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2016年、企業のCSRは大きな変革を迎える

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EUの影響により、すべての企業にとってCSR(企業の社会的責任)は義務的なものとなるかもしれません。

EUでは、2016年から全ての企業が社会や環境への取り組みについて、年次報告書を提出する義務が課せられるということです。

近年、CSRの報告書の内容が大幅に改善され、多くの企業が自主的にCSR活動について詳細を公表しています。そうした流れから、法律として義務化されるのも時間の問題だろうと言われてきました。特にEU圏では、情報の開示を義務化すべきだという民間企業の意識が高かったこともその背景として挙げられます。

CSRへの評価はここ10年で増加しています。1つは消費者への需要を促す目的として、もう1つは、企業のブランディングの機会として活用されてきたからです。今日の消費者はテクノロジーやメディアに精通し、自分たちが消費している製品がどのように造られたのかを知っています。そして今まで以上に、倫理にかなった方法で造られた製品に価値を感じ、たとえ値段が高かったとしてもあえてその製品を選びます。消費者にとって、「自分の価値観に合う」ということが、何よりも大切になっているからです。

 

どこまでが義務の対象に?

企業は今後、ますます情報の開示が求められてくるでしょう。Wilmington plcが発行している、ガバナンス、リスクマネジメント、コンプライアンスに特化した週刊ニュースレター『Compliance Week』は、「それぞれの企業は、サスティナブル(持続可能)なポリシー、従業員の多様性、環境的・社会的影響、また従業員の労働環境、人権への尊重、汚職や賄賂への取り締まり等の詳細を文書にして提出しなければならない。もし、こうした理念を持っていない場合には、なぜ持っていないのか説得力のある説明が求められる。」と述べています。

とはいえ、最終的な規制に関しては現時点ではっきりとしていません。例えば、各企業の責任はどの程度までサプライチェーンに及ぶのでしょうか? 広大かつ複雑なサプライチェーンを持つ企業にとって、末端にいたるまですべてに適用するのはかなり困難だと言わざるをえません。

一方で、企業がこのレポートをブランディングに利用することもできます。積極的な情報開示により、CSRを自身のブランドアイデンティティーに築きあげた企業の一例を見てみましょう。

 

ブランディングの機会としてのCSR

アウトドア関連のアパレルメーカーや有機栽培を行う農業など、環境に関わりを持つ分野では、CSRをブランディングの機会にするのは珍しいことではありません。

例えばアパレルメーカーのパタゴニアは、CSRの取り組みや「公正で安全な労働環境をサプライチェーン全体にまで促進する」というミッションをウェブサイト上で強調しています。これを実現するには確かにコストはかかりますが、こうしたモラルに沿った企業努力は、同社のポジティブなブランドイメージを消費者に強く植え付けてきました。

しかし、どれど崇高な目的を掲げていたとしても、CSRへの取り組みが義務化されれば、経営のコストを上げるのは確実です。

 

CSR義務化がもたらすマイナス面

EUにおけるCSR義務化に際して、企業が負担するコストについてはさまざまな予測が出ています。EU圏内では年間5000ユーロ(2015年12月現在およそ66万5,000円)という予測が出されていたり、フルタイム従業員数人の給料分ほどにもなる、と主張する業界専門家もいます。レポート作成にかかる費用以外にも、CSRに焦点を当てることにより、株主にマイナスの影響を与える恐れがあるという人もいます。

確かに経済面にだけフォーカスすれば、CSRの取り組みはブランディング効果による利益以上にコストがかかります。例えばペプシコーラで知られる食品・飲料メーカーのペプシコの取締役であるIndra Nooyi氏は、取締役になった当初、『パフォーマンスと目的の融合』と自らが名づけた良心的な経営スタイルを擁護しようとしました。しかしながら、ペプシコの株主はそれに伴うコストの増加にしか注意を払いませんでした。そのため、最終的に取締役会がCSRに関するポリシーを撤回する決定を下しています。

今のところCSRの報告義務がない世界各国の企業に対して、今後EU企業はどのように競争優位性を保っていくのかが注目されます。CSRの報告義務は、すでに自発的に情報開示しているEU企業にとってはほとんど影響がないかもしれません。義務化が何らかの事情によって遅れる可能性もあります。

今後も経過を注目し、情報をお届けしていきます。

 


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