2025年10月、LINEヤフーが運営する「Yahoo!検索」は、新たなテレビCMの放映を開始しました。その内容は、タレントの内村光良さんを「日本のこと もっと聞き大使」として起用し、「Yahoo!検索を利用しよう」と呼びかけるものです。日本最大級のポータルサイトYahoo! JAPANを運営する同社が、主力サービスである「Yahoo!検索」の利用を改めて促す背景には、台頭著しい生成AIの浸透に脅威を感じている側面があると言えるでしょう。
日本で隆盛を極めたYahoo!だけでなく、世界の検索市場で長らく1強時代を築き上げてきたGoogleも同様に危機感を覚えているかもしれません。「ググる」という造語が国内で市民権を得たように、ほぼすべてのネットユーザーが日常的に頻繁にGoogleのネット検索を活用してきました。それが生成AIに代替されるかもしれない事態が起きています。生成AIの利用が瞬く間に浸透した昨今において、旧来のSEO(検索エンジン最適化)対策などは意味を成すのでしょうか。AI検索のトレンドも含め、その近未来像に迫ります。
ネット検索から生成AIへの移行は10代など若年層が顕著
「最近、検索エンジンをあまり使わなくなった」「ChatGPTやGeminiがあれば検索は不要」などの声を聞くようになった方は多いかもしれません。OpenAIがChatGPTをリリースし、生成AIのテクノロジーの利便性が世間に広く知れわたってからは、Claude、Gemini、Perplexityなど多彩なサービスが各社から間髪入れずに登場。それぞれの生成AIを用途別に使い分けるユーザーが増えつつあります。すでに「ネット検索は完全に生成AIに代替されている」との見方もありますが、実際のところはどうなのでしょうか。
国内最大手のインターネット広告代理店サイバーエージェントが運営するGEO研究専門組織「GEO Lab.(GEOラボ) 」は、2025年9月に「生成AI利用の実態調査」を発表。その内容は、10代の検索行動としてChatGPTの利用率が42.9%という数字を叩き出し、さらには全世代を通じてChatGPT利用者の7割が検索エンジンの代替とし始めているという衝撃の結果でした。

サイバーエージェント GEOラボ「生成AIのユーザー利用実態調査」(https://www.cyberagent.co.jp/news/detail/id=32480)より引用
特筆すべきは、10代を中心とした若年層の検索行動の変化でしょう。10代の「ChatGPT」の利用率が半数に迫る42.9%に達し、冒頭で触れた「Yahoo! JAPAN」の31.7%を10ポイント以上も上回る結果が出ています。一方、どの世代も「Google」の利用率が70%を超えているのも実情であり、まだまだ検索の覇権交代までは至っていないと言えるでしょう。しかし、この調査を翌年に再度実施した場合、数値はさらに生成AIへの移行が色濃く反映されることが予想されます。

「サイバーエージェント GEOラボ「生成AIのユーザー利用実態調査」(https://www.cyberagent.co.jp/news/detail/id=32480)より引用
さらに、同調査では検索エンジンの代替として生成AIを利用しているユーザー(n=1,337)に対し、検索エンジンから生成AIへの切り替わりの度合いを質問。全体の30.1%が「検索エンジンから生成AIに半分以上切り替わっている」 と回答しました 。生成AIのヘビーユーザー層に関しては、すでに検索エンジン離れが加速しているようにも捉えられます。特に10代(35.8%)と20代(35.4%)は割合が他の世代より高い傾向にあり、インターネット黎明期からGoogleに慣れ親しんだ世代とは異なり、若年層はよりフレキシブルに自身が活用するツールを取捨選択している傾向が読み取れました。
GEOラボの調査は、それぞれのユーザーの肌感覚ではなく、社会全体における検索エンジンから生成AIへのパラダイムシフトを予感させる内容だったと言えるでしょう。ただし、単純に検索エンジンが衰退して、生成AIだけが活用されるという未来も現状では想起しにくいのではないでしょうか。今後のユーザーの検索エンジンと生成AIの使い分けについても検証する必要がありそうです。
LLMO・AIO・AEO・GEOなどのAI検索対策とSEOとの違い

従来までのWebマーケティングにおいては、多くの企業が検索エンジンでの上位表示を目指したSEO(検索エンジン最適化/Search Engine Optimization)対策に力を入れていました。しかし、ユーザーが検索エンジンから生成AIへの移行傾向にある中で、今後もSEO対策を力を入れていくべきなのかは各社Web担当者も頭を悩ますところではないでしょうか。検索ニーズにおけるAI対策を検討する上でも、まずはSEOから代替される可能性があるWeb施策であるLLMO、AIO、AEO、GEOについて情報を整理しましょう。
▼LLMO(大規模言語モデル最適化/Large Language Model Optimization)
大規模言語モデル(LLM/Large Language Model)とは、ChatGPTやGeminiなどに代表される大量のデータとディープラーニング(深層学習)によって構築された言語モデルです。そしてLLMOとは、これらのLLMが回答を生成する際に、自社のコンテンツを信頼できる情報源として認識させるための施策を指します。本質的な内容が簡潔にまとめられているなど、情報の明瞭さがキーポイントです。
▼AIO(AI最適化/Artificial Intelligence Optimization)
LLMOと同じくAIにキャッチアップさせるための施策です。FAQ(よくある質問)などの一問一答形式のように、質問された問いに対する明確なアンサーがサイト内にあると、施策としての精度が高まります。検索対策以外では、音声アシスタントやチャットボットなどに活用される回答ベースのやり取りに幅広く活用されています。一昔前よりAIによる自動返信の精度が高まっているのは、AIOの進歩が挙げられるでしょう。
▼AEO(回答エンジン最適化/Answer Engine Optimization)
ユーザーが感じる疑問や投げかけられた質問に対しての解を提供するための施策です。知らないことは検索すればネットで出てきますが、検索結果で出てきたサイトを隈なくチェックするのも骨が折れる作業なだけに、それをより効率化するための取り組みとも言えます。例としては、サイトを開かずとも答えを知りたいゼロクリックサーチに対応したGoogleの「AI Overviews」が挙げられます。とくに重要なところをわかりやすく明記する強調スニペットは、検索ニーズに対するより直接的なアンサーです。
▼GEO(生成エンジン最適化/Generative Engine Optimization)
大規模言語モデルなどの生成AIによる回答のために、自社コンテンツが利用されやすくするための施策です。生成AIもアウトプットの精度を高めるために、常に学習してチューニングを行うため、参照元としての情報の精度を高めることが求められます。要するにAIに参考にしてもらうための情報源となるための施策と言えます。そのため、正確性や独自性を追求することで、AIにも価値や精度が高い情報と認識されやすくなるでしょう。
LLMO、AIO、AEO、GEOと、近年のAI検索のキーワードについて改めて紹介しましたが、詰まるところ、言葉は違えど施策内容は似通っていることにお気づきでしょうか。もちろん、細かな施策を練る場合はそれぞれを細分化して考察したほうが良いことは間違いありませんが、確たる情報をわかりやすく、明快にするという点においては、AI検索における共通項と言えるでしょう。
一方で、SEOとの大きな違いとしては、想定ターゲットが人のSEOに対して、AI検索はAIに評価されることを重視する点です。SEOでは、ユーザーが検索窓に入力する主観的なクエリに対し、その意図(ニーズ)を汲んだ検索結果を表示することが求められます。これは、より客観的なデータや情報に基づいて回答を生成するAIとの違いと言えるでしょう。
対象が人なのか、AIなのかにとらわれすぎずに正確性の追求を

「SEOはオワコン」などの噂が巷では聞かれますが、ターゲットとなる人を自社のコンテンツにランディングさせる施策としては、AI全盛時代においても変わらずに重要であると言えます。なぜなら、AIに評価されるコンテンツやサイトを制作することはもちろん重要ですが、その施策によっていかに事業をマネタイズできるかは、SEO施策ほど探求・開発されてはいないためです。逆説的には、サイト内のAI評価を高めて収益を確保するノウハウを構築できれば、AI全盛時代におけるレッドオーシャンをかいくぐり、業界のトップランナーとしてライバルに差をつけるチャンスとなり得ます。
しかし、Web施策において対象が人であれ、AIであれ、重要なのは情報の正確性と対象ニーズとのマッチングです。その本質は検索エンジンから生成AIにメインツールが移行し始めている現代においても変わりません。そのため、単に「AI検索対策をしなければ時代に乗り遅れる」と右往左往するのではなく、この高度情報化社会において、どんな情報を世の中に発信すべきなのかを、今一度見極めることが大切でしょう。情報の正確性と、受け手(人やAI)にとってのわかりやすさが、今後のWeb施策の根底を成すことは言うまでもありません。
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