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サプライチェーンを中抜きするデジタル企業たち

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昨今、「すしざんまい」チェーンを展開する喜代村の木村社長が、ソマリア沖に出没し国際問題にもなっていた海賊を撲滅したというニュースがネット上で話題となっている。

喜代村が海賊に漁船とマグロ漁の技術を提供し、その漁でとれたマグロを喜代村が買い取ることにより、もともと生きるために仕方なく海賊をしていた人たちを漁師に変えたというのである。各国が協力し合ってこの問題に取り組んでいる状況の中、喜代村一社の努力だけで海賊が撲滅したというのは大げさかも知れないが、少なくとも一定の効果はあったのだろう。

この「すしざんまい」の話はデジタルとは無関係だが、今回のテーマである「マッチング」型のデジタル・ディスラプター的思考と似ていることから前置きとして取り上げた。その類似性については最後に述べることにする。

 

マッチング型のデジタル・ディスラプターとは

インターネットの普及によって、ニーズを持つ消費者とそのニーズを満たす製品・サービスの提供者をダイレクトにつなぐビジネスはさまざまな種類が出現し、誰もが一度は利用していることだろう。第1回で紹介したUberのサービスは「今すぐ目的地まで安価で行きたい」という消費者ニーズを、一般ドライバーが運転する車の空席を利用することで満たすマッチングサービスだ。こうしたマッチングにより生じた取引から一定の手数料をとることでビジネスが成り立っている。

スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末の普及と、街中で簡単にインターネットに接続できるインフラ整備が進み、場所を選ばず、リアルタイムに「つなぐ」ことを可能にした。こうした背景も新規サービスの増加スピードを著しく加速している要因だ。

今回は、2社のマッチング型デジタル・ディスラプターを紹介し、その特徴を探ってみたい。

 

旅行業界を揺るがすディスラプター

長期出張や海外赴任で自宅を長期間留守にする場合、盗難や庭の手入れ、室内の換気など、気になることはたくさんあるだろう。一方で、出張先や赴任先で宿泊施設を探す際にも不都合はある。高額な宿泊料を要するホテルは、長期ステイには負担が大きいうえに、定型化された室内に味気なさを感じてしまう。もし、長期間留守にする間、自宅を誰かに貸し、多少の収益が得られ、かつ赴任先ではリーズナブルで快適な生活が送れるとしたら…。こうしたニーズに応えるサービスを行っているのが、Airbnbというネット企業である。

事業内容は、ホストと呼ばれる空き部屋の提供者と、それを借りて宿泊するゲストのマッチングサービスの提供であり、Airbnb自体は不動産を全く所有していない。ホストはAirbnbから提供される地域の相場を参考に各自で値付けできるほか、金銭の収受はすべてAirbnbを介して行うため、セキュリティが求められる決済の仕組みを自分で作る必要はない。また、物件のweb掲載は無料。宿泊希望をあげたゲストのプロフィールやレビューを見て、宿泊承認を決定することができる。部屋の設備や物品が破損したときのための保険も用意されている。

一方ゲストは、ホストが提供した部屋の情報のほか、以前に同じ部屋を利用した人のレビューを見ることができる。それらをチェックしながら宿泊先を総合的に判断できるわけだ。また、実際に宿泊した際に、記載と全く異なる状況で不快な思いをした場合などは返金制度もある。

ホストとゲスト双方が「見知らぬ相手」と直接取引をするため、トラブルが生じやすい決済や物件の紹介については、Airbnb独自のシステムを提供する。その一方で、ホストとゲストがお互いを評価し、レビューし合うことで、Airbnbはコストをかけずに物件や宿泊者の品質を一定のレベルに保つ仕組みを作り出している。仲介や大量仕入れによるディスカウントからマージンを得る既存の代理店業とは異なり、“個別の見知らぬ者同士が安心して取引できる場の提供”による対価として収益を得るビジネスモデルを実現した。


Airbnbのビジネスモデル
なお、日本ではAirbnbのホストは旅館業法で規制される「民泊」にあたるとして法的妥当性を疑問視する声もあるが、国家戦略特区に指定されている東京都大田区で初めての民泊が認可されたほか、政府は2016年中に民泊制度の規制緩和を実施する方針だ。こうした動きは、すでに国内2万件以上あるホストがさらに増えていく追い風になると思われる。

Airbnbのホストは世界192ヶ国33,000都市以上に存在し、ゲストは2015末時点で4,000万人以上、時価総額は約3兆円を超えるとも言われ、ネット旅行代理店大手エクスペディアやホテル大手マリオット・インターナショナルの時価総額(ともに2兆円程度)をはるかに上回る。旅行代理店だけでなく、ホテル業界にまで影響を与えるビジネスモデルは、その強気な経営姿勢も評価され投資家の支持を得ている。

ちなみに、Airbnbが発表した「2016年に訪れるべき世界の16地域」では、世界の著名な観光地を抑え、なんと大阪市中央区が1位に選ばれた。大阪城などの歴史的建造物や食い倒れで有名なストリートフードが人気となり、Airbnb利用者の人気度が急上昇したようだ。

 

食のサプライチェーンを破壊する

筆者は旅行が趣味であり、週末には愛車でのツーリングや温泉旅行に出かける。また年数回の長期休暇にはバックパック1つで海外に飛び出し、遺跡や大自然を巡ることをライフワークにしている。なかでも旅先での食事は、重要な要素であり楽しみの一つだ。特に、国内旅行では主要な県道や国道沿いの「道の駅」で、現地の特産物や変わり種のソフトクリームを食べることは旅の1つのパターンになっている。こうした道の駅で売られている地元の特産品は安くて新鮮、かつ生産者の顔がわかり、安心感を与えてくれるため、旅行者のみならず、現地の利用者も多い。これをさらに進化させたビジネスモデルがアメリカ発のFarmigo だ。

Farmigoは米国の限られた都市で展開される、「地元の農家」と「地元の消費者」を直接つなぐ地域限定型のマッチングサービスだ。

Farmigoのトップページから郵便番号を入力すると、その地域のコミュニティの一覧が表示され、生産者は自身が扱う食材の情報を提供し、消費者はその情報を得て購入手配をする。取り扱う食材は野菜や果物に始まり、肉、魚、卵などの生鮮食品、パン、ジャムなどの加工品に至るまで多種多様だ。コミュニティごとにピックアップできる場所と曜日が決まっており、消費者は自宅近くで新鮮な食材をピックアップ、決まったサイクルで購入することができる。生産者も事前注文された数と出荷タイミングに合わせた収穫や生産が可能なため、無駄が減り、さらなる低価格が可能に。需要と供給が見事に合致している。

コミュニティの運営は、フランチャイズのような形態をとる。コミュニティオーナーと呼ばれるフランチャイジーはピックアップポイント(場所)の提供や食材の収集・配達を行う。その際コミュニティ内の商品を50%引きで仕入れるか、販売された価格の10%をマージンとして得るかを選択できる。


Farmigoのビジネスモデル
コスト構造の観点から見ると生産者のメリットはさらに浮き彫りになる。

例えば日本の例では農協・全農の手数料は全体の2%、中卸業者は13~20%、小売店は25~30%と言われており、生産者の手取りは消費者小売価格の半分以下が一般的だ。流通経路が長い米国においてはこの差がより顕著で、農家の取り分は小売価格の20〜30%程度と言われている。そのため、安い小売価格でも安定したマージンを確保できるのは大量生産が可能な大手食品企業に限られ、小規模農家や有機農法などで原価率が高い製品を提供する企業は不利な状況になっている。

この構造に楔を打ち込んだのがFarmigoのビジネスモデルだ。販売価格の10%を手数料としているため、前述のコミュニティオーナーのマージン10%を差し引いても小売価格の80%は生産者の収入になる。そのためスーパーよりも安い価格を提示でき、価格優位性も担保できる。

またFarmigoでは、地元の良質な食材をその土地の消費者に直接提供できるのも大きな売りの1つ。消費者に参加資格は設けていないが、生産者は2つの審査基準で選別している。

1)地元で生産している。
地元の生産者を優遇するとともに、流通コストを抑えることに寄与。

2)「誠実な」食材を提供している。
非遺伝子組み換え野菜、非養殖の魚、牧草育ちの牛肉、加工品は全成分表示など、消費者が安心して摂取できる食材を提供する生産者に限られる。

*家族経営の農家や若い農家を優遇する基準もあり

食の安全意識の高まりが原価を押し上げ、小規模農家が不利な状況に置かれているなか、経済合理性を持ちながら地域の生産者と消費者を直接マッチング。さらに地域の活性化にも貢献している優れたビジネスモデルに、米国の大手スーパーや小売店は脅威を感じていることだろう。

Farmigoは、 2015年9月時点で月15,000世帯に利用され、月に2,000世帯以上が新規で参加しているという。また、シリーズBの投資ラウンドで$2,600万ドル(約31億円)を調達しており、今後の伸びが注目されるネット企業だ。

 

マッチングビジネスの成功要因

今回紹介したデジタル・ディスラプターのビジネスモデルは、斬新で非常にユニークであるように見える。ただ、長期で留守にする自宅を知人に安く貸したり、農家が直売所で近隣に安く販売したりすることは、限られた関係や地域社会ではすでに行われていた。少なくとも、この2つのサービスにおける消費者ニーズは特に新しくはない。「安く良い宿を探したい」、「安く美味しい食材を見つけたい」というニーズは常にあった。

この2つのサービスをユニークにしているのは、前者のニーズに対しては遊休資産を持つ家主、後者に対しては地元の農家を提供者としてマッチングしたことだ。従来、これらのニーズに対する提供者は、大手旅行代理店やホテル、あるいは大手小売店やスーパーという、規模が大きくその業界でのメインプレイヤーだった。それ以外からの参入は難しく、数カ月の遊休資産があったとしても家主は簡単にそれを貸すことができなかったし、地元の農家は既存の流通チャンネルに頼らざるを得なかった。これらのサービスは提供者をそうした制限から解放した。そして適正な品質と価格を利用者に提供する仕組みを、インターネットを使って低いコストで構築し、市場を既存企業から奪い取っているのだ。

 

ニーズと提供者をデジタルでつなぐ

冒頭の喜代村の話ともアナロジーが見える。喜代村は購入者として、良質なマグロを安く仕入れたいという「ニーズ」があった。ただ、既存の漁協や漁業者を通してそのニーズを満たすことができなかった。そこで木村社長は、不謹慎な言い方だが「海で仕事をする」海賊を労働力の提供者として採用したのだ。既存のニーズに対し、今までとは全く違うところから品質を確保しつつ低コストの提供者を連れてきたところは、今回紹介したデジタル・ディスラプターの思考方法と似ているのではないだろうか。

言い換えれば、マッチング型のデジタル・ディスラプターたちは、設備や労動力を提供できる潜在的プレイヤーを、プロセスを標準化したソフトウェアを使って低コストで品質が担保されたサービス提供者に仕立て、ニーズに応えているのだ。それによって、彼らは低い変動費のコスト構造を保つことができ、顧客数が一定のマスを超えたときに莫大な収益が得られる構図を作り上げている。

今後も斬新な着眼点を持ってニーズと潜在的サービス提供者をつなぐディスラプターたちが登場してくることに疑問の余地はない。仲介型ビジネスを生業とする既存企業はそれらへの対策、つまり自らがディスラプターとなることが急務の経営課題となるだろう。

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連載第1回: デジタルが既存産業を破壊する

連載第3回: 産業の未来を変えるデジタルの変革者

連載第4回: デジタル・ディスラプションの震源地

 


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