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「最近の若者は……」とこぼす世代に求めたい アサーティブコミュニケーションとは

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「最近の若者は……」というフレーズは、就労経験がある方であれば一度は耳にしたことがあるでしょう。社会人経験をある程度積むと、新卒や若手社員の不出来や至らない点が目につくことも少なくないはずです。しかし、育成においてはそれぞれのメンバーの個性や特徴に目を向けるべきなのに、「これだから若者は……」と若い世代を一緒くたにして評価して良いものなのでしょうか。

確かに若い世代は経験不足であり、社会人として学ぶべきことが多い点は確かでしょう。ただ、それは最近に限定されることではなく、諸先輩方の助言をもとに若手が成長を遂げるという流れは、日本社会の歴史においても常に繰り返されてきたことです。ではジェネレーションギャップを言い訳にせずに、若手メンバーを個々人として公平な視点で見るうえでは、どんな心意気が必要なのでしょうか。世代間を要因としたギャップによる認識の齟齬や理解不足を極力減らすためにも、「アサーティブコミュニケーション」の意識が重要になります。

行動療法から生まれたアサーティブコミュニケーション

「アサーティブコミュニケーション」とは、相手を尊重しながら適切な方法で自己表現や対話を実践することを意味します。もともと「アサーティブ(assertive)」とは、「積極的な」「自己主張する」などの意味を持つ言葉です。ビジネスシーンにおいて自己主張をすべき場は少なくありませんが、アサーティブコミュニケーションは単なる自己主張に終始するのではなく、相手との信頼関係を損なわない形で自分の意見を適切に伝えつつ対話を重視することが求められます。

日本語には「行間を読む」「忖度」などの言葉があるように、日本のビジネスシーンでは言わずとも理解する「察する文化」が定着しています。場の空気を読んだり、組織の在り方に準じたりすることで上手く慣例に順応することが美徳とされている面があり、自己主張は二の次とされるのは珍しいことではありません。一方で社会が多様性を重視する風潮がある中で、個々の主張が届きにくい現状は時代錯誤とも言えるでしょう。そうした日本的な考え方を踏まえつつ、自身の考えを伝えるうえでも「アサーション」を意識することが大切です。

アサーションは、相手を尊重しながら自分の意見や気持ちを率直に伝える方法であり、アサーションを踏まえたコミュニケーションが「アサーティブコミュニケーション」にあたります。言い換えるなら自分も相手も大切にする自己表現法になるだけに、従来の日本式の察する文化を踏まえつつも、きちんと個人の考え方や在り方を伝えるうえでも有効な手段となり得るでしょう。

アサーティブコミュニケーションは、1950年代に精神科医のジョセフ・ウォルピ氏が行動療法の一環として開発した「アサーティブトレーニング」に由来します。当初は自己主張が苦手な人を支援するためのカウンセリング技法として使われていましたが、その後は社会問題や人間関係の課題に対応する手段として発展しました。現在ではコミュニケーションの手法として広く浸透しており、日本的なコミュニケーションに良い意味で変化をもたらす可能性がある点でも注目されています。

世代括りは正しくない?ビジネスシーンで世代間ギャップが生まれる要因

日本社会では旧来から、生まれた世代によって「団塊の世代」「バブル世代」「ゆとり世代」「Z世代」などさまざまな括りが存在します。もちろん、生まれた時代背景などから世代の特徴や傾向は少なからずあるでしょう。しかし、不思議なことにどの世代も社会に出たばかりの際は、「最近の若者は……」と言われるのがいわば通過儀礼のようになっています。社会人経験が豊富な大人たちが、日が浅い新人たちに対して「今の世代はこうなんでしょう?」という偏った見方で接することは、もしかしたら日本特有の文化なのかもしれません。

ただ、実際のところは時代背景を問わず、年齢も関係なく社会で活躍する人材は一定数はいるだけに、世代括りで若手人材のすべてを知ったように語るのは得策とはいえないでしょう。個人に興味を示すことなく、世代間トークに終始してしまっていること自体がジェネレーションギャップ(ある意味で世代間の誤解)を生んでしまう要因になっています。「察する文化」が重要視され、個々の主張より組織的な振る舞いが美徳とされる日本においては、個の尊重が後回しになってしまいがちです。

一方で新入社員や若手世代は、Z世代に代表されるようにデジタルネイティブであり、必要な情報がすべてネットを通して簡単に手に入る環境を常に過ごしてきました。環境も使えるデバイスも異なるため、新世代の指導を従来と同じようにしても上手くいくはずがないのです。だからこそ、それぞれの個性をよりしっかり向き合うようにして、世代ではなく、本人の適性に合った指導に努めることが求められると言えるでしょう。

つまり、ジェネレーションギャップ(世代間の誤解)の根源は、社会人経験が豊富な先輩たちが作りだしてしまっている恐れがあり、それに気づいて行動を変えようとする人がどれくらいいるかで、新人や若手層の働きやすさも変わってくるのではないでしょうか。「この会社は個性を重視してくれない」「世代を一括りにして一緒くたに扱われる」と若い世代が思ってしまう会社に明るい未来など期待できません。挙句の果てには、会社や先輩からの発信に興味がなくなり、自らの意見を言うことをしなくなる層が増え、「サイレントマジョリティ」が増殖してしまう恐れがあるでしょう。

自らの意見を自由に発言しにくくなり、「何も言わないほうがいい」「意見を控えておこう」といった姿勢が習慣化したサイレントマジョリティが大多数を占めると、職場全体での議論や意見交換が活発に行われにくい状況が生まれてしまいます。サイレントマジョリティは、決して能力や意思に欠けているわけではありません。むしろ、社会人経験が豊富な多数派の影響で、少数派である若手が声を上げにくい環境に追い込まれ、発言できなくなってしまっているのが根本的な問題です。

だからこそ、若手を筆頭にメンバーを「ワンオブゼム」として捉えるのではなく、1人ひとりを大切な個人として向き合い指導することが会社の人材を育てるうえでも求められます。その際に有効なのが、相手を尊重しながら適切な方法で自己表現や対話を実践するアサーティブコミュニケーションなのです。デジタルを通して個が力を発揮しやすい時代なだけに、集団を形成する会社こそ1人ひとりの個を大切にしたコミュニケーションに力を入れるべきでしょう。

「Iメッセージ」を使った個人を尊重した効果的な対話

アサーティブコミュニケーションの具体的な実践にあたって重要になるのが、「Iメッセージ」の活用です。これは、物事を伝える際に「私は~だと思う」「私は~してほしい」というように、「I(私)」、つまり自分自身の感情や考えを主語にする方法です。この方法を使うことで、相手を批判したり攻撃したりすることなく、自分の意見を伝えることが可能となります。

たとえば、部下がミスをした場合、「私は、今後ミスをなくしていくために、一緒に対策を考えたい」といった形で伝えることで、相手の感情を尊重しつつ、建設的な対話がしやすくなります。反対に、「あなたはいつもこうだ」というような、相手を主語にした「Youメッセージ」は攻撃的に受け取られる場合が多く、信頼関係を損なうリスクがあるため、避けるべきでしょう。

日本の「察する文化」が協調性を生み、高度経済成長につながった過去はあるかもしれませんが、多様性の時代において察することばかりに重きを置いてはいられません。日本人からすると、外国人は「主張が強い」「自分のことばかり言っている」と感じる面もあるかもしれませんが、それはある意味では「Iメッセージ」の活用が上手だとも言い換えられます。「物事をはっきりさせる」「個々の違いを明確にする」うえでも自己表現をより磨くことが、日本社会全体においても求められているのかもしれません。

若手の離職を防いで組織の競争力を高めるために

アサーティブコミュニケーションの実践がシンプルなものであるからこそ、単なる小手先のテクニックと捉える人もいるかもしれません。しかし、若手社員が意見を言いやすい環境を作ることは、組織の競争力向上に対して確実に寄与します。リクナビNEXTの「転職理由と退職理由の本音ランキングBest10」によると「1位:上司・経営者の仕事の仕方が気に入らなかった」が23%、「3位:同僚・先輩・後輩とうまくいかなかった」が13%と、上位3位のうち2項目が、人間関係の悩みが引き金となっている実情があります。

また、厚生労働省の調査「新規学卒者の離職状況」によると、大学を卒業して2020年に就職した新入社員のうち、32.3%と約3人1人は3年以内に離職しているが現実です。さらに、東京商工会議所が2024度の新入社員957人を対象に行ったアンケート調査「就職先の会社でいつまで働きたいか」では、「チャンスがあれば転職」の回答率が26.4%にのぼりました。また「定年まで」の回答率は21.1%と、10年前の35.1%と比較して14%も減少しています。

若手の離職が高い理由のひとつが、職場でのコミュニケーション不全にあることは明白です。だからこそ、日本社会全体がとりわけビジネスシーンにおいて、より個性に目を向けて対話をすべきだと言えるでしょう。世代間ギャップを埋め、年齢や経験なども関係ないフラットなコミュニケーションや対話を重視するためには、まず個を尊重するアサーティブコミュニケーションを意識してみてはいかがでしょうか。

 

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