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自社ビジネスをサブスク化する利点 LTVを意識したストック商材の活用法

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2020年代半ばを迎えた現代において、サブスクリプション(Subscription)という言葉をまったく見聞きしたことがない方のほうが珍しいかもしれません。「通称:サブスク」は、月または年単位で定期的に料金を支払うことでコンテンツやサービスを利用できるビジネスモデルを指します。NetflixやAmazonプライム・ビデオに代表される動画配信サービス、SpotifyやApple Musicなど通勤・通学などのお供になる音楽配信サービス、さらにはKindle Unlimitedなどの書籍・雑誌読み放題サービスなど、BtoC向けのビジネスで例を挙げれば、それこそ切りがないくらい世の中に溢れているでしょう。

一方でBtoB領域での企業間取引においても、サブスクの手法が取り入れられるケースが増えてきています。サブスクは一定期間の継続が見込めるストック型のビジネスなので、事業の安定や顧客の囲い込みをという観点においては、非常に効果的かつ効率的な選択であると言えるでしょう。では自社ビジネスをサブスク化するうえではどのようなことを意識すべきでしょうか。LTV(Lifetime Value/顧客生涯価値)視点を重視するうえでのサブスクの活用法を探ります。

実は昔から浸透していた?サブスクリプションの歴史と起源

サブスクが世の中に広く浸透した要因としては、2010年代のスマートフォンの普及が挙げられます。モバイル端末の性能が格段に高くなったことで、動画や音楽などの配信サービスの質も劇的に向上しました。スマホ所有が当たり前になったのと同様に、人々がサブスクを活用し社会に定着したのも自然な流れだったと言えるでしょう。現在のサブスクの仕組みは近年のテクノロジーやデジタルをベースにしていますが、ストック型ビジネスとしての根本的な考え方は、はるか昔から社会に広く浸透していました。

実はサブスクの起源は、ヨーロッパで始まった新聞の定期購読だと言われています。新聞の定期購読が始まるまでは、欲しい物に対価を払って購入する買い切りのビジネスモデル(OTV/One Time Value)で商取引が行われていました。しかし、常に日々の最新情報を手に入れたい場合や、新聞を毎日購入している人にとっては、都度支払いの対応をすることが面倒に感じるようになるのは至極真っ当な流れです。こうして新聞の定期購読や配達というストック型ビジネスへ波及が進みました。

月々で定額の支払いをしてその分のサービスやコンテンツを購入者が活用する仕組みは、確かに新聞の定期購読で古くから実施されてきました。現在、世の中に浸透しているサブスクとは印象は異なるかもしれませんが、LTVを意識したビジネスのルーツは新聞にあったと言えるでしょう。そして、時は流れて日本においては2019年に「サブスク」が流行語大賞にノミネートされるなどサブスク元年を迎えました。ストック型ビジネスは進化を遂げつつ、時代に合わせた形でサービスやコンテンツに落とし込まれているので、今後も時代の潮流に合わせてサブスクがさらなる進化を遂げても何ら不思議ではないでしょう。

サブスクビジネスを展開するうえで押さえておきたい概念

もし今後、サブスクビジネスを自社展開することを検討するとしたら、まずは概念から押さえておくことをおすすめします。先にサブスクとは反対の概念であり、買い切りであるOTVのビジネスモデルと比較してみましょう。動画や音楽の配信などBtoC向けのサブスクの対比として、イメージしやすいOTVとしてはペイ・パー・ビュー(PPV/Pay-Per-View)が挙げられます。特定のコンテンツ視聴において、都度料金を支払う課金形式のサービスであり、スポーツや格闘技などの配信において広く浸透しているスポット型ビジネスです。

BtoBにおいてOTVが重要になる事業としては、不動産などが具体例に挙げられることが多いでしょう。土地や建物は一つとして同じ条件の物がなく、常に開発や営業の必要性があるスポット型ビジネスです。もちろん、不動産で賃貸経営を行うなどの場合はストック型ビジネスに該当しますが、地価は常に変動することもあり、その瞬間の売買や価値が非常に重要になる点がOTVの代表格である最たる理由です。

一方のサブスクに関しては、前述しているようにストック型ビジネスであり、企業がいち顧客から得られる利益や価値を長期的に試算するLTV視点で考えることが大切です。サブスクは継続利用を前提としており、長期間を多くの顧客に活用してもらうことで収益性の安定感が高まります。解約や競合へのリプレイスを防ぐためにも、提供サービスやコンテンツの質を常に高水準でキープしたうえで、機能やテクノロジーのアップデートは常に欠かせません。

サブスクと聞くとどうしても、動画や音楽などの配信関連のBtoC領域をイメージしがちです。しかし、BtoB領域においてもサブスクのビジネスモデルはすでに広く浸透しています。たとえば、Tradeshiftを筆頭に クラウドで活用できるSaaS(Software as a Service)が、企業間取引のデジタルシフトを実践しており、既存ビジネスからの変革・変容に一役を買っています。BtoBにおけるサブスクの代表格はSaaSではありますが、今後はより発展・派生したサブスクの新しい形が生まれてくるかもしれません。

また、サブスクビジネスを展開するうえでは、売上や利益を把握するための指標をきちんと把握しておきたいところです。そのうえで注視すべきは、「ARPU」という指標です。Average Revenue per Userの頭文字を取った言葉であり、主に単月での1ユーザーの平均単価を意味します。ARPU を求める式は「ARPU = 売上 ÷ ユーザー数」です。そのため、BtoC領域においては重要ですが、BtoB領域においてはクラウドで複数の端末でのサービス利用ができるケースが多く、ARPUで正確な平均売上を求められないケースもあります。

そこで重要になるのが「ARPA」です。Average Revenue per Accountの略であり、1アカウント(契約)の平均単価を意味します。そのため、ユーザーが複数いたとしても、アカウントを指標とするため、契約数で売上や利益を計測します。計算式としては、「ARPA = 売上 ÷ 契約数」となるため、BtoB領域のサブスクビジネスにおいては、ARPAを指標にして収益性を分析しましょう。

情報やサービス過多の時代においてはLTVが収益増の鍵


先述したように、かつて新聞が売り切りのビジネスから定期購読というストック型ビジネスを開始しました。なぜかというと、ユーザーのニーズがあった点ももちろんですが、効率的に収益を高めるための最適な手段だったと言えます。ビジネスを広げるうえでは新規開拓が重要なのは言うまでもありませんが、成果の8割は、全体を構成する2割の要素(既存顧客)から生み出されている点は無視できません。これを「パレートの法則(8:2の法則)」と言いますが、既存顧客から収益を確保するLTV視点でビジネスを考えたほうが、確実に効率的であり、長期的な見立てをしやすい点も大きな利点でしょう。

一方で、新規顧客の獲得やスポット型ビジネスがまったくなくていいというわけではありません。しかし、インターネットを通じてさまざまな情報が飛び交う高度情報社会においては、どんなに良いサービスを開発したとしても、それをまず見つけてもらわないとビジネスは成立しません。また、類似のサービスを提供する競合企業も多い中で、常に競合優位性を保たなければ現代では生き残ることは難しいでしょう。だからこそ、企業にとっても単に売るというビジネスではなく、顧客とともに成長をして成功を収めるというビジネスモデルを確立することが大切です。その解の1つがサブスクであり、ストック型ビジネスによるLTVなのかもしれません。

もちろん、商材の向き不向きはあるため、すべてをサブスク化する必要はないでしょう。しかし、移り変わりが早い時代において、競合に先手を取って顧客を囲い込むためには、商流における発想の転換は不可欠です。もし、顧客評価が高く、継続してご発注をいただけているにもかかわらず、ストック契約に至らない事案があった場合は、アイデアを駆使して商材のサブスク化などを大胆に検討してみてはいかがでしょうか。特に人口減少が進む日本社会においては、既存顧客の収益性をいかに高められるかが至上命題となるでしょう。

 

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