超低金利時代に突入している日本では、投資による不労所得で資産運用を行っている企業勤めの会社員の方も増えています。株式投資やFX、不動産投資、NISAなどはもちろんのこと、投資商品における選択肢は以前よりも幅広くなりました。中でもインターネット上でやり取りする財産的価値である「仮想通貨(暗号資産)」は、オンライン取引が当たり前の時代になった昨今では、資産運用の手段として活用している方も少なくないでしょう。
仮想通貨においては、オンライン上での取引履歴をブロックの単位でデータ管理し、鎖(チェーン)のように連結して保管する技術である「ブロックチェーン」がベースとなっていることは有名です。一方で、そのブロックチェーン技術を活用して以前からなされていた暗号資産におけるトークン化に対して、現物資産(RWA/Real World Assets)のトークン化についてはまだご存じではない方も多いかもしれません。近未来ではごく当たり前になっているかもしれないオンチェーン主体の取引とは。
現物資産(RWA/Real World Assets)のトークン化
オンライン上でやり取りされる電子資産である仮想通貨が一般的になったことで、現実世界に存在する資産が対の存在としてフィーチャーされるようになりました。たとえば、円やドルなどの各国の通貨、株式や債券、貴金属、家や土地などの不動産、その他の現実世界に存在するありとあらゆる資産が、現物資産(RWA/Real World Assets)として分類されます。ブロックチェーン技術を介して取引される暗号資産(Crypto Assets)とは一線を画した「実態のある資産」として捉えていた方が多いでしょう。
しかし、2023年9月に、米国の暗号資産業界の主要企業によるトークン化推進の新団体「トークン化資産連合(TAC /Tokenized Asset Coalition)」が設立されたことにより、世界におけるRWAにおける考え方や取引方法に変化が生じ始めました。具体的には暗号資産と同様に、RWAについてもブロックチェーンによるトークン化(機密性の高いデータを、解読不能なランダムな数字や文字列による非機密の等価物に置き換える仕組み)が推奨されるようになりました。デジタル上で権利をトークンに紐づけられた現物資産を「RWAトークン」と呼びます。
実態のある現物資産であるRWAをトークン化することでどんなメリットがあるのでしょうか。RWAトークンの取引においては、中間マージンのカットと透明性の高さが挙げられます。従来までは債券や不動産などの資産の売買には専門業者を仲介するケースがほとんどでした。しかし、RWAトークンの場合は、ブロックチェーン上にプログラムされた契約条件などに基づいて実行される「スマートコントラクト」という契約履行管理の自動化によって取引が行われます。仲介手数料がかからなくなるため、その分のコストを抑えられるという仕組みです。
また、ブロックチェーン上に構築されたRWAの取引は、その内容をすべての取引参加者が参照でき、さらには変更できない仕組みになっています。そのため、データの改竄のリスクなど不正行為が起きにくく、非常に透明性の高い取引を実現します。トークン化によってハッキングも非常に困難であることも、取引の安全性を担保する要素です。こうした理由から、今後は現物資産を保有する資産家が、ブローカーを介さずにブロックチェーン上で取引を行うケースが増えることが予想されます。
RWAトークン化市場は2030年に300兆円規模へと拡大予想
RWAトークンでの取引を行う層は、現物資産を多く所有する資産家が中心となることは予想されます。しかし、そうした流れがより一般の投資家や会社勤めの方にも波及するのは、そう遠い未来ではないのかもしれません。なぜなら、現金や預金、債券、上場投資証券(ETN)、投資信託、ローン、証券化資産などの一般的な金融商品や資産においても今後はトークン化が加速することが予想されるからです。
米国の世界的なコンサルティングファームであるマッキンゼー・アンド・カンパニーが発表したレポート「From ripples to waves: The transformational power of tokenizing assets」によると、RWAトークンの時価総額が2030年までに2兆ドル(約300兆円:1ドル150円計算)に達する見込みだと報告しています。RWAトークンが一大産業としての市場規模にまで拡大することを大手コンサルファームのマッキンゼーが予見していることから、市場の開拓は今後さらに進むでしょう。
また、米国のコンサル大手のボストンコンサルティンググループ(BCG)とデジタル取引所ADDXが2022年に共同で発表した「Relevance of on-chain asset tokenization in ‘crypto winter’」によると、流動性の低い固定資産をブロックチェーンによりトークン化することで、投資アクセスや市場の活性化を大いに高める可能性があると分析しています。特にトークン化できる資産規模は、2030年までに世界全体で16兆ドル(約2,400兆円:1ドル150円計算)に達すると予測。それは世界のGDPの10%を占めるほどの規模感です。
BCGとADDXが2022年に算出した市場規模に対して、マッキンゼーが2024年に発表したレポート通りに資産のトークン化の未来が訪れるとは限りませんが、RWAトークンのポテンシャルをコンサル最大手の企業も大いに注目していることは間違いないでしょう。
世界のトレンドはオフチェーンからオンチェーンへの移行が進む
RWAトークン化の動きは、世の中の取引をブロックチェーン活用の「オンチェーン」へと移行することを意味する可能性があります。かつて、商取引が紙や印鑑をベースとしていたオフライン主体だった時代から、デジタルデバイスや端末を活用したオンラインでの取引が当たり前になりつつあるように、オフチェーンからオンチェーンへの移行が本格化するのもそう遠い未来ではないかもしれません。
PCやスマートフォンなどの端末がインターネットに接続されている状態を指す「オンライン」が普及したことにより、インターネットを活用しない「オフライン」という対義語もビジネスシーンで一般的に使われるようになりました。DXが進み、商談の機会もオンラインで済ますことが増えた昨今においては、Face to Faceで対面するオフラインの機会を戦略的に活用するという逆転の発想が生まれています。これは世の中にオンラインでのやり取りが普遍化したことの証左とも言えます。
そうしたオンラインとオフラインの考え方の応用ではありませんが、今後はオンチェーンとオフチェーンが当たり前に使い分けされる時代が到来するかもしれません。オフチェーンとは、ブロックチェーンを活用しないやり取りのことを指し、オンチェーンの対になる言葉として使われるようになりました。オフチェーンに関しては、取引内容がブロックチェーンに記録されない、いわば従来のやり取りを指します。RWAトークン化が進むと、現物資産をブロックチェーンで管理することが一般的になると想定されるので、取引におけるオンチェーン化の機会は確実に増えることでしょう。
BtoBの企業間取引はオンチェーンが主流になる未来に
RWAトークンの取引の項目で紹介したように、オンチェーンは仲介業者のカットと透明性の高い取引が可能な点が魅力と言えます。そのため、今後は資産家による現物資産の取引だけに限らず、企業間のBtoB取引においても主戦場がオンチェーンに移ることになるかもしれません。
ブロックチェーンによって、より効率的でかつ、クリアな取引ができるオンチェーンの概念は、市場の拡大とともにビジネス転用に関しても将来的には広がることでしょう。かつてインターネットがビジネスに活用され始めて、今やオンラインが当たり前になったように、ブロックチェーンが商取引の主流になり、オンチェーンが企業間でのやり取りの根幹を担う未来は、すぐそこまで来ているのかもしれません。
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