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不便を便利に変えるパワー

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みなさんこんにちは。

松村太郎です。

今月から、トレードシフトのブログで、連載を始めることになりました。テーマは、働き方や生き方と、テクノロジーとの関係性についてです。

生活の中にスマートフォンとアプリが入り込んできて、手元にある道具の役割が増え続けていく、そんな実感を持つようになりました。電話とメールの道具から、音楽プレイヤー、最も優秀なカメラ、友だちと体験を共有する手段、財布、家電のリモコン、健康管理と、1つのデバイスへの役割の集積が進んでいます。

そんな時代背景と我々の体験は、働き方や生き方に、どのように影響を与えていくのでしょうか。

 

サンフランシスコの生活で感じる、「不便を便利に変えるパワー」

サンフランシスコからテクノロジーやカルチャーを取材してはや5年。この街は、スマートフォンへの生活の集積が、最も顕著に感じられる場所だった、と振り返ることができます。

UberやLyftといったカーシェアリングは、公共交通機関の整備が完全ではなく、タクシーも信頼が薄かったサンフランシスコの「移動」の、透明性と確実性を担保し成功しました。またApple PayやAndroid Payといったモバイル決済サービスは、小銭やキャッシュが不要になる以上に、クレジットカードのスキミング被害をなくす、というニーズを実現したものです。

このように、都市の中で不便があると、それをスマートフォンのアプリによって活用しよう、という強い引力を感じることができます。もちろん、問題を解決した企業には、莫大な富がもたらされます。

シリコンバレー以上に、サンフランシスコに拠点を置くモバイル企業が増えました。不便さを実感している優秀な若い人材が都市を好み、また解決すべき問題の近くでビジネスをしたほうがよい、と考えるようになったからでしょう。

では、なぜ東京では、こうしたサービスが生まれなかったのか?

東京では、スマートフォンが不便を解決してくれるよりも先に、インフラが、こうした不便を解決してくれていたからです。電車もバスも世界一正確だし、その交通インフラが主導した電子マネーは、日本人特有のクレジットカードへのアレルギーを避けながら、決済の利便性を実現しました。

日本の都市では、企業が先回りしてサービスを作る創造性に長けていて、人々が不便さに気付く前に問題が解決されているので、東京が先回りして解決している問題は数多くあります。

一方で、いま、スマホ時代に不便さが残されていないことが、東京での問題解決に出会いにくい原因だと考えています。

 

都市から自分の問題解決へ

サンフランシスコやシリコンバレーでは、テクノロジーに関連する仕事に従事している人が数多くいます。実際にコードを書くエンジニアもいれば、テック企業を切り盛りする経営者もいます。

コンピュータに命令を与えて役割を発揮させるプログラムには、何らかの作業を行うための手順となる「アルゴリズム」が備わっています。機械が自動的にアルゴリズムを走らせることもあるし、人の操作に呼応して動作するものもあります。あるいは、経営に用いられる「メソッド」なども、数多く存在します。

日々、こうしたものを作っていると、自分の生き方にもアルゴリズムやメソッドを導入しよう、という考えに触れることができます。

例えばEric Riseが2008年に出版した『The Lean Startup』という書籍は、ハイテクスタートアップ企業が、スモールスタートを切り、持続的に製品を改良しながら、顧客やビジネスを拡大させていく、シリコンバレー生まれのメソッドでした。

 

Squareの社内にあるカフェ兼テストスペース。日々、社員が製品を試し、不便さの解決に努める
Squareの社内にあるカフェ兼テストスペース。日々、社員が製品を試し、不便さの解決に努める

 

目に見える小さな製品やゴールを実現し、それを細かく改良する。効果測定を行い、必要な方向転換をする。こうしたサイクルを細かく回しながら、持続的な進歩を続ける。企業の発展に焦点が当てられたこのメソッドを、個人の生き方にも適用してみよう、というアイディアはすぐに生まれます。

例えば、まず小さな目標を設定して始めてみる。その目標を達成したときの時間や効果と言った定量的な結果と、自分の気持ちと言った定性的な結果を照らし合わせて、次の目標設定へ向けた改良を施す。

こうして、自分のを実現していく様子を、私の回りでもたくさん見つけることができます。

 

変革を身近に感じることの大切さ

都市生活における問題がキレイに片付きつつある日本においても、問題を抱えていない人を探すほうが難しいでしょう。あるいは、なりたい自分や、将来の夢を持っている人もたくさんいます。

サンフランシスコで起きていることを、東京と比べてもあまり価値はないかもしれません。しかし、自分と比べてみるとどうでしょうか? 自分の問題を正確に捉えて、破壊できるかどうか。あるいは目標を確実に達成しながら、プラスのスパイラルを作り出していけるかどうか。

サンフランシスコで暮らしている人々は、社会そのものの変革を間近で体験しながら、自分を磨いていくことができる、とても運の良い人々ではないか、と考えるようになりました。筆者も、取材する立場でありながら、こうした都市と人々の成長を身近に感じ、非常に勇気づけられています。

 

Pinterestの社内。おしゃれでオープンなスペースでの仕事は、人々のクールさの探求を支える
Pinterestの社内。おしゃれでオープンなスペースでの仕事は、人々のクールさの探求を支える

 

この連載では、そうしたポジティブなエネルギーに満ちたサンフランシスコで起きている、様々な出来事を、お伝えしていきたいと思います。

 

 見据えるAI時代

さて、早速ですが、我々労働力としての人間が、近い将来直面するであろう問題について提起しておきたいと思います。それは、人工知能とどう対峙するか、という点です。これは、本連載でも意識しながら、我々の働き方や生き方について考えていきたいテーマです。

 

Googleが披露した人工知能で囲碁の対戦を行うAlphaGO
Googleが披露した人工知能で囲碁の対戦を行うAlphaGO

 

個人的には、「ロボットや人工知能が我々の職を奪う」という意見に対しては、拙速ではないかと捕らえています。

現段階においては、前述のようなアルゴリズムを作ったり、それを会得するまで機械学習が進まなければならず、しかし臨機応変さは人間がまだ勝っています。そして、計算された結果を、「仕事」に翻訳する人間の役割はなくならない、と考えているからです。

しかし、ロボットや人工知能を理解しなくてもよい、というわけではないでしょう。

こうしたテクノロジーを活用できる人と活用できない人では、結果的に仕事の速さや品質が変わり、求職時の差となって現れます。間接的に、「ロボットや人工知能」に職を奪われる、というわけです。

人のために作られたテクノロジーの時代は、まだまだ続いていきます。テクノロジーを作れる人になることは、AIに負けない最も分かりやすい人材像です。ただ、そこにはハードルもあります。ぜひ、テクノロジーを使いこなしたり、これを応用して社会に変化を与えられる存在に、成長していきたいものです。

それでは今回はこの辺で。また次回お会いしましょう。

松村太郎でした。

@taromatsumura
[email protected]