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DXをグローバルスタンダードで考えるべき理由 日本企業の成長を妨げるガラパゴス化

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日本は「ものづくり」の分野において、高い品質と生産性において世界をリードしてきました。中でも電子機器や自動車産業において高い国際競争力を誇る日本メーカーは多く、日本の「ものづくり」の優秀さは世界から称賛を浴びています。しかし、IT産業に関しては先進国と比較すると、多くのグローバル企業を輩出しているとは言い難いのが現状ではないでしょうか。そして、それらが日本企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)の遅れにも少なからず関与していることが考えられます。

ソフトバンク代表取締役社長兼CEOの孫正義氏が、2013年にソフトバンクワールドの基調講演で「Digital or Die」という言葉を用いて以降、従来ITとは無関係であった業種・業態でも、DXの重要性が指摘されています。「デジタル化か、それとも死か」―過激な表現ではありますが、「2025年の崖」が危惧される日本においては8年前の孫氏の言葉が現実味を帯びてきています。早期にDXを推進し、この課題をいかに乗り越えるかが、すべての日本企業の経営課題と言っても過言ではありません。そして、課題解決の鍵を握るのが「グローバルスタンダード」です。

ITで覇権を握る日本のグローバル企業はまだ存在しない
IoT、5G、AI、RPA、ビッグデータ、クラウドなどのデジタル技術の普及により、人々の暮らしは大きく変わろうとしています。いつ・どこにいてもインターネット環境で情報を享受でき、国をまたいで距離を超えて、即時で容易にコミュニケーションが取れるようになりました。否応なしに世界はデジタルへの変革の大波に飲み込まれる事態に発展しています。それは当然、ビジネスにおいても同様です。多くの企業で リモートワークの導入が進むなど、働き方においても大きな変革期を迎えつつあります。

こうした技術革新を先導するのは、ビッグ・テックと呼ばれるアメリカのグローバル企業5社です。Google(Alphabet)、Amazon、Facebook(Meta)、Apple、Microsoftの頭文字を取って「GAFAM」とも称されるなど、DX推進においても先端のサービスを提供する世界でも指折りのリーディングカンパニーと言えます。また、GDPで世界第2位の中国でもバイドゥ(Baidu/百度)、 アリババ(Alibaba/阿里巴巴)、テンセント(Tencent/騰訊)、ファーウェイ(HUAWEI/華為)のグローバルIT企業の4社が「BATH」と呼ばれ、GAFAMに勝るとも劣らない勢いで世界基準のIT技術を提供しています。

一方、そうした各国の先進IT企業の台頭の陰に隠れているのが日本企業です。世界最大のブランディング専門会社であるインターブランドが発表した「Best GlobalBrands2021」ではTOP20にGAFAMやSamsung、SAPなど世界各国のIT企業が名を連ねる中、GDPで世界第3位の日本からはトヨタ自動車が唯一7位に順位づけされ、従来からの日本の強みである「ものづくり」企業だけがかろうじてランクインを果たしています。日本にはまだ世界に通用するIT企業が存在しないと言えるでしょう。

ガラパゴス化は1つの業界さえも衰退させる
日本がIT産業において他国の後れを取っている理由としては、日本のIT企業が国内での独自仕様を追求するがあまり、世界のトレンドとは別方向性を進む「ガラパゴス化」が指摘されています。開発した製品や仕様は国内では大きな売上を達成しても、海外では同様の売上が望めないのが現実です。ボーダーレスなインターネットの世界において世界の「亜流」となってしまうため、長期的に市場で生き残ることが難しくなり、結果としてグローバルに展開するIT企業が少ないという状況に陥っていると考えられます。

その一例が日本のモバイル業界です。1990年代後半の日本の通信技術は世界でもトップクラスに位置していました。1999年にNTTドコモが「iモード」をリリースして以降、携帯電話からインターネットサービスが利用できるようになるなど、革新的技術を遺憾なく発揮。モバイル端末も次々と新しい機種が発売されるなど、その勢いや進化は止まりませんでした。しかし、それは日本国内でヒットすることを目指した技術革新の域を脱しませんでした。

日本では一時代を築きましたが、事実として日本人向けに特化したプロダクトだったがゆえに世界には広まっていません。やがて携帯電話市場の主役がスマートフォンに移行すると、世界で主流となった「iPhone」「Android」が日本市場でもシェアを広げ、日本の携帯電話メーカーは後塵を拝すことになります。ガラパゴスであるがゆえに、日本の携帯電話市場では一定期間にわたり海外からの新規参入を抑制してきましたが、技術革新によって市場に変化が生じた時に、あっという間に世界のデファクトスタンダードに市場を支配されてしまった事例と言えるでしょう。

DXはグローバルスタンダードの採用により可能性を広げる
世界の潮流には乗らず、ガラパゴス化する傾向がある日本企業。では、日本からグローバルなIT企業が生まれていないことによって、日本企業のDXにどんな影響があるのでしょうか。

IT関連産業が他の産業に比べて変化のスピードが速いことは、言うまでもありません。日本で広く普及しているLINEが2021年6月に10周年を迎えましたが、今やライフラインとも呼べるサービスは10年前には存在すらしていなかったのです。コロナ禍でのニューノーマルな暮らしにおいて当たり前となったフードデリバリーのUber Eatsは2016年にスタートしており、たった5年で人々の生活に浸透したサービスになりました。そして、今後も数年という短期間で、人々の生活や企業活動は変わっていくはずです。

企業がDXを考える場合、このITの進化の速さは必ず意識すべきでしょう。未来を正確に予測することは困難なため、DXの施策はさまざまな市場環境に応じて柔軟に方針転換できる基盤を持つことが必要になります。ガラパゴス化した、特定の地域にのみに限定された製品・サービスをDXのツールとして選んだ場合には、地域や業務範囲が限定されるだけでなく、市場の変化にも対応できません。そのため、数年後には再度抜本的なIT投資が必要となる場合もあります。DXに活用する製品やサービスも汎用性や拡張性、柔軟性を備えている必要があり、DXにおいても「グローバルスタンダード」を意識することが、結果的にIT投資に失敗するリスクを下げることにつながります。

民間企業だけでなく行政においても、グローバルスタンダードの採用が進んでいます。日本では2023年10月から「インボイス制度」が導入されますが、この制度へのスムーズな移行に欠かせないのが、電子化されたデータ形式でやりとりされる請求書、いわゆる「電子インボイス」です。国内における電子インボイスの仕様は2020年7月に設立された電子インボイス推進協議会の中で検討が進められ、従来日本で使われていた仕様などの利用も選択肢に含まれていました。しかし、結果的にヨーロッパで生まれ世界に広がった標準規格「Peppol」仕様をベースにした規格の定義が進められています。

今、この瞬間にも世界では新たな革新的なデジタル技術が発明され、将来のデファクトとなる技術が生み出されています。どの技術を自社のDX基盤に採用するかは、DXを推進する担当者の最大の悩みと言えるでしょう。しかし、その意思決定の際には、身近な国内技術だけを検討するのではなく、世界ではどんな技術がスタンダードになりつつあるかにも、同様に目を向けることを意識すべきだと言えます。