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デジタル化・DX推進のツール選びで「UIデザイン」を重視すべき理由

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デジタル技術の飛躍的な進歩に伴い、これまで紙面や手作業によるアナログでの対応が主流だった業務にも変化の兆しが見えてきました。日本企業においてもさまざまな業務プロセスをデジタル化・DX(デジタルトランスフォーメーション)推進させる流れが加速度的に高まっています。

しかし、そうした時代の潮流に乗ってITシステムを導入したものの、「自社のデジタル化・DX推進が上手くいっていない」と頭を抱えている担当者の方もいるのではないでしょうか。企業におけるデジタルツールの導入においては、「UIデザイン」への意識が成否の鍵を握ります。

デジタルツール導入に関するよくある失敗
日本政府が2021年9月にデジタル庁を創設させるなど、国を挙げてのデジタル化・DX推進の流れが加速しています。そうした時代背景もあり、自社へのデジタルツールの導入を決断した経営層やシステム・IT部門の担当者も少なくないでしょう。しかし、残念ながら大規模な予算を投下して導入したデジタルツールが、「使いづらい」「むしろ業務効率が 下がっている」という社内の不満の声につながっているケースも珍しくありません。

帝国データバンクが2021年に1,614 社に対して実施した「DX に関する企業の動向についてのアンケート」では、デジタル技術を活用してDX への本格的な取り組みを行っている企業は約 1 割に留まるという結果が出ています。「既存製品・サービスの高付加価値化」の項目が11.7%、「新規製品・サービスの創出」が10.8%であり、本来目指すべき企業のデジタル化・DX推進における実現度はあまり高くないのが現実です。

企業のデジタル化・DX推進における理想と現実の乖離が起きている要因としては、「ツールの導入」自体が目的となってしまっている企業が多い点が挙げられます。「業務をアナログからデジタルに移行させれば、企業のデジタル化・DX推進が完了する」「機能が充実しているツールさえあれば業務効率化を実現できる」と考えている経営者や担当者もいるかもしれません。しかし、ツールの導入は、あくまでもデジタル化・DX推進における手段でしかないのです。

本来、デジタル化・DX推進には自社はもちろん、顧客や社会のニーズを的確に汲み取ったうえでの、ITやデジタル技術を駆使したビジネスモデルや企業風土の抜本的な変革をもたらすことが期待されています。つまり、単にITシステムを導入するだけではなく、導入によって自社内業務や市場への関わりといったビジネス全体に変革をもたらすことを目的にすべきなのです。

デジタルツール導入に際して、目的と手段を見誤ることは残念ながら少なくありません。そして、それによって多くの企業が失敗しがちなのがツール選びにおける「ミスマッチ」です。せっかく大規模な予算を投下して導入したツールなのに、従業員からは「使いづらい」と不評なケースもあるでしょう。また、現場で支持が得られず、結局は新規ツールではなく既存の手法で業務対応を行っているという事態も起こっています。

これらのミスマッチは現場の課題にきちんと目を向けずに、ツールを選んでしまうことに起因しています。ではそうしたズレをなくすためには、どんなことを意識すべきでしょうか。デジタルツールはどんなに多機能だったとしても、使ってもらえなければ宝の持ち腐れです。つまり重視すべきは使いやすさであり、現場で支持される「直感的なUI(ユーザーインターフェース)」を搭載したツールを選定することをおすすめします。

デザイン思考で考えられたUIの強みとは
近年、サイト制作やデジタルツールの活用において見聞きするようになった「UI」という言葉ですが、みなさんはその意味をご存知でしょうか。UIとは「User Interface」の略称であり、利用者と製品・サービスとのインターフェース(接点)のすべてを指します。デジタルツールで考えるならば、画面レイアウトや使用画像、文字フォントなどの「見た目」はもちろん、メニューの配置やボタンの操作性などユーザーにとっての「使いやすさ」がUIに該当します。

UIは無作為に成立したり、偶然に出来が良かったりするものではありません。高品質なUIは、優れた「デザイン思考」によって体系化されます。デザイン思考とは、ユーザー視点に立って製品・サービスの本質を理解し、ビジネスにおける課題解決に導く考え方です。デザイナーがデザインの際に用いるプロセスや情報整理の仕方を、ビジネス上の課題解決のための思考として活用します。

情報処理機構が2021年10月に公開した「DX白書2021」では、デジタル化やDXにおいてデザイン思考が顧客に新しい価値提供をするために有効な手法であると記されています。つまり、デジタルツールにおいても、デザイン思考を基にUIが作られているからこそ、利用者にとっての「使いやすさ」「分かりやすさ」を的確に捉えられると言えるでしょう。

「情報が整理されていて理解しやすい」「使い心地が良く快適だ」「直感的に操作ができる」などの良い経験が得られるデジタルツールも決して偶然の産物ではありません。「ユーザーにとってのツール内での目的達成のプロセスが明確にデザインされていること」がUIにおいては重要なのです。そうしたUIがきちんと設計されていることを「UIデザイン」と呼びます。

Apple、Bloomberg、Lexus、NPRといった大手を顧客とし、ユーザビリティコンサルタントの第一人者として名高いスティーブ・クルーグ氏は、UIデザインにおいて「Don’t make me think(考えさせるな)」の考え方を鉄則としています。つまり、UIデザインは「利用者が頭を悩ませる仕様になっていないこと」が重要であり、従来のアナログプロセスからデジタルに変わった際に「ユーザーが特別な意識をしなくても、やり方が分かること」が第一なのです。

デジタルツール選びはエンドユーザーの理解から
デジタルツール選びで失敗した経験がある企業の中には、「システム管理部門の意見で導入を決めてしまった」「ネームバリューを優先したデジタルツール選びをしてしまった」というケースも多いかもしれません。しかし、導入したデジタルツールを活用するのは、他ならぬエンドユーザーです。現場で実務を担う担当者、意思決定をする管理者ら、実務を遂行するエンドユーザーの業務特性と、エンドユーザーのリテラシーに合わせる必要があります。エンドユーザーが違和感なく使用できるUIデザインを持つツールを選択することが重要です。

現場ではどんなビジネス課題を抱えていて、課題解決のためにはどんな機能が必要なのかなどの意見や事情のヒアリングは、一般的にツールの導入前に行われています。ただし、機能的なニーズを抽出し、それにマッチするだけのツールを導入してしまうと、実務でエンドユーザーが使用した時に混乱を招いたり、新しいプロセスが安定化するのに長い時間がかかってしまったりすることがあります。

誰もが違和感なく、直感的に使えるツールを選択 すれば、ツール導入直後の課題を最小限にし、業務プロセスの停滞を回避できるとともに、短期間で効率化された新プロセスの定着化を実現できるでしょう。ニーズを満たす機能だけでなく、「使いやすさ」「分かりやすさ」についてきちんと意識することが大事です。

大多数の人は、複雑なものよりはシンプルで分かりやすいものを好みます。使用頻度が低い機能まで搭載した複雑で多機能なデジタルツールを導入しても、定着までに時間がかかり、目的とする改革の実現までが遠い道のりになります。商品やサービスの知名度や他社事例などは選択の判断材料としては重要ではありますが、自社のDXの成功を保証するものではありません。

デジタルツールは理解しやすく使いやすいUIデザインを重視したものを選択することが、最もDXの成功の確率を高めると言えるでしょう。そのために、ツール選択の準備段階においては、従来のように利用部門からの要件とツールが提供する機能のマッチングだけを評価軸にすべきではありません。自社の業務やエンドユーザーの状況に合ったUIデザインに対する要件を明確化し、それをツールが満たすかどうかの評価もチェック項目として含めてみてはいかがでしょうか。