トレードシフトは、企業版Facebookといわれています。
Facebookは、我々の生活に深く入り込んだ、友だちとの日常をオンラインで実現してくれるプラットフォームです。写真やリンクの共有、そしてメッセージのやりとりで日常を過ごしていきますが、その背後には人と人の巨大なネットワーク、すなわちつながりが可視化されているのです。
トレードシフトは、これの企業版。企業と企業の間違いないネットワークが構築されて、そのつながりがプラットフォーム化されていくのです。
今回は東京・恵比寿にあるトレードシフトを訪ね、日本代表を務める大久保紀章さんにお話を伺いました。
「会社と会社のつながりが希薄で可視化されていませんでした。
担当者ベースでの紹介や、電話、ファックスといった手段が主流です。
トレードシフトは、日本でも、企業間のネットワーク作りに着手していきます。」
「フォーマット」ではなく「データ」やり取りすればいい
——トレードシフトが日本参入で狙っているのはどの分野ですか?
大久保:まずは、電子請求です。
現在、電子請求のサービスは増えつつあります。Money ForwardやFreeeなども参入していますが、企業会計にフォーカスが当てられており、会社間ではなく、社内の業務の最適化を実現しています。
トレードシフトでは、「フォーマット」よりも、「データ」で企業同士が語り合えれば良い、と考えています。
例えばある企業間で、見積書、発注書、納品書、請求書という4通の書類が流通するとします。通常の取引であれば、ここに書かれている内容と金額は一致しており、その都度、郵送や捺印などの業務があり、また多くの場合、双方の企業で発注や会計のシステムへの入力が行われています。発注から納品までの間に数量やスペックの変更があった場合は、それを注意深く反映させなければなりません。ここでも、担当者間のコミュニケーションや、社内での連絡と事務処理が発生します。
もしも、見積書のデータがそのままコピーできて発注書となり、それがそのまま請求書となってオンラインでやり取りできたら、双方の企業の業務が大幅に削減できます。
書類をベースに仕事をしている企業ほど、書類の電子化と社外との共有に効果が上がるのです。
書類の最適化1つで、働き方が変わる?
——とはいえ、書類の電子化だけで働き方がそれほど劇的に変わるものでしょうか。
大久保:発注と請求の仕組みはトレードシフトの数あるアプリの1つですが、それだけでも働き方は変わります。
これまで私も経験してきたことですが、日本の企業では、書類は担当者のデスクのトレーに入り、社内を回っていきます。あるいは、書類をトレーに置いたことを、社内でメールすることすらあります。ITインフラがこれだけ入ってきているのに、いっこうに働き方やワークフローは変わっていないのです。
トレードシフトは、テクノロジーで人々の仕事が変化して欲しい、と考えています。
変更があっても注意深く社内の書類を追跡しなくても良くなるし、その変更も部署横断的に、関わる人全てに伝わるようになります。文書共有とコミュニケーションの時間的なコストが激減するのです。
仕組みが変化することのリスク < 現場の問題解決への意欲
——しかし、保守的な企業では障壁も多いのでは?
大久保:日本企業が長年作り上げてきた、人を介した確実な仕事の仕組みは理解しています。私が経験した大企業でも、確かにミスが起きにくい仕組みを実現していました。そして、その仕組みが変化することに対して、リスクを感じる人も多いでしょう。
社内に導入する際には、担当者、担当部署からの問題解決をしたい、という強い要望が原動力になることが多いです。
例えば、物流会社の近鉄エクスプレスでは、海上コンテナの陸送にかかわる、運送指示に関するFAXの往復とシステムへの手入力、コミュニケーションをすぐにでもやめて、効率化したい、と考えていました。
そこで近鉄エクスプレスがトレードシフトを導入し、運送を発注する配送会社にも導入してもらうことで、配送指示からFAXが排除されました。一方配送会社側も、配送指示書からそのまま請求書に変換して返送できるようになりました。
運送依頼書の電子化が簡単に始められます。
http://www.tradeshift.jp/products/eForwardingInstruction/
企業の信頼がプラットフォームで担保される
——トレードシフト導入で拡がるメリットは何でしょうか?
大久保:大企業が導入して取引を効率化することで、トレードシフトの導入が拡がっていくことに期待しています。例えば北欧の大手物流会社ではサプライチェーンに対してトレードシフトでの取引に移行しました。これにより、サプライチェーンファイナンスの可能性が広がりました。シティバンクと取引企業の3社間取引をトレードシフトで行うことで、同社が承認した請求書をシティバンクが早期支払いする仕組みを実現しています。
この事例は、トレードシフトが企業間の信頼性や取引実績を参照するプラットフォームとして作用した、面白い事例と言えるでしょう。
日本企業でも、ある大手金融企業では、グローバル化する支店間でのタイムラグの軽減と、これによるバランスシートの整合性の確保があります。また、大手半導体メーカーでは、自社製品のカタログをトレードシフト上に展開する目的で導入しました。
アプリによって「会社のユーザビリティ」を上げる
——これからどのようなアプリが出てくるのでしょうか?
大久保:これからのスピードが重視されるビジネスにおいては、国内においても、国外との取引でも、その「会社のユーザビリティ」、つまり企業の接しやすさ、取引のしやすさが重要になってきます。
お互いにトレードシフト上での取引が拡がることで、会社のユーザビリティは格段に上がります。
プラットフォーム上のアプリを用いることで、できる業務も拡がっていきます。これは、会社間だけでなく、前述の日本の金融会社のように、社内での業務効率化の効果も期待できるのです。
最近トレードシフトでは、チャットで出張の手配をしてくれるハイパートラベル社を買収しました。これにより、例えば「スターアライアンス系で、ロサンゼルスからニューヨークへ飛び、ホテルは4スター以上、500ドル以下で」と書き込んで手配ができます。
チャットの仕組みは、出張手配だけでなく、例えば将来的にはイレギュラーな購買やイベント手配などにも利用できるでしょう。
企業がつながることで働く人がメリットを得る
——日本において働き方はどのように変わっていくでしょうか。
大久保:トレードシフトは、モバイル、ペーパーレス、リアルタイム、という働き方のプラットフォームです。
もしも書類の作成や処理で残業をしている、さらにはマネジメント側で本来やるべき競争力を高め、売上をアップする働きに時間がとれないのであれば、トレードシフトは、力になれると思います。
企業間同士がプラットフォーム上でつながることで、働く人がメリットを得られるのです。そうしたメッセージを、今後も拡げていきたいと思います。
効率性を継続的に作り出す働き方へ
オンラインのシステムやクラウドベースのシステムを導入するにあたって焦点が当たるのは、効率化や最適化です。ただし、「時間や工数を減らすこと」と、「信頼性や仕事のていねいさが損なわれること」とは、同義ではないということです。むしろ、テクノロジーはこれを両立できる仕組みを備えて余りあることを表しています。すべてのクラウドシステムが万能とは言えませんが、自分たちの業務を見直したり、問題解決を行うきっかけとして効果的なのです。
例えば、皆さんが当たり前のように、日々、社内のチームで毎朝ミーティングをしたり、業務報告のメールを書いたり、書類を机の上に置いて、置いたことを電話する、といった挙動の1つ1つ。これらはコミュニケーションにも分類され、働く人同士を結びつける意味合いも大切にされます。そうした暖かみのある解釈の裏で、時間を消費している「作業」でもあるのです。
業務上のやりとりから、紙の書類や個別の連絡を廃すことで、時間の節約と確実性が生まれます。これは、ワークフローがシステムに乗るため、流動的な人材市場の中でも、研修のコストを押し下げ、すぐに戦力として活躍する、そんな働く人々のためのインフラとなるのです。
トレードシフトは、これを社内だけでなく、企業間で実現している点、そしてできることがアプリで増えていく点が、モダンで継続的な業務効率化を実現するプラットフォームと評価できるのです。
それでは今回はこの辺で。また次回お会いしましょう。
松村太郎でした。