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シリアルアントレプレナーとは? 日本発のスタートアップの可能性

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世界の他の先進国に比べ、日本ではビジネスにおける新しいイノベーションが生まれにくい土壌だと言われています。技術革新が頻繁に起こる現代社会においては、経済発展期に安定的な労働環境を保障していた年功序列や終身雇用など日本式雇用制度も、もはや旧態依然との認識が広まりつつあります。実際にシリコンバレーからGoogleやAppleなど世界的IT企業が誕生しているアメリカや、バイドゥ、アリババ、テンセントなどを輩出している中国と比較すると、日本が後塵を拝している感は否めません。

しかし、国内において日本初のスタートアップとして世界を目指す志の高い企業も存在します。特に常に起業を繰り返すことで巨万の富とノウハウを手にし、日本経済界での存在感を高めているやり手の経営者が複数存在します。それが近年、話題にあがることが多い「シリアルアントレプレナー(連続起業家)」です。なぜ新規事業を立ち上げるという大仕事を連続でこなしているのか。その狙いやビジネスモデル、人物像にも迫ります。

新規事業を何度も立ち上げるシリアルアントレプレナー(連続起業家)とは

帝国データバンク 2024年「新設法人」動向調査より引用

帝国データバンクの2025年5月リリースの2024年「新設法人」動向調査によると、2024年の日本国内の新設法人数は15万3789社と発表されています。23年を0.6%上回り、879社増という結果となり、集計可能な2000年以降で年間最多を更新しました。日本では2014 年ごろから現在に至るまで「第4次ベンチャーブーム」と呼ばれる時期に入っており、ベンチャー投資額は右肩上がりの状態にあります。AI、IoT、FinTech、宇宙ビジネスやバイオテクノロジーなどを筆頭に、既存事業に新たなテクノロジーを融合させたビジネスモデルで起業を目指すケースが増加中です。

「スタートアップ4.0」とも称される昨今において、起業にチャレンジすること自体は珍しくありません。その一方で、すでに起業で成功している実業家が、複数回にわたって新規事業の立ち上げを繰り返すというケースが多く見聞きされるようになりました。一度の起業だけに留まらず、連続して起業する実業家のことをシリアルアントレプレナー(Serial Entrepreneur)と呼びます。

日本語では連続起業家と表現されますが、その呼称で近年、名を馳せているのが株式会社 BACKSTAGEの代表を務める溝口勇児氏です。フィットネス事業からキャリアをスタートさせた溝口氏は、2012年に株式会社FiNC Technologiesを設立。総額150億円超の資金調達、1200万のアプリダウンロード数を獲得するなど、事業で大成功を収めた後に2019年12月に代表取締役社長を退任。その後、2022年4月に株式会社BACKSTAGEを創業し、「REAL VALUE」「No Border」などのYouTube番組を世の中に発信し、格闘技イベント「Breaking Down」のCOOも務めています。

溝口氏のような連続起業家の特徴としては、1つの事業に凝り固まることなく、次々と新しい事業展開にチャレンジすることです。アントレプレナーシップ(起業家精神)が旺盛であることはもちろんですが、事業を成長させてリリースすることで巨額の利益を得られるなど、経営者としての狡猾なビジョンを持ち合わせていることが重要になります。1つの事業で成功したからと言って守りに入ることなく、M&Aによる事業譲渡や売却を繰り返すことで多くのキャッシュを手にし、より大きな事業に投資する布石とするのがシリアルアントレプレナーのビジネススタイルなのです。

起業には大きなリスクが伴うと考える方が多いかもしれませんが、帝国データバンクの調査(※)によると、日本における起業後の企業生存率は、1年で94.0%、5年でも80.7%と他の先進国と比較しても高い数値を叩き出しています。そうした実績も踏まえ、臆することなく連続して事業立ち上げを行うことで他では得られないような成功を収めている実業家が多数存在するというのは、紛れもない日本の現実なのです。

帝国データバンク「令和4年度中小企業実態調査委託費 中小企業の新たな担い手の創出及び成長に向けたマネジメントと企業行動に関する調査研究報告書」

 

国内外のシリアルアントレプレナー(連続起業家)の実情

AppleやGoogle、Intelなど世界的に名高い多くのIT大企業の本社があり、今後世界を席巻するかもしれないスタートアップが集積する「起業の聖地」として知られているシリコンバレー。アメリカのカリフォルニア州北部にあるサンフランシスコ・ベイエリア一帯を指すこの地域は、世界中の起業家が常に熱い視線を注ぐスポットです。シリコンバレーを筆頭に、起業大国として世界をリードするアメリカでは、起業家の1/3がシリアルアントレプレナーであると言われています。その事実は、実績と資金を有する実業家が新たなビジネスを起こしやすい土壌が整っていることの証左とも言えるでしょう。

そんなアメリカには、世界で最も有名なシリアルアントレプレナーがいます。アメリカ・フォーブス誌による2025年版の世界長者番付で1位に輝いたイーロン・マスク氏です。3420億ドル(1ドル150円換算で51.3兆円)を有する世界一の富豪ですが、シリアルアントレプレナーとしてさまざまな事業を立ち上げ、それぞれの業界にイノベーションを起こしている点が特筆すべきところでしょう。

自動車業界に革命をもたらした電気自動車「Tesla」を筆頭に、宇宙開発事業「SpaceX」、現在のオンライン決済システムの基盤を築いた「PayPal」、そしてつぶやきのSNSとして有名な旧Twitterを買収し、「X」としてプラットフォームの運用を行っています。起業大国アメリカのシリアルアントレプレナーは、世界経済に与える影響力は計り知れないものがあります。

一方で、国内においても先述した溝口氏の他にも有望なシリアルアントレプレナーが多数存在することをご存知でしょうか。アメリカ・フォーブス誌によって「日本を代表する連続起業家」に選定された家入一真氏は、平成初期からインターネットサービスを立ち上げ、クラウドファンディングサービス「CAMPFIRE」やECプラットフォーム「BASE」を創設。個人や小規模事業者のビジネスを支援し、令和の働き方や商取引のあり方に大きな影響を与えています。

國光宏尚氏も日本のIT・エンターテイメント業界における代表的なシリアルアントレプレナーです。ソーシャルゲーム業界の黎明期である2007年に株式会社gumiを創業。事業を大きくスケールさせてIPOを実現しました。その後は、株式会社フィナンシェでトークン発行型クラウドファンディングサービスを提供するなど、Web3などの次世代のテクノロジー分野にいち早く着目し、新たな事業を次々と立ち上げている点が特徴です。

その他にも前澤友作氏や堀江貴文氏ら言わずと知れた起業家たちも、数々の事業にチャレンジしている点から日本を代表するシリアルアントレプレナーにカテゴライズされます。こうした起業家たちの新たなアイデアが今後の日本経済にさらなる大きな影響をもたらすことを期待せずにはいられないでしょう。

日本発スタートアップの世界での躍進のカギは賛同や共感を増やすこと

日本でも国内で有名なシリアルアントレプレナーが数多く存在しますが、イーロン・マスク氏のように世界中に影響を与えるくらいのイノベーションを起こした人はまだ現れていません。イスラエルの調査会社であるスタートアップ・ブリンクが5月に発表した、「Global Startup Ecosystem Index 2025」では日本は前年より3ランク上がったものの、18位という順位でした。

世界中のスタートアップの活力を国別・都市別に可視化するこの国際的指標では、アメリカが断トツの1位、イギリス、イスラエルと続くビッグスリーの牙城は崩れません。しかし、アジアの小国であるシンガポールが、長年トップ4を維持してきたカナダを抜き去ったことが大きな話題を呼んでいます。ITやAIなどのテクノロジーを駆使すれば、他の経済大国とも対等に渡り合いつつ、事業展開できることはシンガポールが証明してくれているでしょう。

そういう意味でも日本発のスタートアップがより国内だけでなく、世界でも認められるようになるとするならば、まずは国民の賛同と共感を増やすことが欠かせません。国内に目を向けず世界を見据えたほうがいいという意見もあるでしょうが、ドメスティックな島国という環境だからこそ生まれるアイデアやイノベーションは、世界を見据えるうえでも国内での支持を集めることが必須となるでしょう。名実ともにMade in Japanの誇れる事業として確立できれば、世界を舞台にした場合でも各国の興味・関心を大きく集めるかもしれません。

事業投資や株式投資などはもちろんのこと、近年はクラウドファンディングなど企業の取り組みを少額からサポートできるさまざまな仕組みがあります。もし国内に気になるスタートアップ企業がある場合は、将来への投資と考えて、何かしらの手段で出資してみるのも1つの手でしょう。そうした小さな支援が重なることで、いつの日にか日本発のスタートアップが世界的企業にまで成長する日がくるかもしれません。躍進のカギは、身近な人の賛同や共感を着実に増やしていくことにあるでしょう。

 

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