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売上アップより大切なこと

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昨年、毎年1,000万円もの経常利益をコンスタントに出していた創業40年以上の会社が私的整理に入りました。倒産です。粉飾決算をしていたわけではありません。社長の報酬は高額でしたが、それでも十分な利益が残っていました。なぜでしょうか?

企業にとって売上アップは最優先課題です。どんな素晴らしい経営理念を掲げても、どんなに世のため人のためになる行動をとったとしても、お客様に商品・サービスを購入していただき、従業員に適正な給料を支払い、事業を継続できるだけの利益が会社に残らなければ意味がありません。

しかし、事業を継続させていくためには、もっと大切なことがあるのです。それは、「稼いだお金を正しく使うこと」です。五角錐経営プログラムで説明しますと、「カネ」→「企業風土」の部分です。

 

 

稼いだお金は、企業風土、すなわち企業の理念に沿って打ち立てられたビジョンを実現するために使われなければなりません。投資のためのルールということです。

例えば、東京に本社を持ち、東日本の住宅販売市場に大きなシェアを持つA社があったとします。A社のビジョンは、二世帯住宅の建築を推進することで日本全国の独居老人を減らし、家族が3世代で仲良く暮らせる町づくりを目指す、というものです。子どものいないお年寄りには、プライバシーを守りながら友人と一緒に住むことのできる共同購入タイプの建物、というコンセプト住宅も用意しています。この場合、A社は稼いだお金を何に投資すべきでしょうか? 答えは、まだ進出できていない西日本に支店を作って、1棟でも多くの二世帯住宅を作り続ける、ということになります。

 

よくある間違ったお金の使い先

「そんなの当たり前じゃないか」と思うかもしれませんが、実際には次のような間違いが起こっています。

ある日、A社の社長が業界誌を読んでいると、「○○大学の研究室が、効率的な太陽光パネルと水洗トイレの水流を活用した水力発電技術を併用し、電気代をゼロにするスーパー省エネ住宅の企画開発に成功した」という記事を見つけました。社長は、「これだ! この技術をわが社で独占できるようにして、マーケットを押さえよう!」と意気込みました。お金は十分にあります。そして、この技術を施策レベルから実用化レベルにするための投資を行う代わりに、この技術を独占的に利用できる権利を獲得しました。

わかりますでしょうか。A社のビジョンと微妙にズレているのです。「お金を稼ぐ」ことがビジョンだとしたら、この意思決定は正しいかもしれません。もしこの投資を行っていなければ、西日本に支店をいくつか設置し、独居老人を100人減らすことができたかもしれないのです。A社の社長は、この機会を先延ばしにしました。

それでも、「新市場を独占して多大な利益を獲得できれば、もっと多くの独居老人を減らすことができるじゃないか」と思われるかもしれません。しかし、ビジョンとズレた投資で成功してしまうと、どんどんズレていくものなのです。脳科学的に分析すれば、「新しいことに気づき、いち早く意思決定をし、多くの利益を得た」という成功(?)により、社長の頭の中に快楽物質(ドーパミン)が放出され、再びこの快楽を求めて新たな技術探しを始めるのです。そして、こうしたズレた行動は大失敗するまで続くのです。

 

稼ぐことより、稼いだあと

 冒頭に紹介した会社も、実はそうでした。社長が事業と関係のない投資を続けた結果、従業員の信用を完全に失ったことが要因でした。稼ぐことよりも、稼いだあとの方が大切です。ナイフを手にしたとき、魚をさばく人がいるかと思えば、他人を傷つけるために使う人も出てきます。この違いは何でしょうか? 何を大切に生きていくのかという理念。どういう人間になろうとしているのかというビジョン。これらの違いです。

よく、マーケティングの世界では、「魚」を与えるのではなく「魚の釣り方」を教えるべきだ、という表現が使われます。しかし、釣った魚を育てて繁殖させられる「生け簀(いけす)」を準備すべきだ、と仰る方がいました。その通りだと思います。そして、その生け簀は、魚が生き生きと過ごせるように、常に清潔に保っておくことが最も大切です。人間で言えば、「頭の中をきれいにしておく」こと、会社で言えば、「社会の役に立つ経営理念とビジョンを明確にし、ブレずに行動する」ことです。でも、なかなか難しいことだと思います。なぜなら、経営者には上司がいないため、自分が気づかないうちにズレ始めても、注意してくれる人がいないからです。

 

経営者がズレないための施策

ここでよく言われるのは、「経営者は傲慢になってはいけない。謙虚になれ」という趣旨のメッセージです。しかし、これは極めて抽象的な言葉ですので、具体的にどうすればいいのかわかりません。そういう場合は、定期的に経営者同士が集まる勉強会を開催し、事例をシェアしていくことをおすすめします。成功事例と失敗事例の分析をし、その本質は何なのかを徹底的に議論してみるのです。その際、自分と違う考え方の経営者の話にしっかりと耳を傾けることが重要です。

こうした軌道修正の機会を設けて他人の意見を聴く習慣をつけていけば、社内から出てくる異なる意見も素直に聴けるようになってきます。そして、素直に聴く、というその態度が、「うちの社長は、ちゃんと部下の意見も聴いてくれる」というイメージになり、「情報」が活性化していくのです。

五角錐経営プログラムの図をもう一度見てみてください。「企業風土」が「ヒト」を大きくし、「情報」を大きくしていくのがわかると思います。

せっかく稼いでも、理念やビジョンがなかったり、曖昧だったり、社会的に不適切なものであったなら何の意味もありません。この機会にもう一度創業時の気持ちに立ちかえり、会社の経営理念、ビジョン、ミッション、行動指針などを見直してみましょう。その先に、明るい未来が見えてくると思います。

 


トレードシフトは、ビジョンに投資する資源を生み出すプラットフォームです。