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経理業務の効率化は平準化からはじめよう

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経理の業務は波がある仕事 ー 経理に携わる多くの方が感じていることでしょう。
月末月初には各部署から支払い依頼とその請求書が舞い込み、注文書との照合、請求内容のチェック、仕訳情報の付与、金融機関への支払い処理、経費精算・給与計算などの作業、そしてなんらかの不備があったときには担当者への確認や調整といった具合に忙殺されてしまいます。支払いだけではありません。入金も末日近くになると増え、請求書と入金の照合作業に工数を割かれてしまいます。

期末となれば忙しさはひとしおです。通常の月末月初の処理に加え、決算処理が追加されます。決算時期の真っ只中には深夜残業や午前様などは当たり前とばかりに、早めに夕食を済ませ、オフィスに戻る途中で業務中につまむスナック菓子を近くの売店で調達。その後は膨大な作業を黙々とこなす数日間が待っています。そして嵐のような決算を乗り越えた後は、経理課長がメンバーを誘って決算の打ち上げを開催し労をねぎらいます。その一方、定常時には定時で帰り、アフター5に習い事や家族とのコミュニケーションを取ります。

こうしたシーンは、おそらく多くの経理業務を担当された方、もしくは経理部門と関係の強い方であればよく知られた「あるある」だと思います。しかし、このような経理部門の忙しい時と余裕がある時で波がある業務を楽しんでいる方は少数で、出来ることならこの状態を解消したいけれど、仕方がないので「覚悟」してやっているという方が大半でしょう。

昨今の一部の企業の労働時間問題をきっかけに、長時間労働に対する世間の目も厳しくなっています。経理部門においても、この極端な業務の波を解消し、平準化に向けた取り組みをすぐにでも始める必要があるのです。

業務に波のある原因は「締め」

では一体何が原因で経理業務は波が激しくなるのでしょうか。経理業務では月末締め、期末締めなどサイクルが決まっている業務が多く、これらは「締め日」前後に処理が集中します。この締め日こそ業務に波がある根本原因です。

しかしこの締め日をなくすことはできるのでしょうか。
当然ですが、すべての締め日をなくすことは難しいでしょう。たとえば上場企業の場合、決算のスケジュールを守らなければ上場を継続することが難しくなるため、決算関連の締め日は対外的な理由もあり変更は困難です。

そこで外的な要因で行っている締めではなく、社内ルールとして定めている締めに注目してみましょう。日本の企業では非常によく使われている「月末締め翌月末払い」。これは決して法律で決められたルールでもなければ上場の条件でもありません。通常、自社で定めている独自のルールなのです。

過去に「大量生産こそ効率的」と叫ばれた時代がありました。その頃はコストを下げるために業務処理のバッチサイズを大きくし、いかに仕事をまとめるかということが業務効率化の唯一の実現方法でした。月中に完了している仕事でも処理をまとめて行うという仕事の方法はその当時の名残です。「月末締め翌月末払い」は実は日本特有の商慣習であり、欧米では請求をまとめることはあまり行われていません。通常は受注した仕事が完了した時点でその分の請求を行うのが一般的です。注文と請求は1対1に対応しているため、注文と請求を照合する作業も単純なものです。

この月末締めを排除し、取引先からまとめて請求書をもらうというルールを変えて、仕事の納品が終わったらすぐに請求書をもらうことにします。まとめるのではなく仕事の完了都度、請求書を受領し定常的に照合作業や支払い処理を行うことで、月末月初に処理する請求書は月末月初に受領するものだけとなり、経理業務の平準化が可能になります。経理部門では繁忙時の業務量に合わせて人員を配置し、定常時には余裕人員が発生する場合もありますが、この余裕人員を削減することができるようになります。
平準化は残業を抑え労働環境を改善することに加え、コスト削減にも貢献できるのです。

平準化を進めるためのステップ

しかしながら、上記で述べた平準化を現状のプロセスにそのまま導入すると作業ボリュームが増えるだけで逆効果になる可能性があります。よって、平準化施策を進める準備として、以下のような仕組みの整備が必要です。

1) 請求書のデジタル化
現状の業務プロセスを維持したまま都度請求に切り替えると、取引先から受領する請求書、経理が処理する仕訳作業、社内で原本を回す処理などが増え、経理担当者の机は紙の山となってしまうでしょう。これによって業務に混乱が生じる可能性もあります。したがって都度請求でも業務負荷を増やさないよう、電子請求に切り替えるなどの対策が必要です。請求書を紙で10通受領するとデータ入力や確認・仕訳作業が大変ですが、データで10通来るのであれば、データ入力の必要がなく、注文書との照合や仕訳作業などもルールベースで自動化することも可能です。支払い承認を回すにも原本を添付して紙で回覧することは不要です。まずは紙のプロセスを廃止し、クラウドサービスなどを利用した電子請求に切り替えることで、都度請求に変更しなくても業務負荷の軽減が可能になるのです。

2) 支払い日、締め日を変える
電子請求により請求書処理業務が効率化され、ボリュームの増加にも耐えられる体制が整った後は、取引先に都度請求への協力を依頼する必要があります。ただし、取引先にとっては単に請求のタイミングを変えるよう依頼を受けても、自社のプロセスを変えるだけのメリットがないとなかなか進まないでしょう。そこで取引先にもメリットが生じるよう、支払い日とその締め日のサイクルを短縮することが必要です。具体的には週末締めの翌週払い、あるいは10日、20日、月末締めの10日後払いなどに、サイクルを短縮するのです。請求がそもそも月末に集中しているのに、締めのサイクルだけを短縮するのは経理の負担を増やしているだけです。まずは締め日を増やすだけで、支払いまでの期間は変えなくてもよいかもしれません。支払いの回転数を増やすことは次のステップで取引先の協力を得やすくなるので推奨します。

3) 都度請求への協力を取引先に要請
社内の準備が整ったところで取引先に都度請求への協力を打診しましょう。取引先にも社内の請求書発行ルールがあるため、すべての取引先がすぐに都度請求に切り替えることはありません。たとえば人材派遣など月末まで仕事をして初めて請求額が確定するようなケースは、従来通り月末締めの請求となるでしょう。ただし物品販売や、故障修理などの随時契約の購買に関しては、月でまとめずにそのまま請求書を発行してもらうように要請してみましょう。ここで、2)で行った支払いサイクルの増加が効いてきます。取引先は早く請求書を出せば、早く支払いを受けられるのです。自社の資金繰りに苦労している取引先ならば、そのオファーを喜んで受けてくれるでしょう。

平準化は一夜にしてならず

この平準化の取り組みは、製造業においては昔から現場で行われている効率化の手法ですが、製造ラインだけの話ではなく、あらゆる業務で適用可能です。経理業務の平準化を現場に導入するにはさまざまな検討事項があり、自社のプロセス改革と啓蒙活動、取引先の協力があって実現できるものです。そのため、短期間で達成されるものではなく、完全な平準化までは果てしない改善の道となるでしょう。

平準化を長期的なゴールに置き、ゴールまでにいくつかの中・短期的な通過点のチェックポイントを設け、上記に挙げた一つ一つのステップ・改善を積み重ねることが、社内改革に繋がります。経理業務の効率化を検討中であれば、一つの案としてお考え頂くのはどうでしょうか。