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物流のIT化は地球環境と働き方を変える 
ー NPOエスコット理事長 藤本治生氏インタビュー

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先日、国連が気候変動枠組み条約の「パリ協定」を11月4日から発行することを発表し、温室効果ガス排出削減の取り組みが世界的に進んでいる。日本は主要な排出国でありその批准が急がれているが、その中で国内の温室効果ガスの排出量の17%を占める運輸業の取り組みが注目されている。

今回は物流の効率化や再生可能エネルギーの導入推進・技術開発を行っている特定非営利活動法人エスコット(http://npo-escot.org/)理事長の藤本治生氏に、今の物流業界における環境への取り組みやエスコットが近年進めている物流キャパシティのマッチングについてお話頂いた。

−−−− エスコットはどのような目的や経緯で立ち上げられたのでしょうか。

エスコットは1997年に立ち上げました。エスコットの名前の由来(Energy Saving Conference & Organic Technology)通り、地球環境保全のための省エネとそれにつながる技術の開発など、約20年間取り組んできました。設立当時は「省エネルギー輸送対策会議」の名の下、エスコットの”T”は”Transportation”を指し、物流を中心にした省エネの取り組みを進めてきましたが、活動範囲を広げる過程で”Technology”に改め、物流以外の領域における省エネに有効な技術開発にも着手しました。おかげさまで今年、エスコットで開発した太陽熱を回収出来る超薄型の熱交換器ヒートルパネルが世界的にも権威のあるエネルギーグローブ賞に選ばれ、今は各所からお問い合わせを受けています。

ヒートルパネルのエネルギーグローブ賞授賞式

−−−− おめでとうございます! 素晴らしい業績ですね。物流に関して具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか。

エスコットは立ち上げ時より「物流の半分は空気を積んで走っている」という課題について取り組んできました。荷物を目的の場所に運んで荷下ししたトラックは、元の場所に戻るために帰りの行程を空で戻ってくるのです。東京から大阪、大阪から東京という2つの荷物があった場合でも、東京の業者がそれを別々に受注すると東京—大阪間を2往復するという極めて非効率な状況があり、今なおそれは実態として行われています。外国から船で来た荷物を内陸で降ろしたコンテナの場合も同様で、輸出がなければ戻りは空コンテナの状態で海外の港まで輸送されています。

私は船社に所属する身でもあるので、コンテナラウンドユース(輸入コンテナの荷卸後に空いたコンテナを輸出貨物に利用すること)をはじめ、空コンテナの内貨転用、ラウンドユースを効果的に行うための船社間融通などの推進に取り組んできました。1999年には空コンテナの利用権をネットで売買する「空コンテナ市場」を立ち上げましたが、開始当初は様々な障壁の連続でした。当時のインターネットは今のように常時接続ではなく通信速度も遅い上、パソコンの普及率も低かったのでユーザーの広がりに限界もありました。またトラック業界の反発も大きく、「2往復が1往復になるので市場のパイが減る」と言う業者の説得も大変でした。

それでも温室効果ガスの削減という大義のため、地道に行政や賛同してくれた民間企業と協力し、マッチングサイトの運営や勉強会、講演会を通じた啓蒙活動を続けてきました。現在エスコットでは「グローバル・コンテナ・マッチング」というサイト(http://gcm-sys.org/)を運営していますが、スマートフォンに代表されるモバイル端末が普及した今、このコンテナ・マッチングの仕組みも時代にあった新しい形に刷新しようと考えています。

−−−− どのような刷新をお考えなのでしょうか?

長年マッチングを行ってきて実感しますが、日本の物流業界は他の業界と比べて情報化が進んでいるとは言えません。マッチングをより推進していくためには、高いITリテラシーを必要とせず、誰もが簡単に使え、そして費用もかからないようなIT基盤が不可欠です。一般消費者の間では誰もがスマートフォンを使って簡単に情報交換ができたり、位置情報が確認できたりする時代に、日本の物流企業においてはそれらの活用はおろか、電話やFAXなど10年前の仕組みをそのまま使っている企業がほとんどです。

そうしたことを変える方法を探していた矢先、世界で80万社が参加しDHLやUPS、主要な船社が参加する企業間取引の電子化プラットフォームを展開されているトレードシフトという会社に興味を持ちました。早速コンタクトし話を聞いたところ、オープンで透明性の高い無料の取引基盤は、エスコットが目指す最終形を実現できるものと感じました。現在はトレードシフトのプラットフォームを利用したグローバル・コンテナ・マッチングのバージョンアップ版を開発しており、本年度中にサービスを開始する予定です。

グローバル・キャパシティ・マッチング2.0構想

−−−− 物流の効率化は一朝一夕では解決できない課題だと思いますが、少しずつ改善していくことに意味がありますね。これからどんどんマッチングが成立していくような状況を作るために、一番必要だと感じられることは何でしょうか。

やはり全ての人が、今地球環境が無視できない状況にあることを認識し、それに対するアクションをとっていくことだと思います。コストだけを見て安い方、手間がかかるので現状維持、他社も同じことをしているので良い、そんなマインドを変えていくことが重要だと思います。官公庁からの補助金が出るからラウンドユースをするのではなく、メリットがあるからラウンドユースをする。実際、タニタさんのようにラウンドユースがそのまま物流費の削減につがっている企業もあるのです。全ての人が現状の非効率を理解し、物流企業と荷主企業が手を組んでこの問題の本質に立ち戻って議論していけば、日本の物流はさらに効率的になるとともに、パリ協定で定めた2050年までの排出削減目標を超える結果を出すことができると信じています。

ビジョンを語る藤本氏

−−−− その啓蒙活動はこれからも続けていく必要があるのですね。今後エスコットはどのようなことに取り組んでいかれるのでしょうか。

近年はコンテナのマッチングで培った知見から、より大きな枠組みでマッチングを捉えています。具体的には「ヒト」「モノ」「コト」「キャパ」のマッチングです。知識を持った人を必要とする人とマッチングする、余っているモノを欲しい人にマッチングする、空いているセミナーの席を興味がある人にマッチングする – これらのマッチングはエスコットが目指す無駄なエネルギーを削減する1つの手段だと考えています。

マッチング以外では、冒頭でお話しした自然エネルギーを利用した省エネ技術の開発や、日中に人が起きている時間だけではなく「寝ているときにも省エネ」できる製品の開発などに力を入れています。

−−−− 寝ているときにも省エネ、非常に関心があります。どのようなものなのでしょうか。

今は特許の出願中なので詳細はお話しできませんが、省エネも出来て健康にも良い製品になると思います。近日公開できると思います。

−−−− 公開を楽しみにしています。最後に、私たちのようなIT企業がエスコットの他の取り組みをご支援するようなことはありますでしょうか。

ITの活用はエスコットの全ての活動に必要不可欠です。今はトラックのドライバーもスマートフォンを持つ人が増えてきました。現場を一番良く知るドライバーがコンテナ情報の最新情報を発信し、帰り便で新たな荷物を運んで戻って来る。それができるようになると空コンテナの有効利用はもちろんですが、ドライバーの役割が変わります。ドライバーが単に配車係から指示されたものを運ぶだけではなく、ドライバーが動く営業拠点となり、企業がそれにインセンティブをつけることで、より多くの仕事を取ってくるモチベーションが生まれ、やる気と働き甲斐が持てる仕事になるでしょう。

将来、自動運転が普及してドライバーが減るというニュースや、労働時間が長いなどでドライバーを志す若い人も減ってきましたが、情報武装によってドライバーの役割を変えていくことで、新しい形の物流の姿が生まれてくると思います。そんな仕組みを作り出す鍵となるのがIT技術で、是非IT企業にはそうした仕組みの構築などでご支援頂きたいと思っています。

−−−− 単なる効率化ではなく、働く環境やモチベーションまで変えていく、素晴らしいビジョンですね。これからもエスコットの活動を陰ながら応援させて頂きます。ありがとうございました。

(インタビュアー: トレードシフト 菊池孝明)

藤本 治生(ふじもと はるお)プロフィール
1983年 OOCL入社。以降、国内外問わず物流の効率化に取り組み、1997年に国際コンテナ輸送の環境負荷低減を具体的に実施するため、NPO法人エスコットを設立。現在はコンテナ・マッチングの普及の為の各種方法論の調査・研究や、DIY等で手軽に使える太陽エネルギーを回収するヒートルパネルの開発など、目先の利益にとらわれずに地球規模の温室効果ガス削減に貢献する活動に取り組む。趣味はサーフィンと空手。シニアや女性も無理なく楽しめるスロー空手の師範も務める。