは国内に限らず海外でもビジネスを展開しています。請求書の受領も一番多いのは日本ですが、海外からのものもあります。海外の担当者は英語に限らず多種多様な言語を使い、取引先も同様なため多言語対応していること必須条件でした。

梅田:あとは拡張性ですね。弊社で使用しているシステムが色々ある中でそれらとのデータ連携のしやすさも重要な点でした。データでもらっても他のデータと連携されなければ意味がなく、その点は個人的にも重視していた点でした。

DXを進める際の課題や注力した点

― いざプロジェクトがスタートし、プロジェクトを進めていく中で、課題などありましたでしょうか。

上野:導入前の社内説明会に全部門の支払い処理の関係者を呼ぶ必要がありましたが、かなり多くの人数だったので、その説明会をするのに苦労しました。まずは9つくらいにグループを分け、それぞれに対し説明会を実施したのですが、中には1回では終わらない部門もあり、累計で30回は超えたのではないかと思います。

― かなり大変だったことだと思います。説明会の回数がそこまで増えてしまったのはなぜでしょうか。

上野:「今まで通り紙ではダメなのか」「なんで電子にするのか」などの声がありました。そのため何度も根気良く部門を説得しました。さすがに「やらない」というところは少なかったですが、大きな変革だったので「工数的に厳しすぎる」という話はありました。ですが、梅田さんの購買室はやる気満々で逆にすごかったです。

梅田:購買室も最初はスモールスタートで進めようと話していたのですが、購買室でサクセスストーリーを作った方が、他の事業部に「ここ(購買室)はうまく行きこういう風に楽になった」と言いやすいので、やるなら全て電子化しようとなりました。

上野:一番取引先が多い部署が一番電子化を進めていて成功していたため、他の部署が言い訳しづらくなったところはあります。購買室にはプロジェクトメンバーとしてほぼ最初から関わって頂いていたので、その影響でかなり動きやすかったです。

― 改革の本丸とも言える購買室が自らお手本を示す。それも決して楽なことではなかったと思うのですが、全社の模範となるくらい成功した理由は何でしょうか。

梅田:各担当がバラバラな対応をするのではなく、取引先への説明の仕方と問答集をマニュアルにしたことが良かったのかなと思います。また、弊社のホームページにもTradeshiftを採用する旨を記載したので、全社的な活動だということが取引先にも伝わり、協力いただける取引先が多くなったのが電子化が進んだ理由だと思います。購買室では今まではPDFで請求書をもらっていたところもありますが、それをTradeshiftに切り替えてデータで受け取るようになりました。

導入後に感じた効果・現場からのフィードバック

― 請求書の電子化は運用を始められて一年半になります。ここまでで業務改善効果を感じられたことや社内からのフィードバックなどあれば教えてください。

上野:取引先から請求書を受け取り、社内で確認して請求書を正式に受理するところまでのやりとりがメールなどではなくTradeshiftで完結できるところですね。また、社内のシステム連携がしやすく、予定通りのスケジュールで開発が進み完了できたので、そこは開発側からも良かった点だと言われましたね。

予想外の声としては、現場から請求書内でトークができるのが良いという声がありました。こちらとしては請求書が電子化されて業務が楽になった、という声が聞けるもくろみだったのですが、取引先とのコミュニケーションツールとしても使えて便利だというのは意外な反応でした。

― LINEさんからトーク機能を褒められるとは、弊社としても予想外で嬉しいです。使える機能はどんどん使っていく、というLINEさんの姿勢が素晴らしいからだと思います。システムとしては定着してきたと思うのですが、今取り組まれていることは何でしょうか。

上野:部門展開と取引先の参加率の向上です。取引先側のうち、個人事業主や小さい会社からは、ハンコも押さなくていいので非常に喜ばれるのですが、自社システムを持つ会社などからは嫌がられる場合があり、それが課題ですね。ただ、ボリュームとしてはそれほど多くはありません。Tradeshift に招待した企業は8〜9割近く対応して頂いています。ただ、電子請求の取り組みは事業部によってまだ取り組みが進んでないところもあるため、今後はそのような事業部に展開していきたいと思っています。

LINEの社内DXは今後も続く

― 請求書の電子化から始め、今は注文書、見積書などの電子化に取り組まれていますが、状況を教えてください。

梅田:請求書同様、見積書もPDFで受領する取り組みを行っていましたが、今は見積書もTradeshiftを使ってデータでの受信を始めました。見積書は請求書より取引先の入りがいいですね。一般的に見積書は取引先の営業担当が作るものなので、システム化などされていないことが多く、スムーズに使って頂けるケースが多いですね。むしろ他の文書もTradeshiftで出していいですか?という声が上がることもあります。また、見積書に展開したときは、TradeshiftのLINEのサポートページをフル活用して、説明動画を載せたので取引先にはTradeshiftの説明会を行いませんでした。また、見積受領後にLINEから発注する際の注文書の電子化の取り組みも最近始めました。

― 展開の速さに脱帽です。注文書は購買室が取りまとめて発行し、請求書は各部門の発注者が受け取るようなプロセスですね。

梅田:いえ。発注を取りまとめているので、今は原則、購買室が全社の請求書を受け取る担当に変わりました。購買室で間違いが無いか基礎的なチェックを行い、事業部の実務を担当者する人間に渡して支払い処理をするという作業をTradeshift上で行なっています。

― 業務の集約化までされたのですね!この見積書や注文書に電子化の範囲を拡張したことで業務にどのような影響がありましたでしょうか。

梅田:現場からは、見積書、注文書、請求書が同じフォーマットで来て項目も同じなのでチェックが楽になったと聞いています。請求書を電子化していただいた取引先はほぼ注文書も電子化されており、見積書はまだ始めたばかりなので、現状3〜4割ということですね。さらに、Tradeshiftや購買システムなど全てのデータを繋げるプロジェクトがあります。Tradeshiftと購買システムと会計システムを全て連携したいと思っています。

― 次々と改革の矢を放たれていて、驚きしかありません。今後の改革のポイントなどあればお伺いしたいと思います。

梅田:マッチングをやりたいですね。発注したデータと請求書データが一致していて条件を満たしていれば、人はチェックせずに支払伝票を進めて請求書は承認不要みたいな。それができれば一気にプロセスがなくなりますよね。”支払い(業務)レスプロジェクト”です。かなり大掛かりですが。(笑)

― それができるとかなり変わりますね。優れたビジョンだけでなく、それを実現する実行力を持っていらっしゃるからこそ、今の御社があるのでしょうね。これからも是非御社のDXの支援をさせていただきたいと思います。今日はお忙しい中、お時間ありがとうございました。


梅田氏と上野氏の言葉からは単純な理想だけでなく、それを実践してきた人間から発せられる言葉の重みと自信があった。LINEの社内プロセスの効率化はこうした実務家のエバンジェリストにより進められ、LINEの対外的なサービスの躍進を支える基礎体力になっている。今後DXを進める企業にとって、取り組みを進める参考になるのではないだろうか。

(インタビュアー:トレードシフトジャパン 菊池孝明)